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『(秘)色情めす市場』 望みがないからこそ、そこに居られる

 田中登監督の1974年の日活ロマンポルノ。
 一度は新しいブログのほうに載せたのだが、ロマンポルノということだからかアフィリエイト的には問題だったらしい。せっかくなので旧ブログのほうに載せることにした。別に使い分けるつもりはなかったのだけれど……。

田中登 『(秘)色情めす市場』 芹明香が演じるトメは気だるい雰囲気。

◆物語
 「なんか、うち逆らいたいんや」。そんなふうにつぶやいて店を辞めてフリーになったトメ(芹明香)は、ドヤ街で客をつかまえる街娼だ。後ろ盾もなくドヤ街で客をつかまえているトメは、ヤクザまがいの男にちょっかいを出される。「俺の女になれ」と無理強いするのに対し威勢のいい啖呵を切ったものの、男に空き地に連れて行かれてボコボコにされる。それでもトメは男の言うことを無視し、生きるために街で男をつかまえに行く。

◆ドヤ街のエネルギー
 本作の舞台は大阪の通天閣が見える地域。かつて釜ケ崎と呼ばれていた(今ではあいりん地区)場所で、日雇い労働者が多く住むところだ。お世辞にもガラのいい場所とは言えないところで、そんな場所でカメラを回したりしていたらトラブルになる。日雇い労働者たちが仕事を求めて集まるシーンなどは、車のなかから隠れて撮影したものと思われる。
 私もかつて学生時代にサークルで8ミリカメラなどを回していたら、「何で撮ってるんだ」といちゃもんをつけられたことがあった。東京の下町の、それほどディープな場所でもないところでもそういうことがあった。『(秘)色情めす市場』にも借金をして逃げてきたカップル(宮下順子萩原朔美)が登場するのだが、ドヤ街という場所は、ほかの場所で生きられなくなった人が逃れてくる場所らしく、後暗いところのある人も多いからか、そういうトラブルになるらしい。
 本作はそういう危なっかしい場所でゲリラ的に撮影したらしく、わけのわからない人物も映っていたりして猥雑な雰囲気を伝えている。劇中では電車が走っているにも関わらず、線路のすぐ近くで爆破シーンを撮っていて、明らかに許可は取っていないと思われ、この土地の猥雑なエネルギーと一緒で撮影陣のエネルギーも感じさせるものとなっていたと思う。

『(秘)色情めす市場』 本作はモノクロ作品。一部カラーの場面もあり。

◆主人公トメの境遇
 主人公となるトメは最初から醒めていてけだるそうな雰囲気。指名手配の写真を見て「眠そうでしらけとる。(中略)生きてるのか死んでるのかわからへん。」などと語っているのだが、それはトメ自身も同じだからだろう。
 セックスも投げやりで、行為が終わったら「重いからどいて」と知らんぷりで、客に対する愛想もない。たとえば「退廃的」などと形容してみればトメの雰囲気は伝わるのかもしれないのだが、この言葉は堕ちていくイメージもあるのでちょっと的外れかもしれない。トメは生まれてこの方ずっとこの状態にいるわけで、堕ちてきたわけではないからだ。
 トメの母親・よね(花柳幻舟)も売春婦で、15歳でトメを生み、未だに客をとっている。しかし年増のよねは客にダメ出しされ、そのピンチヒッターでトメが相手をしたりもする。母娘で客を取り合って壮絶なケンカを繰り返す日々だ。
 母親には容赦ないトメでも知的障害者の弟・実夫さねお夢村四郎)にはとてもやさしい。実夫はトメが客をとる姿を間近に見ていて、トメはその性欲の処理に手を貸してやったりもするのだ。

◆みんな、望み捨ててるんや

 本作でトメが体験することは絶望的な出来事と言えるかもしれない。母親よねは40過ぎて子供を孕み、堕胎の費用を捻出するために客の金にまで手を出してトラブルになる。そんな母親から産まれた自分の空虚さを感じたトメが弟の実夫と一線を越えると、実夫はなぜか首を吊って死んでしまう。これ以上ないというくらいの絶望的な状況だが、最後にトメは「よその土地に行こう」という男の誘いを断ることになる。
     

この街な、みんな根無し草や、みんな、望み捨ててるんや。


 トメはだからこそ「ここに残る」のだという。望みがないからこそ、そこに居られるというのは、絶望を突き抜けた先にあるものを描いているようで、かえって清々しい気持ちにさえなる作品だった。トメはラストシーンで通天閣の見える空き地で楽しそうにくるくると回っているのだが、この空き地は前半でトメがボコボコにされた場所でもあるのだ。ロマンポルノという枠を超えて傑作というに相応しい作品だったと思う。
 ダッチワイフを抱きかかえた男が街を歩いていく場面に重なるギターの音もカッコいい(樋口康雄という人の曲らしい)のだが、実夫が通天閣に登っていく場面の村田英雄の「王将」もはまっていて、このあたりのセンスも絶妙だ。
 それから本作は一部カラー作品となっているのだが、それは絡みのシーンではなくて通天閣に実夫が登っていくところ。ここはトメが見た夢がカラーで描かれているように見えなくもない。トメと実夫が初めて交わったその夜が次第に明るくなっていき、突如として真っ赤な太陽が昇り、鶏のトサカの赤が映し出されるという演出も鮮烈なものがあった。
 ロマンポルノだからと避けていたわけではなく、観る機会がなかった作品。『岬の兄妹』を観たときに、この作品の影響があると聞いていたのだが、今回U-NEXTで観ることができた。U-NEXTは意外とレンタル屋にはない古い作品も配信しているようだ(本ページの情報は2019.08.17現在のもの。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。)昔は名画座でロマンポルノの3本立てとかにも通ったりもしたのだが、そのなかでも『(秘)色情めす市場』は感覚的にしっくりとくるものがあった。食わず嫌いでやり過ごすのはもったいない作品だと思う。





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Date: 2019.08.17 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (0)

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