『ペーパーボーイ 真夏の引力』 変態たちのひと夏の経験とこの映画のいびつさ

 監督は『プレシャス』の成功でちょっと脚光を浴びたリー・ダニエルズ。出演はザック・エフロン、ニコール・キッドマン、マシュー・マコノヒー、ジョン・キューザックなど主役級が集まっている。

リー・ダニエルズ監督『ペーパーボーイ 真夏の引力』 懐かしい感じの映像がいい


 物語は死刑囚ヒラリー(ジョン・キューザック)の冤罪疑惑から始まる。新聞記者ウォード(マシュー・マコノヒー)はその疑惑を追って、新聞配達ペーパーボーイをしている弟ジャック(ザック・エフロン)がいる地元に帰ってくる。そこへ死刑囚ヒラリーと手紙のやりとりなどを交わして婚約したという女シャーロット(ニコール・キッドマン)が現れる。果たしてヒラリーは無実なのか? 一方で、ジャックはシャーロットに夢中になるが……。


 物語の発端をまとめればこんなふうになるが、これにあまり意味はない。監督のリー・ダニエルズは物語を伝えることがヘタなんだと思うが、『ペーパーボーイ 真夏の引力』も物語を追ったとしてもよくわからないだろう。
 リー・ダニエルズの出世作である『プレシャス』は一部では評価されたようだ。しかし誰にでも明らかだと思うが『プレシャス』のよかった点は本筋のプレシャスのエピソードではなく(こちらはほとんど退屈)、プレシャスを虐待する母親が漏らす告白の部分なのだ。作品の意図としては、劣悪な環境に生きるプレシャスが教育を通して希望を見出す姿を描くことに主眼があったはずだ。それなのに母親役を演じてアカデミー助演女優賞を獲得したモニークの素晴らしさもあって、虐待する側の複雑な感情のほうが観る者に訴えかけてしまうという妙な映画になっているのだ。
 この『ペーパーボーイ』にもそうしたいびつな部分がある(この監督の味なのかもしれない)。死刑囚の冤罪だとか、ジャックのひと夏の恋とか、黒人への人種差別とか、そんな筋は途中からどうでもよくなっていく。この物語自体は、成長したジャックが過去を振り返って小説に記したものだ。(*1)ジャックは「あの夏の出来事をまだ整理できない」など語るのだが、映画を観終わった客も同じ気持ちになるんじゃないだろうか。筋はそっちのけで変なキャラクターたちを描くほうへ焦点が移行してしまうからだ。


※ 以下、ネタバレあり。


『ペーパーボーイ 真夏の引力』 面会室でのニコール・キッドマンの大股開き


 『ペーパーボーイ』の登場人物はいちいち癇に障るようなキャラクターばかりだ。舞台は1969年のフロリダで、夏の暑さが伝わってくるような映像はとてもいいのだが、キャラクターたちの暑苦しさと相まって映画そのものもうっとうしい印象だ。フロリダのイメージといえば雨の降らないピーカンの天気だが、死刑囚ヒラリーの住む沼沢地はそんなイメージを覆すような恐ろしい場所だ。アメリカにもこんな場所があったのかと驚かせる。ワニやヘビが当たり前のように顔を出し、ほとんどアマゾンの奥地のようにしか見えない。そこに住んでいる人間たちもどこかの部族民みたいに見える。
 4人の主役たちは、そんなキャラのなかでもさらに際立っている。ジョン・キューザックの今までにない悪役ぶりもよかったし、年増好きのチェリーボーイ=ザック・エフロンはどこか古臭いイメージもあるようで、アラン・ドロンみたいな青い目が印象的。
 また、“ビッチ”キャラを嬉々として演じるニコール・キッドマンも頑張っている。刑務所の面会室で大股開きをやってのけたり、放尿シーンなんかもある。ラストではヒラリーに殺されてしまうが、イスに座ったまま足も口もだらしなく開いたまま死んでいるのはダッチワイフに見える(ヒラリーは彼女をバービー人形扱いしていたし、意図的なものと思える)。ニコールの役はビッチとして登場し、ダッチワイフへとさらに堕ちていくのだから、その頑張り具合もわかるというものだろう。
 久しぶりに見て驚いたのはマシュー・マコノヒー。かなりの二枚目としてデビューしたはずだが、いつの間にこんな役をやる役者になったのか。二枚目ぶりは変わらないが、途中で明らかになるウォードの性癖にはちょっと驚く。黒人好きのゲイで、しかも超ド級のMなのだ。この映画の見所はマシュー・マコノヒーのやられっぷりにあると言ってのけることもできるだろう。
 しかし、それぞれのキャラは立っていても、『プレシャス』での母親の告白ほどに迫ってくるものはなかった(特段『プレシャス』自体を褒めるつもりもないが)。どのキャラクターもそれなりに変態チックで退屈することもないのだが、まったく共感することもできないし、ジャックではないけれどもこの映画をどう整理していいのか困惑するような感じも残るのだ。

(*1) ちなみに映画では、ジャックを育てた黒人メイドであるアニタが、この原作小説について語るという枠組になっている。なぜかアニタは自分が体験したこと以外の、たとえばジャックとシャーロットとのベッドシーンにまでナレーションで説明を加えようとする。このナレーションがうるさすぎるきらいはあるし、ジャックとアニタの信頼関係はわかるとしても、なぜこの原作小説が黒人のアニタに捧げられるのかは映画を観る限りではわからない(アニタのキャラは唯一まともな存在ではあるにしても)。監督のリー・ダニエルズが黒人だからかもしれないが、やはりどこかいびつなところがある。

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Date: 2013.08.06 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (0)

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