『ある少年の告白』 変われないなら「フリをしろ」
『ザ・ギフト』で監督デビューしたジョエル・エドガートンの監督第2作目。
原題は「Boy Erased」。
原作はガラルド・コンリーの書いたベストセラー小説だが、邦訳は出ていないとのこと。
舞台となるのは同性愛者の矯正施設。ここでは外部との接触を絶たれ、治療内容について語ることも禁じられる。実際の治療方法は根性論のようなもので、戸塚ヨットスクールのごとくスパルタ式に主人公ジャレッド(ルーカス・ヘッジズ)を追いつめていくのだが……。
※以下、ネタバレもあり!

本作ではジャレッドの過去を振り返りつつ、矯正施設の真実を暴くことになる。確かにこの矯正施設は異常だが、そこは社会のある部分が濃縮されたような場所でもある。
監督でもあるジョエル・エドガートン演じる施設長サイクスも、実は同性愛者であることが最後に明らかになる。サイクス自身も社会で苦しんだ側だったのだろう。その苦しみを取り除くために、「同性愛は異常である」という誤った考え(嘘)を信じようとしたのかもしれない。そして、年長者の温情として、それを若者にも押し付けようとするのだ(本人はそれが救済になると信じている)。
だからサイクスの教えの核心にあるのは、変われないなら「フリをしろ」ということだ。グザヴィエ・ドラン演じるジョンも、そうした嘘に付き合うことをジャレッドに勧める。施設の内部ではもちろんのこと、社会に出たとしても、生きてゆくためには嘘が必要なのだ。
しかしジャレッドは、「王様は裸だ(同性愛は異常じゃない)」とぶちまけてしまう。嘘で固められた施設内では仰天だが、外の社会では誰もが知っていることなのだ。それでも、ジャレッドを診察した医者が、「同性愛は病気ではない」という事実を彼の両親に告げることをしなかったことからもわかるように、その嘘を信じている人にとってはそれが強固な信念となっているのだろう。
たまたまジャレッドが施設から抜け出せたのは、母親(ニコール・キッドマン)が真っ当だったから(その母親も最初は夫に従おうとするのだが)。ジャレッド以外の施設の少年たちは、矯正施設を抜け出したとしても、両親によってまた施設に連れ戻されるのだろう。だからキャメロンのような犠牲者も出ることになる。
施設の塀のなかと、その外に広がる社会。その施設が成り立つのは、社会の一部がそれを求めているからで、「同性愛は異常である」という嘘が施設の外でもまかり通っているのも当然のことなのだ。
本作ではジャレッドが同性愛者であることを受け入れるところまでが中心となっている。しかし、ジャレッドが置かれたような状況では、その先に周囲(特に家族)がその事実を受け止めるという段階があるように思える(施設と社会の関係と同様に)。
だからジャレッドが牧師である父親(ラッセル・クロウ)を罵倒しただけで終わってしまったのは片手落ちのようにも感じられた。ジャレッドの怒りは正当なものではあるけれど、「産めよ、増えよ、地に満ちよ」という聖書の言葉を信じてきた牧師にとって、その信念を変えるのはなかなか厄介なことのように思え、ジャレッドと父親のその先のことのほうが心配になってしまったのだ。
原題は「Boy Erased」。
原作はガラルド・コンリーの書いたベストセラー小説だが、邦訳は出ていないとのこと。
舞台となるのは同性愛者の矯正施設。ここでは外部との接触を絶たれ、治療内容について語ることも禁じられる。実際の治療方法は根性論のようなもので、戸塚ヨットスクールのごとくスパルタ式に主人公ジャレッド(ルーカス・ヘッジズ)を追いつめていくのだが……。
※以下、ネタバレもあり!

