マイケル・ウィンターボトム監督 『いとしきエブリデイ』 幸福の原風景

 マイケル・ウィンターボトム監督の最新作。出演は『ひかりのまち』にも出演していたシャーリー・ヘンダーソンジョン・シム。ステファニー、ロバート、ショーン、カトリーナ役の子どもたちは素人で、実の4兄妹とのこと。音楽はマイケル・ナイマンが担当し、『ひかりのまち』以来のウィンターボトムとのタッグとなる。

ウィンターボトム監督 『いとしきエブリデイ』 家族で海へと向かうラストシーン

 ウィンターボトムは多作で、作品のジャンルも様々だ。『日蔭のふたり』『めぐり逢う大地』『トリシュナ』のトマス・ハーディの文芸作品の映画化から、『グアンタナモ、僕達が見た真実』『イン・ディス・ワールド』『マイティ・ハート/愛と絆』のような事実をもとにした社会派もの、『CODE46』ではSFにも挑戦し、『9 Songs ナイン・ソングス』みたいな音楽とセックスばかりの映画もある。『バタフライ・キス』『ひかりのまち』もいいのだけれど、マイ・フェイバリットを選べば『アイ・ウォント・ユー』になるかもしれない。(*1)フィルモグラフィを見るととりとめのない印象だし、その撮り方も一定のスタイルというものを感じさせないから、ひとりの映画監督によるものとは思えないくらいだ。この『いとしきエブリデイ』も、今までの作品とは毛色が違うものになっていると思う。

 ウィンターボトムが『いとしきエブリデイ』と対になる作品と位置づける『ひかりのまち』では、ロンドンという都会を舞台にした家族の物語だった。ウィンターボトムはあるインタビューで『ひかりのまち』の家族を“拡大家族”と呼んでいる。家族のあり方は“生育家族”と“創設家族”の二つに分類できる。“生育家族”とは自分が生まれ育った家族のことであり、“創設家族”とは自分でつくっていく家族ということだ(この分類は見方の違いに過ぎないもので、親から見れば自分の家族は“創設家族”だが、子どもからすれば“生育家族”となる)。『ひかりのまち』では“生育家族”を巣立っていった4人の子どもたちが、それぞれに“創設家族”を構成することになるが、4人の子どもたちとその両親は離れていても“拡大家族”としてゆるやかに結びついていた。
 最新作『いとしきエブリデイ』では、ノーフォークという田舎に暮らす“創設家族”の姿が描かれる。ここでも子どもたちは4人だがまだまだ幼く、彼らが巣立つまでにはまだ時間がある。密接に結びつくはずの“創設家族”だが、父親の姿はない。父親は服役中の身で、母親がひとりで4人の幼い子どもたちを育てているのだ。
 この映画では劇的な事件などまったくない。母親は子どもたちを起こしてシリアルなんかを食べさせ、4人は連れ立ってバスルームで歯を磨き、バスに乗って学校へ通う。たまには父親のいる刑務所へ電車を乗り継いで向かい、面会室で短い団欒のときを過ごす。ただそれだけの映画だ。
 日々の生活はそれほど劇的なものではないのが通常だから、平穏無事な生活はともすれば退屈を生み、惰性で日々を過ごしがちだ。しかし服役中の父親にとっては、事情が違う。家族と触れ合える面会日や仮出所の日は、ごく普通であるからこそかけがえのない時間だ。父親は5年間も家を不在にせざるを得ない。その間も子どもたちは成長する。それぞれ8歳、6歳、4歳、3歳だった彼(女)らも、5つも歳を重ねることになれば見違えるほど大きくなる。父親はそんな成長の過程を丹念には見られない分、彼にとって平凡な毎日ほどいとしい時間はないのかもしれない。

『いとしきエブリデイ』 かわいらしい次男のショーン君は主役みたいなものだった

 イギリスの空はいつもどんよりしていて季節感にも欠け、時間の経過はあまりはっきりしない。ただ子どもたちの成長は明らかだ。最初に登場したときはおしゃぶりをくわえていたショーンも、父親の悪口を言われてけんかをするまでになる。長男のロバートは急に大人びてきて、家族との生活が退屈なのかちょっと距離を置くような雰囲気もある。ウィンターボトムは5年間の長きに渡ってこの映画を撮り続けてきた。もちろんその間には別の映画も公開されているのだが、1年に2回ほどは『いとしきエブリデイ』のために撮影を行い、子どもたちの成長をそのまま記録したような貴重な映画をつくりあげた。あざとい印象ばかりが残るプロの子役とは違い、この映画の4人の子どもたちの表情はいかにも自然で演技というものを感じさせない。ラストでは家族全員が揃って海へと歩いていく。何気ないシーンだがこの映画に描かれた家族にとっては、この時間が幸福の原風景となるのだろうと感じさせる。
 ノーフォークの美しい風景を絵画のように切り取った映像をバックに、マイケル・ナイマンのシンプルな音楽が流れる。ただそれだけでもいつまでも観続けていたい気になる。大きな感動とはちょっと違うのだが、とてもいとしい作品であることは間違いない。

(*1) エルビス・コステロの歌う「アイ・ウォント・ユー」が耳に残る『アイ・ウォント・ユー』は、キェシロフスキ作品などでも有名なスワヴォミール・イジャックの撮影も見事だった。『いとしきエブリデイ』のようにドキュメンタリー・タッチの映像も多いウィンターボトム作品だが、『アイ・ウォント・ユー』ではカメラにフィルターをかけた凝った映像を見せている。

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Date: 2013.11.17 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (0)

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