『ウォールフラワー』 まぶしいくらいの青春

 原作『The Perks of Being a Wallflower』は『ライ麦畑でつかまえて』の再来とか言われる小説だとか。この映画版『ウォールフラワー』も原作者スティーブン・チョボスキーが監督を務めている。出演はローガン・ラーマン、エマ・ワトソン、エズラ・ミラーなど。

『ウォールフラワー』 主役の3人。左からエズラ・ミラー、エマ・ワトソン、ローガン・ラーマン。

 一言で感想を済ませば、あまりノレなかった。それは『ライ麦畑』が描いたような瑞々しい感性を自分のものと引き受けるほど若くはないこともあるが、妙に都合のいい話に思えたからだ。ローガン・ラーマン演じるチャーリーは内気な青年だが、サム(エマ・ワトソン)とパトリック(エズラ・ミラー)に出会ってからは、彼らのおかげで誰もが得られるわけではないような充実した高校生活になるのだ。内気な青年が上級生に自分から声をかけるのも意外だけど、受け入れるサムとパトリックもチャーリー対しての思いやりに溢れている。世の中があんな善意に満ちた人ばかりだったらいいとは思うのだけれど……。
 主役の3人はとてもよかったと思う。『少年は残酷な弓を射る』のエズラ・ミラーはあやしい存在感があるし、『ハリー・ポッター』シリーズのエマ・ワトソンはちょっぴり大人になった。トビー・マグワイア似のローガン・ラーマンは内気な青年がよく似合っていた。

 『ウォールフラワー』に描かれる時代は、テープをダビングしてオリジナルテープを作ったりするころだ。「Come On Eileen」にのせてのダンスは楽しいし、個人的にはCrowded Houseの「Don't dream It's over」がとても懐かしかった。ただ、キネマ旬報ではある評者が、ザ・スミスを愛する人がボウイの「Heroes」を知らないってことが腑に落ちないみたいなことを記していて、たしかに恣意的ではあるとは思う。そのデタラメさはセンスのよさを誇るような印象でもあるのだが、それが若さに特有のイタイ感じを出しているのか、はたまた本気なのかは測りかねた。

※ 以下、ネタバレあり。



『ウォールフラワー』 ピックアップ・トラックの上で無限を感じる瞬間。

 チャーリーは高校入学前に病気で入院していたことになっている。これは精神的なもので、友人の自殺がその原因のように描かれている(実はほかにも原因がある)。病気がひどいときは幻覚が生じるようなのだが、とりあえずサムとパトリックと出会うことで気持ちも安定し緩解期にある。
 青春時代が苦痛に満ちていなくてもいいのだけれど、この映画では病気など忘れたように高校生活を満喫することになる。3人で車に乗って、カーラジオから素晴らしい音楽が流れ出すと、そこに“無限”を見出してしまう、そんな絵に描いたような青春なのだ。(*1)
 それなりに年齢も重ねまっとうにひねくれた観客としては、映画のなかの青春の輝きに目が眩みそうでなかばうんざりしていたのだが、ラストでは隠されていた事実が明らかになる。ただ、ここの描き方はかなり曖昧であっさりとしすぎているため、全体としてはトラウマよりもそれを乗り越えた輝きばかりが残る。
 チャーリーが慕っていた叔母は交通事故で亡くなるのだが、チャーリーはそれを自分のせいだと考え、それがトラウマになっている。というのは、チャーリーは叔母の死をどこかで望んでいて、それはなぜかと言えば、叔母はチャーリーに性的虐待をしていたからだ。自分がされていることがわからないくらいの子供のころの話だけれど、サムとの初めての性的な接触でそのことに気がつくのだ。
 この映画は、誰かに向けたチャーリーの手紙から始まっている。その相手も不明なのだが、そこに書かれた内容も、相手の存在が疑われるのと同様に疑わしいように思えてくる。誰にも気がつかれない“壁の花”だったチャーリーが急に友達を得て、エマ・ワトソンみたいな素敵な女の子ともキスをして、仲間を助けるために一瞬にしてアメフト選手たちをのしてしまう。ひどく妄想的な展開じゃないだろうか。それとも映画全体がチャーリーの幻覚だったということだろうか。

(*1) 映画のあとに原作を読んだのだが、トンネルの歌(「Heroes」)については、名前は伏せるという配慮がなされている。それはチャーリーたち三人が、あの瞬間だけにしか感じられなかった感覚だからだ。
 カフェテリアでの乱闘は、小説ではそれなりの説明がなされている。チャーリーの兄と父親は誰にも負けないくらいケンカが強いらしい。また、チャーリーの病気には「受動攻撃性人格」などという名前も与えられている。


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Perks of Being a Wallflower

  ↑ これはサントラ。
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Date: 2013.12.08 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (2)

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>>ウォールフラワー from 象のロケット
小説家志望の少年チャーリーは、高校入学初日に自分がスクールカースト(生徒間の人気格付け)の最下層に位置付けられていることを自覚する。 だが、息を潜めて毎日を過ごしていた彼の生活は、陽気でクレイジーな兄パトリック、美しく奔放な妹サムという兄妹との出逢いにより一変した。 初めて知る友情と恋。 チャーリーの世界は無限に広がっていくように思えたのだが…。 青春ドラマ。 >READ

2013.12.10

>>[洋画] 日本の青春ドラマとはだいぶ違う。「ウォールフラワー」 from 窓の向こうに
観ようかと思っていて観そびれた映画。観る機会は何度かあったのだが、プライオリティを考慮して切り捨てた作品、と言った方が適当か。その後、青春映画の傑作の呼び声高く、気になっていたところ、下高井戸で上映していることがわかったため、駆け付けた。 題名ウォールフ >READ

2014.05.06

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