リドリー・スコット監督 『悪の法則』 彼らは何に追われているのか?

 リドリー・スコット監督の最新作。出演にはマイケル・ファスベンダー、キャメロン・ディアス、ハビエル・バルデム、ブラッド・ピット、ペネロペ・クルスなど大物がずらりと顔を揃えた。脚本には『ノーカントリー』の原作でも知られるコーマック・マッカーシー

リドリー・スコット監督 『悪の法則』 豪華キャストの共演でも話題

 やばいビジネスには危険がつきもの。そんなことは登場人物の誰もが認識していることだ。図らずも麻薬組織を出し抜いた形になってしまった弁護士たちには、もう選択の余地はない。“死”の予兆が漂う前半の思わせぶりな会話劇でも、登場人物たちは盛んに警告していた。麻薬組織の真の怖さを伝えるべくボリートという暗殺機械や殺人映画(スナッフ・フィルム)という都市伝説みたいな話が登場するし、「そのうち道徳的な決断を迫られるときがくる」などと親切にも言ってくれているのだが、弁護士たちは後戻りするわけではない。
 麻薬組織と弁護士たちの関係は、チーターとウサギの関係と同じだ。チーターが獲物のウサギを狩るように、麻薬組織は裏切り者たちを狩ることになる。それは“悪の法則”というよりも、世界のあり方そのものと言えるかもしれない。脚本を担当したマッカーシーはインタビューでこう語っているそうだ(映画公開に先駆けて発売になった脚本の「訳者あとがき」から)。

「流血のない生などない。人類はある種の進歩をとげて、みんなで仲良く暮らせるようになり得るという考えは本当に危険だと思う。そんな考えに取り憑かれた人たちはさっさと自分の魂と自由を捨ててしまう連中だ。そういうことを望む人間は奴隷になり、命を空虚なものにしてしまうだろう」


 翻訳者の黒原敏行はこんな考えを“流血のある生の肯定”と記している。“流血のある生”が望ましいあり方とも思えないが、マッカーシーの考えでは世界はそんなふうに厳しくて残酷なものとして存在しているということだろう。

 ※ 以下、ネタバレもあり。


『悪の法則』 キャメロン・ディアス演じるマルキナ。背中にはタトゥーが。

 『悪の法則』の5人の重要な登場人物のなかで、チーターの位置を占めるのはマルキナ(キャメロン・ディアス)だ。マルキナは2匹のチーターが獲物を追って駆け巡る姿を愛しそうに見守り、自分の背中にはチーター柄(?)のタトゥーを施している。実はマルキナが麻薬組織を裏で操っているわけだが、そのマルキナですら最後には「これからの戦いは熾烈を極めるわ」などと不穏な言葉を漏らす(かと言ってマルキナはそれを恐れるふうもなく、「お腹ペコペコ」とやる気満々なのだが)。
 なぜ捕食者であり、勝ち残ったマルキナが、そんな言葉を漏らすのか。それはチーターでさえも負けるのは必然だということだ(実際に2匹のチーターのうち、1匹は死んだと語られている)。なぜ負けるかと言えば、それは生きとし生けるものに“死”が訪れるからだ。ウサギも、チータも、人間も等しく死ぬ。だから負けは決まっている。この映画で麻薬組織という残虐極まりない存在が象徴しているのは、“死”そのものの姿なのだと思う。
 『ノーカントリー』の暗殺者にはハビエル・バルデムが演じたアントン・シガーというユニークな顔があったが、『悪の法則』の暗殺者は無個性だ。マルキナが裏にいるのはわかるけれど、それで組織の全体像が把握されるわけでもない。顔の見えない暗殺者たちはどこからともなく現れて消える。“死”がそうしたものとしてあるように。裏切り者とされた弁護士たちは繰り返される警告で危険を承知していたが、それを活かすことはできない。ライナー(バルデム)は「悪いことなど起きない」と思いたがっているし、ウェストリー(ブラット・ピット)は自分だけはバカじゃないとうぬぼれて墓穴を掘る。ローラ(ペネロペ・クルス)に至っては何が起きているのかもわからない。そんなローラと生きることがすべてだった弁護士(マイケル・ファスベンダー)にとっては、生き残ってしまったことは死よりも始末が悪いと言えるかもしれない。

 監督のリドリー・スコットは、この映画の撮影中に弟のトニー・スコットの自殺という出来事に見舞われた。撮影はしばらく中断したようだ。リドリー自身はそのことについて語ってはいない。しかし、その事実を知っていると、この映画には“死”の色合いが濃く流れているように思える。
 『悪の法則』ではマルキナが「懐かしむというのは、失ったものが戻ることを期待することよ」とつぶやくのだが、それは不可能だと否定する。また、追い詰められた弁護士が誰かと交わす会話では、人生の選択の不可逆性が示される。亡くなった人は戻らないし、人生の選択をやり直すことも不可能。ただ受け入れるしかない。もちろんこれはマッカーシーの書いた脚本に基づいているのだが、リドリーがトニーに向けて贈った映画のようにも感じられた。チーターがウサギを襲うのが自然なように、世界は人を飲み込んでいく。トニー・スコットも何だか訳のわからないものに飲み込まれてしまった。
 リドリー・スコットは映像表現に優れた監督だ。前作『プロメテウス』は褒められたものではなかったが、それでも新たな世界の造形などには見るべきものがあった。この映画では派手な絵はなく、大部分は会話劇となっているからか、いまひとつ評判はよくないようだ。たしかに楽しい映画ではない。“死”の予兆に満ちて、ユーモアのかけらもない暗い映画だが、私はその圧倒的な暗さに慄然とした。

 ↓ これは映画の公開に先駆けて発売された脚本。

悪の法則


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Date: 2013.11.23 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (2)

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2015.04.10

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