『シュガーマン 奇跡に愛された男』 奇跡よりもロドリゲスの歌に酔いしれる

 アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞の受賞作。監督のマリク・ベンジェルールはスウェーデン・ストックホルムを中心にドキュメンタリーを製作している。原題は「Searching for Sugar Man」。

『シュガーマン 奇跡に愛された男』 「シュガーマン」を歌ったシクスト・ロドリゲス

 南アフリカにシーガーマンという男性がいた。彼のあだ名は“シュガーマン”だった。略して“シュガー”。南アフリカでは誰でも知っている歌の題名「シュガーマン」が、彼のあだ名の由来だ。シーガーマンは、その大ヒット曲を歌うロドリゲスについて何も知らないということに疑問を抱く。南アフリカでは、ロドリゲスはステージ上で拳銃自殺を図ったという都市伝説が語られ、幻のような存在だったのだ。シーガーマンはシュガーマン探しを開始する。シーガーマンやその他の仲間は、ようやくロドリゲスを見つける。ロドリゲスはアメリカのデトロイトで未だ健在だったのだ。

 アーティストが海外で先に認められることはそれほど珍しいわけじゃない。たとえば日本なら少年ナイフとか。もちろん少年ナイフは自分たちが海外で認められたことを知っている。この映画で奇妙なのは、ヒット曲を作詞・作曲したロドリゲス本人が南アフリカでの盛り上がりをまったく知らなかったことだ。もちろん、かの時代は今のようなIT社会でもないから事情は異なるが、やはりこれは奇妙なことだ。南アフリカではローリング・ストーンズよりも有名だったとされながらも、ロドリゲスは南アフリカでのブレイクを知ることなく、『コールド・ファクト』『カミング・フロム・リアリティー』という2枚のアルバムだけを残して音楽業界から去った。
 ロドリゲスの音楽業界での活躍は69~70年ころ。70年代の中頃、南アフリカでは「エスタブリッシュメント・ブルース」などの反体制的なロドリゲスの歌詞が、アパルトヘイトへの抵抗として受け止められて大ヒットを飛ばす。90年代になってようやくファンにより南アフリカから発見され、南アフリカで奇跡のようなライヴをするのは1998年(エルビスが蘇ったみたいな騒ぎに)。この間、およそ30年だ。2012年にこの映画『シュガーマン 奇跡に愛された男』が公開され、サンダンス映画際やアカデミー賞で様々な賞を獲得。世界的な名声を得ることになったが、今もデトロイトで質素な生活をしている。



 映画が始まって半分あたりでようやくロドリゲス本人が姿を現すことになるが、彼は哲学者とか老賢人みたいな雰囲気を漂わせている。映画のなかで語られるように、このロドリゲス探しで主人公的な役割を担ったシーガーマンは、いつの間にかレコード屋を経営することになるし、ロドリゲスの娘は南アフリカの男性と結婚することになる。誰もがみんな変っていくなか、ロドリゲス本人だけは何も変らずにいる。彼はアメリカではアーティストとしての成功には至らなかったが、腐ることもなく真っ直ぐに生きていた。
 ドキュメンタリーとして衝撃的な事実が明らかにされるわけではない(ロドリゲスが知らない間に海外でスターだった以外は)。南アフリカでの金の流れにはあやしい部分もあるが、この映画はそこに深く突っ込まない。あくまでも主題は埋もれてしまったはずのロドリゲスというアーティストの発見にある。

 ロドリゲスはインタビューでこんなことを語っている。

ディランのヴォーカルには、聴いたらそれと直ぐわかるシグネチャーがある。ロッド・スチュワート、ミック・ジャガー、みんなヴォーカル・シグネチャーを持っている。ヴォーカル・シグネチャーを生み出せたら、アーティストはアーティストとして、ある地点に到達したと言えると思う。


 ロドリゲスはその音楽性からボブ・ディランと比較されることも多いようだが、ロドリゲスの声にもボブ・ディランとは違う独特のシグネチャーがある。アルバムを聴くとそれぞれの曲の完成度は高いし、スタジオでのアレンジなどにも力が入っている印象を受ける(素人考えだけれど)。業界での評価もよかったし、周囲の期待も高かったようなのだが、タイミングが悪かったのか、周囲の敵が凄すぎたのか、とにかく売れなかった。実際にはそういう不遇なアーティストは多いのかもしれない。ひとりのスターの陰には幾千の埋もれていった才能があるのかもしれない。しかし、ロドリゲスは30年の年月と大西洋を越えたまったく知らない場所から奇跡のような復活を果たした。その足跡を辿るというだけでこの映画には観る価値があったと思うし、何より彼の音楽を聴くことには感動がある。


 ↑ なぜかベルイマンの『不良少女モニカ』に合わせてのロドリゲス

シュガーマン 奇跡に愛された男 DVD


シュガーマン 奇跡に愛された男 オリジナル・サウンドトラック


Cold Fact


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Date: 2013.10.24 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (0)

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