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『ハウス・ジャック・ビルト』 それ以上でもなければそれ以下でもない?

 『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『ニンフォマニアック』などのラース・フォン・トリアー監督の最新作。
 原題は「The House That Jack Built」
 カンヌ国際映画祭では退場者が続出し、アメリカ公開時には修正バージョンだったという作品だが、日本では完全版での公開となった。

ラース・フォン・トリアー 『ハウス・ジャック・ビルト』 シリアルキラーのジャック(マット・ディロン)と彼を導くヴァージ(ブルーノ・ガンツ)。

 シリアルキラー・ジャック(マット・ディロン)の殺人の数々を遠慮会釈もなく描くことで、今回も顰蹙を買ったラース・フォン・トリアー。特に観客をひかせたのは、3つ目のエピソードの人間狩りの部分だろうか。ここではジャックは自分の恋人とその息子たちを狩りに連れて行き、鹿の代わりに人間を標的にすることになる。
 しかも殺すだけならともかく(それだけでも十分に不快なわけだが)、トリアーは子供の片足が千切れるところを嬉々として描写するのだ。ほかにも挙げていけばキリがないわけだが、この作品は常識的な倫理観など吹き飛ぶほどのおぞましい犯罪が描かれていくことになる。さらにはそうした犯罪が描かれつつも、それを笑いにしてしまうという悪趣味もあり、妙に居心地の悪い作品になっている。

『ハウス・ジャック・ビルト』 最初の犠牲者を演じるのはユマ・サーマン。犠牲者というよりは、ジャックの本性を開拓した張本人?

 ジャックは次々と殺人を重ね、その行為に洗練さを求めるようになっていき、「殺人はアートである」とのたまうようになる。映画は何を描くのも自由だし、芸術が倫理によって制限されることがあってはならない。その主張は理解できるのだが、殺人がアートであるという部分に関しては都合のいい屁理屈とも思える。
 確かにジャックの理屈だけを聞けば芸術擁護論のような部分も感じなくもないわけだが、ジャックによる芸術作品である「ジャックの建てた家」を見ると、その芸術擁護論も説得力を失うような気がしなくもない。「ジャックの建てた家」はどこにも美的感覚を刺激するものなどないからだ。もちろんジャック自身にとってはそうではないのかもしれないのだが……。
 ちなみにジャックはトリアー作品のなかでは久しぶりの男性の主人公。そして、ジャックの抱える強迫性障害はトリアー自身の病でもあるわけで、どこかで監督自身の姿も投影されているということは推測される。
 ジャックは家を建築するための材料にこだわり、その家を何度も作り直すことになる。彼が最後に選んだのが死体という材料だった。しかし、その結果は悪夢のようなものだったということになる。そこからすればトリアーは今回の作品で殺人という題材を選んだわけだが、そのこと自体が間違いで本作もひどく不出来なものとなっていると自ら宣言しているのかもしれない。ジャックがヴァージ(ブルーノ・ガンツ)に導かれて地獄の底に堕ちていくことも、トリアーの自虐を感じなくもないのだ。

 本作ではキム・ギドク『嘆きのピエタ』のラストのような殺人も描かれていた。ギドクもトリアーも良識から外れていき、「全く何てことを考えるんだ」と面食らわせるところでは似ている部分があるのかもしれない。ただ、ギドクが『嘆きのピエタ』のラストでやったことは贖罪のためだったわけで、本作の殺人とは趣きが異なる。
 振り返ってみればかつてのトリアー作品『奇跡の海』では、ケガをした夫の願いを叶えるために妻が売春をするという話だった。ここでもそれなりの反感はあったと思うのだが、理由があっての行動だけに感動的でもあった(『奇跡の海』は「黄金の心三部作」のひとつとされている)。それに対して、前作の『ニンフォマニアック』のセックスとか、『ハウス・ジャック・ビルト』における殺人などは、それ以上でもなければそれ以下でもないわけで、芸術を騙った悪ふざけにも思えた。もちろんそうするのも自由だし、それなりに楽しめる作品ではあるのだが、どうも釈然としない部分もある。

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Date: 2019.06.24 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (0)

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