『恋に至る病』とは何か? PFFスカラシップ作品

 木村承子監督・脚本。我妻三輪子、斉藤陽一郎、佐津川愛美、染谷将太出演。
 今「ぴあ」という名前がどんな影響力があるのかは知らないが、ネットが普及する前まで、雑誌『Weekly ぴあ』は一部の映画ファンにとっては必需品であった。「ぴあ」がその時映画館で観ることのできる作品の最新のガイドだったから。そして、PFF(ぴあフィルム・フェスティバル)は、ぴあの主催する自主制作映画の登竜門であり、映画サークルなどではひとつの高い目標として存在していたはず。園子温、橋口亮輔や矢口史靖など多くの映画監督を生んだのもPFFだ。この作品もPFFスカラシップ作品として製作されたものだ。去年劇場公開され、今月DVDがリリースされた。

『恋に至る病』 主役のツブラを演じるのは、かわいらしい我妻三輪子

 物語は、生物学教師のマドカと彼に首ったけの女子高生ツブラが性行為に及ぶと、互いの性器が入れ替わるという奇想天外な設定から始まる。
 大林宣彦の『転校生』なんかを思わせなくもないが、実はこれと同じ設定はグレッグ・イーガンのSF短編「祈りの海」にもある。イーガンの小説の場合は、別世界の性のあり方を描いたものだが、この映画ではツブラの妄想(の現実化)としてこの設定がある。「誰かが欲しい」ツブラが、対人恐怖症みたいで「誰もいらない」教師との関係で、不足を補い合うのだ。そして互いの恥ずかしい部分を交換し合うことで、ふたりは離れられない間柄になる。

 ツブラのキャラクターは、演じる我妻三輪子のすべて丸で描いたような容貌もあってマンガみたいだ。ツブラは誰にも覚えてもらえないからといって、永遠に腐りたくないために物を食べないという“不思議ちゃん”なのだ。“不思議ちゃん”の定義はともかく、昆虫好きのいじめられっ子みたいな教師マドカを好きになる時点でちょっと変わった女の子であることは確かだ。
 そんなツブラが理科準備室みたいな場所でなかば強引に性交渉を済ませ、ふたりの身体に異変が起きるまではあっという間。(*1)それらがコメディタッチな軽さで綴られて、忘れたころになってタイトルが登場する。ふたりは田舎へと逃亡するが、それまでのハチャメチャな展開と違って、そこからは意外と自主制作映画にありそうなテーマに落ち着いてしまった印象もある。

『恋に至る病』 エン(佐津川愛美)はツブラに想いを寄せる自分に戸惑う

 冒頭の教室シーンは、『恋に至る病』の人間関係をさらりと見せている。マル(染谷)の視線の先にいるのがエン(佐津川)で、エンが見つめるのがツブラ(我妻)、そしてツブラが一途に想いを寄せるマドカ(斉藤)が教壇にいるが、マドカは挙動不審で誰も見ようとしない。(*2)
 この映画の題名はツブラの病を指している。ツブラは恋に落ちるのではなく、寂しさを埋めるために恋をするに至る。病はほかの登場人物にもある。教師マドカは経験による学習からか欲望を切り下げ、かつて好きだったことさえ思い出せない。欲しいと思わなければ傷つくこともないからだ。エンは異性には不自由していないが、もう恋やセックスにドキドキしなくなり、退屈で仕方がない。本気になったと思うと相手は同性で自分でも戸惑っている。マルはこのなかではまともとは言えるけれど、やりたい盛りの童貞として健全な悩みに苦しんでいる。
 冒頭で魅力的な設定を用意したにも関わらず、それを忘れたかのような話になっていくのだ。結局のところ、行き着くのは田舎での4人の修学旅行みたいなものに留まっている。性器交換の顛末も曖昧だし、ラストにカタルシスがあるわけでもなく、ごく普通の日常が戻ってくるだけだ。でも若い監督である木村の意図したのは、そんなぐずぐずした若者の悩みのほうなのかもしれないとも思う。そんなものはすっきり片付くようなものではないのだから。
 緑豊かな田舎の夏休みの風景は、観ていても気持ちがいい。室内のシーンでもうまく外光を取り入れ(雪見障子の向こうから明かりが差してみたり)、いい画面をつくっているように思えた。撮影は『その夜の侍』では汗だくの暑い夏を撮った月永雄太

(*1) このシーンはあくまでかわいらしく、ツブラが描いた下手なマンガも加えて描かれる。
 木村監督はマンガも描けるようで、DVD特典にはツブラの絵とは異なり妙に完成度が高いマンガが付いている。

(*2) 登場人物は皆、「ツブら」「マドカ」のように、「円」に関係する名前になっている。


恋に至る病 [DVD]


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Date: 2013.07.10 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (0)

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