『長いお別れ』 祝! 蒼井優、結婚!!
原作は直木賞作家の中島京子の同名小説。
このレビューを書いていたら、ちょうど主役のひとりである蒼井優の結婚のニュースが……。劇中では彼氏にフラれ、認知症の父親に泣き事をもらすことになるのだが、実生活は別だったらしい。ご結婚はめでたいことだが、まだまだ蒼井優には日本映画界の第一線にいてほしいものだとも思う。

タイトルを見るとチャンドラーの小説のことを思い浮かべてしまうのだが、これはまったく別の話。アメリカではアルツハイマー型認知症で亡くなることを「Long Goodbye」と呼ぶことがあるらしい。「少しずつ記憶を失くして、ゆっくりゆっくり遠ざかって行くから」だ。
本作でも山﨑勉が演じる東昇平は、認知症になって7年の月日を過ごして死んでいくことになる。認知症はガンなんかの病気とは違うわけで、本人には痛みや苦しみもなく、症状の自覚すらないこともあり、それでも少しずつ調子が狂っていくことになる。
昇平は校長先生をやっていたほどの人物で、孫の崇には漢字マスターと呼ばれるほど難しい漢字を知っている。そんな昇平も次第に漢字を忘れ、本を読むことも覚束なくなり、意味不明な言葉を使ったりするようにもなってくる。

私自身は認知症のことについてはほとんど何も知らない。昔テレビで『恍惚の人』を見た記憶はあるが、結構シビアなものがあるんだろうとは思う。それではこの『長いお別れ』ではどうだったかと言えば、シビアな面もあるし、そうでない部分もあった。
シビアな面というのは、昇平が粗相をしてしまうエピソードだったり、魚の解剖シーンなど。どちらもえげつない描写になっていて目を背けたくなる部分ではあるけれど、これは現実に行われている人の営みということなのだろう。介護の現場では粗相など当たり前だし、研究者にとっては魚の脳を取り出すことも必要なことなのだろう。
本作は深刻な場面はほどほどに、あちこちに笑いが散りばめられているし、認知症の昇平を中心に据えた微笑ましい場面も多々ある。この作品が介護現場を美化しているのかどうかはわからない。ただ、まったくの嘘ではなさそうだし、シビアな面もそうでない部分も、どちらもあるということなのだろうと推測する。
昇平は次女の芙美(蒼井優)の泣き言を聞いているのかどうかもはっきりせず、「そう、くりまるな」という意味不明な言葉を返す。ただ、そんな言葉でも昇平が彼女を励ましていることは何となく通じているのが微笑ましい。かつての父娘の関係とは変わったかもしれないのだが、別のコミュニケーションが成立しているのだ。
それから長女の麻里(竹内結子)はカリフォルニアに居て、海外での生活になじめず、日本の家のことを“実家”と呼んで旦那にたしなめられる。“実家”という言葉はちょっと不思議で、漢字を見る限り住んでいる家よりもそちらのほうが本当の家のようにも思える。
昇平も自分の家にいるにも関わらず、どこか別の場所に帰ろうとする。もちろんこれは認知症の症状なのだが、時間の感覚が曖昧となり今も昔も一緒くたになっている昇平には、本当に帰りたい場所を素直に感じ取っているということなのだろう。それが幼かった娘たちが遊んでいた遊園地だったというのは泣かせるところ。
認知症という現実にはシビアな面があるのは当然だ。とはいえ、本作を観ていると認知症にならなければわからなかったこともあると教えてくれるようでもある。それがシビアな現実を受け入れるための強がりとも思えなかった。
最後の呼吸器問題にしても、奥さんの曜子(松原智恵子)は介護が長引くのも厭わずに呼吸器を付けることを選択する。娘ふたりが迷っているにも関わらず、曜子だけははっきりと自分の意思を決めていたのだ。いつも隣にいて常に一緒だった曜子がそんなふうに決めたのも、介護現場にもシビアなことばかりではないということなんだろうと思えた。
![]() |

![]() |

![]() |

![]() |

- 関連記事
-
- 『さよならくちびる』 映画は音楽に嫉妬する
- 『長いお別れ』 祝! 蒼井優、結婚!!
- 『教誨師』 無意味な生をそのまま生きる
この記事へのコメント:
ハイダウェイ
Date2019.06.11 (火) 11:16:51
このキャスティングだから期待してたけど、期待以上にヨカッタです。
Nick
Date2019.06.12 (水) 07:53:55
そんなふうに言う人はいるかもしれませんね。でも、それをわかってて作ってる作品なんでしょうね。
役者陣も良かったし、ほのぼのしてて素直にいい話でした。