本作ではジャレッドの過去を振り返りつつ、矯正施設の真実を暴くことになる。確かにこの矯正施設は異常だが、そこは社会のある部分が濃縮されたような場所でもある。
監督でもあるジョエル・エドガートン演じる施設長サイクスも、実は同性愛者であることが最後に明らかになる。サイクス自身も社会で苦しんだ側だったのだろう。その苦しみを取り除くために、「同性愛は異常である」という誤った考え(嘘)を信じようとしたのかもしれない。そして、年長者の温情として、それを若者にも押し付けようとするのだ(本人はそれが救済になると信じている)。
だからサイクスの教えの核心にあるのは、変われないなら「フリをしろ」ということだ。グザヴィエ・ドラン演じるジョンも、そうした嘘に付き合うことをジャレッドに勧める。施設の内部ではもちろんのこと、社会に出たとしても、生きてゆくためには嘘が必要なのだ。
しかしジャレッドは、「王様は裸だ(同性愛は異常じゃない)」とぶちまけてしまう。嘘で固められた施設内では仰天だが、外の社会では誰もが知っていることなのだ。それでも、ジャレッドを診察した医者が、「同性愛は病気ではない」という事実を彼の両親に告げることをしなかったことからもわかるように、その嘘を信じている人にとってはそれが強固な信念となっているのだろう。
たまたまジャレッドが施設から抜け出せたのは、母親(ニコール・キッドマン)が真っ当だったから(その母親も最初は夫に従おうとするのだが)。ジャレッド以外の施設の少年たちは、矯正施設を抜け出したとしても、両親によってまた施設に連れ戻されるのだろう。だからキャメロンのような犠牲者も出ることになる。
施設の塀のなかと、その外に広がる社会。その施設が成り立つのは、社会の一部がそれを求めているからで、「同性愛は異常である」という嘘が施設の外でもまかり通っているのも当然のことなのだ。
本作ではジャレッドが同性愛者であることを受け入れるところまでが中心となっている。しかし、ジャレッドが置かれたような状況では、その先に周囲(特に家族)がその事実を受け止めるという段階があるように思える(施設と社会の関係と同様に)。
だからジャレッドが牧師である父親(ラッセル・クロウ)を罵倒しただけで終わってしまったのは片手落ちのようにも感じられた。ジャレッドの怒りは正当なものではあるけれど、「産めよ、増えよ、地に満ちよ」という聖書の言葉を信じてきた牧師にとって、その信念を変えるのはなかなか厄介なことのように思え、ジャレッドと父親のその先のことのほうが心配になってしまったのだ。
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この記事へのコメント:
まれ
Date2019.04.30 (火) 08:54:24
Nick
Date2019.05.06 (月) 17:10:39
今度ぜひ観てみようと思います。
主役のピエール・ニネの顔をどこかで見たと思ったら、
『婚約者の友人』の主役の人ですね。
まれ
Date2019.05.11 (土) 11:32:52
そうでした、そうでした。ピエール・ニネ、「婚約者の友人」のフランス人役でしたね。サンローランと顔が似ているから抜擢された部分が大きいと思うと、当たり役過ぎて気になっていました。この映画の感想を読んで、その後の活躍を知り、ホッとしたのを思い出しました。
Nick
Date2019.05.16 (木) 00:00:41
名前からすると女性かと勘違いしてました。
観てない映画は数多いです。
まれさんがどこかで「映画や本も、ほぼ無限にあるからありがたい」とコメントしてくれてましたが、
多すぎて追いつけない感じがするときもあります。
まれ
Date2019.05.29 (水) 09:29:59
映画鑑賞と批評がお仕事と関係ないなら、とても有意義な趣味をお持ちで羨ましいです。没頭できる趣味があるのはいいですよね。ここ数年、ほとんど観れていませんが、映画は別世界へ行けるところが好きだったことを思い出しました。
先日、やっとボヘミアンラプソディのDVDを買いました。映画が話題になった際、直ぐにQueenのCD”Greatest hits 1・2&3”を購入し、Queen世代ではないので、鑑賞前に予習予定でしたが、CDもDVDも未だに封を切ってません・笑 ほんの2時間程度なのに、なかなか観れないものですね。Nickさんの批評、新作が多く更新されていて、本当に楽しく拝読させてもらっています。感謝m(__)m
サンローランといえば、お代替りの皇室番組にて、美智子さまのウエディングドレスはディオールデザインといわれてましたが、実はディオール亡き後、ディオール・メゾンのデザイナーだったサンローランの作品だったと知りました。
当時は布からデザインをするので、ドレスというより、龍(皇太子)と鳳凰(皇太子妃)モチーフの金糸刺繍が施された白い絹地が本当に美しく、その気品とセンスの良さに感動しました。そんな彼の映画、映像は本当に美しかったです。
雅子さま、紀子さまも同じデザインの生地で糸の色が違うのだそうです。雅子さまは薄めの金、紀子さま銀。サンローランも今頃、自分のデザインだと日本で認識され、草葉の陰で喜んでいるかもしれませんね(フランス人ですけど)笑
Nick
Date2019.06.09 (日) 21:49:32
映画を観ることが仕事になればいいんですが、
それも難しそうです。
『ボヘミアン・ラプソディ』は私もこっそり観ました。
公開してだいぶ経ってからだったのでブログには何も書きませんでしたが、
やっぱりライブシーンは盛り上がりました。
私もQueenはベスト版を聴いたことがあるくらいだったのですが、
『ボヘミアン・ラプソディ』の観客はQueenを知らない世代も多かったように見受けられました。
DVDを買っていつでも観られると思うと、
かえって安心してしまってということは多いですよね。
そういうDVDとか本は結構あります。
それからサンローランは意外なところで日本とつながっていたんですね。
時間を見つけて映画も観てみたいと思います。
まれ
Date2019.07.07 (日) 09:41:36
エルマンノ・オルミ監督作品に魅せられ、トルナトーレ監督、モレッティ監督の作品を立て続けに観たのも影響があったのかもしれません。全体的に何か物足りなさを感じ、残念でした。「グリーンブック」は心温まりましたし、「運び屋」は流石娯楽の殿堂ハリウッド作品だと感心したんですけどね。不思議です。
Nick
Date2019.07.13 (土) 11:16:49
世間の評価があまいに高いと期待しすぎてしまうのかもしれません。
私は単純に最後のライブを楽しんだのですが、
本物のライブと寸分違わず同じっていうのはどうなのかと、
観終わってからは思いました。
それでもQueenのファン層を広げるには最大限貢献したということでしょうね。
エルマンノ・オルミ監督、トルナトーレ監督、モレッティ監督とイタリア尽くしですね。
「木靴の樹」は私もとてもいい映画だったと思います。
まれ
Date2019.07.24 (水) 09:54:53