『リアル~完全なる首長竜の日~』 実は黒沢清監督のホラー映画

 黒沢清監督作品。主演のふたりには佐藤健綾瀬はるかで、原作には『このミス』で大賞になった作品という、黒沢清監督作品には珍しくメジャー系の雰囲気を持つ映画である。(*1)
 自殺未遂で昏睡状態にある淳美(綾瀬)を助けるために、恋人の浩市(佐藤)が<センシング>というシステムで意識に入り込んで救出を試みるという物語。

 ※ 以下、ネタばれあり。

『リアル~完全なる首長竜の日~』 主演の佐藤健と綾瀬はるか

 実際に『リアル~完全なる首長竜の日~』を観ると、これはメジャー系の作品などではなく、まぎれもない黒沢清の映画になっている。ただ一応はテレビ局などが製作陣に加わっていることもあるからか、宣伝は昏睡状態の伴侶を助ける物語を前面に出しているし、ラストでは首長竜が登場して『ジュラシック・パーク』的スペクタクルの真似事をしてみたりする。
 こんなとってつけたみたいなラストは、製作陣を納得させるための黒沢清のアリバイ工作にも思える。金を出した製作陣の望む映画と、監督の望む映画が分離しているような印象なのだ。もしかすると製作陣をうまく騙して、黒沢清が勝手なホラー映画にしてしまっているのかもしれないが……。
 黒沢清らしいのは前半部分。(*2)現実と非現実(意識下の世界)があいまいになっていき、漫画家である淳美の描く世界が現象化する展開は、監督のやりたい放題のホラー映画として楽しめる。黒沢清は『アカルイミライ』『トウキョウソナタ』みたいな作品もあるが、『地獄の警備員』『回路』『叫』などのホラー映画の監督でもあるのだ。

『リアル~完全なる首長竜の日~』 中谷美紀は研究所の医者なのだが…

 『リアル』と題されたこの映画がまったくリアルでないのは、現実そのものがリアルでないからなのかもしれない。『マトリックス』でも描かれているように、そうした認識はごく一般的に共有されているとも言える。現実は、機械につながれて生かされているゾンビたちの見る夢に過ぎず、夢見ている当人もそれに気がつかない。だから登場人物たちがあまりに生気を欠き、役者たちが感情のこもってない平板な演技だとしてもそれは当然のことだろう。
 実際に、映画中盤でそれまでの現実と非現実的世界という構図はひっくり返される。それまで現実だと思っていたすべてが、浩市の意識下の世界だったことになる。どちらにしてもこの映画のなかでは現実も非現実的世界も似たようなものであり、確固たる現実など存在しないようだ。だから最後に一応ハッピーエンドらしきものがあるにはあるが、それが真の現実だとは言えないのかもしれない。浩市は最後に目を覚ますが、映画はそれで終わってしまう。安堵の笑みを見せるのでもなく、ただ目が開いただけなのだ。その浩市が意識のない、人の抜けがらである“フィロソィカル・ゾンビ”である可能性も捨てきれない。
 “フィロソィカル・ゾンビ”とは、現実が非現実的な夢のように思えるのと同じく、他人が本当の人間ではなく、意識のない人の抜けがら(ゾンビ)と思えるということだ。(*3)そうした見方は、研究所の中谷美紀のあやしさに始めから露呈されていたと言ってもいいかもしれない。“親身な医者”というキャラクターを、ロボットが演じてでもいるかのような不気味さが中谷美紀にはあるからだ。だから途中でそれが“フィロソィカル・ゾンビ”だったと知ってかえって安心させられるわけだ。
 しかし中谷美紀の存在は、淳美(綾瀬)が生きるとりあえずの現実の世界でもあやしい。中谷が現実の世界でにっこりと笑うシーンでは、なぜか密閉された空間である研究所に風が巻き起こり中谷の髪をなびかせる。このあたりは『叫』での葉月里緒奈演じる幽霊が近づいてくる場面を思わせ、中谷が現実的な存在なのか疑ってしまう。そんな映画だから、ラストの浩市の存在もあやしいものに思えてくるのだ。黒沢清は一応ハッピーエンドみたいなものを見せたけれど、それを素直に受け取っていいものだろうか。

(*1) 原作『完全なる首長竜の日』は未読なのだが、映画では恋人らしく見えないふたりは、原作では兄妹の関係なんだとか。映画化に際してかなりの脚色が施されているようだ。

(*2) ほかにもあまり意味のない廃墟シーンも黒沢清らしいかもしれない。車での移動シーンが異世界を走っているようなのもいつもの黒沢清。

(*3) こうした問題は哲学者の永井均の本に詳しい。『マンガは哲学する』のなかでは、諸星大二郎の漫画「夢見る機械」を題材にし、「夢の懐疑とロボットの懐疑」について論じている。ここでのロボットとは『リアル』での“フィロソィカル・ゾンビ”のようなものである。


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黒沢清の作品
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Date: 2013.06.03 Category: 日本映画 Comments (2) Trackbacks (0)

この記事へのコメント:

太鼓打

Date2013.06.08 (土) 00:24:05

はじめまして。
『リアル 完全なる首長竜の日』の感想を探していて、辿り着きました。
某映画サイトに投稿されたレビューの数々に愕然としていたところだったので、Nick様のブログを拝読し、外国で日本語話者を見つけたような安堵感を得ました。

素直にハッピーエンドと受け取るべきか?というのは同感です。
「ハッピーエンド」という(情緒的な)物語すら、登場人物達や私達観客の、現実とは関係無い“個人的現実”に過ぎないという事でしょうか。
映画を見終えて現実に帰る瞬間が、ある意味もう一つの「目覚め」なのかもしれませんね。

2回目を観に行く時は、中谷美紀のあやしさに注目してみようと思います。素敵な批評、ありがとうございました。

Nick

Date2013.06.08 (土) 14:14:45

太鼓打様、コメントありがとうございます。

太鼓打様がおっしゃるように独我論的な思考(“個人的現実”)を感じさせる映画でした。
ひっそりとやってるブログですが、わずかでも丁寧に読んでくださる方がいれば励みになります。

> 映画を見終えて現実に帰る瞬間が、ある意味もう一つの「目覚め」なのかもしれませんね。

そうかもしれませんね。
私自身は現実逃避的な傾向があり、あまり「目覚め」ていないのかもしれませんが。

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