アルフォンソ・キュアロン 『ゼロ・グラビティ』 とにかくすごい!!

 監督・脚本には『天国の口、終りの楽園。』『トゥモロー・ワールド』のアルフォンソ・キュアロン。出演はサンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーのふたりのみ。しかもクルーニーはワンシーンしかまともに顔が映らないという助演的な扱い。あとはほとんどサンドラ・ブロックのひとり舞台だった。

アルフォンソ・キュアロン 『ゼロ・グラビティ』 この場面もどこかへその緒の付いた胎児を思わせる

 すごい!! それしか言葉が見つからないくらい。
 『ゼロ・グラビティ』は映画だけれど、どこかの遊園地のアトラクションなみにスリル満点で、本当の宇宙体験をしたかのような感覚を味わえる作品だ。それは3D映画のご意見番キャメロンも絶賛する、革新的な3D作品となっているからだろう。
 無重力状態での活劇はどうやって撮影したのかわからないが、CGだとしてもそれを感じさせない。『ライフ・オブ・パイ』では海を舞台に3Dをうまく利用していた。この『ゼロ・グラビティ』の舞台は宇宙であり、空気がないためどこまでも先が見渡せ、上下が無意味になる無重力空間だ。そんな舞台ではより一層3Dの効果が際立つように思えた。観客に向かって飛んでくる人工衛星の破片は、3D映画のお約束だけれどやはり楽しい。

『ゼロ・グラビティ』 美しい映像。しかし一体どうやって撮影したのか?

 キュアロン監督はここぞという時に長回しを使う。『トゥモロー・ワールド』でのジュリアン・ムーアが殺される襲撃シーン。これにはどうやって撮影したのかと驚かされた。『天国の口、終わりの楽園。』では3人のダンスシーン。音楽と酒と年上の人妻にのせられた悪ガキふたりが、男同士でなぜかキスしてしまう(翌日には吐くのだが)。そんな場の雰囲気を長回しが醸成していた。キュアロンはあるインタビュー「人物と環境の関係をリアルタイムで描きたいときに」長回しになると語っている。カットを割らずに対象を捉え続けるから、そこには臨場感が生まれるのだ。
 この『ゼロ・グラビティ』もそんな長回しから始まる。
 眼下に広がる青い地球。暗い闇のなかから宇宙船らしきものがゆっくりと現れる。それはハッブル望遠鏡で、宇宙飛行士たちはその修理の任務に当たっている。マット(ジョージ・クルーニー)はその周囲を遊泳しながら地上との無駄話を楽しみ、ライアン(サンドラ・ブロック)はせっせとその修理に勤しんでいる。ふたりの会話でベテランのライアンと新人マットの関係を素描しながら、無重力空間での日常を垣間見せる。そして、突然の緊急事態の発生。爆破された人工衛星の破片が飛散して大惨事となるのだ。ここまで15分くらいだろうか。それをワンカットで見せてしまう力技だ。(*1)
 美しい宇宙の姿から、突然牙を向く無重力の世界へ。この冒頭でそんな変化をまざまざと見せつける。宇宙から見た地球の美しさ、その向こうに広がる漆黒の静けさをゆっくりと捉えつつ、さらに上下のない無重力空間を遊泳する宇宙飛行士たちをカメラが自由自在に撮り、観客も宇宙遊泳しているような感覚に誘うのだ。そして、アクシデント以降は危機また危機の連続で、最後まで片時も目を離すことができない。91分という上映時間はあっという間だが、緊張の連続で観終わった後には身体が強張るほどだった。
 『2001年宇宙の旅』では、宇宙飛行士が暗い宇宙空間に放り出されたシーンが恐ろしかった。『ゼロ・グラビティ』はそんな人間の恐怖を描くわけだが、哲学的で観客を選ぶであろう『2001年宇宙の旅』とはまったく違い、サスペンスの連続というハリウッドらしい娯楽作品に仕上がっている。

『ゼロ・グラビティ』 主演のサンドラ・ブロック。羊水に浮かぶ胎児のように見える。

 キュアロンはあるインタビューでは、「本作は、「逆境をくぐり抜けて再生する」という普遍的なテーマを描いた作品です。」と語っている。この映画でサンドラ・ブロック演じるライアン・ストーン博士は娘を失った女性で、生きる意味を失っている部分もある。そんなライアンが放り出された宇宙から宇宙船内に逃げ込んだ場面、宙に浮いた彼女の姿は胎児のようだ。お腹のあたりからはへその緒のようなものが延びている。また、宇宙船内の狭い通路は産道を思わせなくもない。このイメージは最後の場面に結び付く。
 何度も助けられたマットを失い、ひとり取り残されたライアンは死を覚悟する。(*2)しかし奇想天外なことが起り、再び生きる意志を取り戻し、奇跡的に地球に帰還するのだ。そして水のなかから這い上がったライアンは、重力を感じながら子供のようによちよちと歩き出す。この映画は、生きる意味を失いかけていたライアンが再び生まれること――再生(rebirth)を描いた物語なのだ。
 とは言っても、そのテーマは映画の物語のなかにうまく溶け込んでいて、ハラハラドキドキの楽しみを奪うようなものではない。さりげなくそんな普遍的なテーマも盛り込んでいるのだ。そのあたりも娯楽作としてよく出来ている。

(*1) 私はこういうこれ見よがしなところが大好きだ。「こんなこともできるんだよ」とでも言っているキュアロンの誇らしげな顔が目に浮かぶ。

(*2) そのときたまたま無線がつながった相手とのやととりがショート・ムービーになっている。このショート・ムービーの監督は、『ゼロ・グラビティ』で脚本を担当したホナス・キュアロン。アルフォンソ・キュアロンの息子さんのようだ。

 ↓ これがそのショート・ムービー(本編を観てない人にはネタバレです)




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Date: 2013.12.16 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (1)

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>>ゼロ・グラビティ from 象のロケット
新人宇宙飛行士の女性ライアン・ストーン博士は、ベテラン男性宇宙飛行士マット・コワルスキーのサポートのもと、スペースシャトルの船外でミッションを遂行していた。 そこへ、破壊された人工衛星の大きな破片がいくつも猛スピードでぶつかって来た。 その衝撃で、2人は無重力空間(ゼロ・グラビティ)に放り出されてしまうのだが…。 SFスリラー。 ≪地球の上空60万メートル。 気圧もない。 酸素もない。 宇宙... >READ

2013.12.19

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