『七つの会議』 ゴジラの人が破壊したもの
監督は上記のテレビドラマを演出した福澤克雄。
キャストは野村萬斎、香川照之、及川光博、片岡愛之助、朝倉あきなどから始まって、ゲスト的な扱いで様々な大物も顔を見せる賑やかさ。
主題歌はボブ・ディランの「Make You Feel My Love」。

『半沢直樹』『下町ロケット』などのドラマは見てはいないし原作も読んでいないのだけれど、世間でやたらと流行っているくらいということくらいは聞こえてくる。本作もそうした人気コンテンツのひとつなんだろう。
社会学者・大澤真幸がどこかで書いていたことには、『半沢直樹』はすべてがことごとくリアルなのだけれど、その主人公である半沢直樹という人物が例外的にリアリティを欠いているのだとか(どの本に書いてあったかも忘れたから、以下想像も交えて記す)。これは半沢直樹のキャラがリアルではないからダメだと言っているわけではない。というか誰もが半沢直樹のように会社で振舞ってみたい。しかし現実にはそんなことはもちろん無理。そんな気持ちがあるからこそ半沢直樹の倍返しに誰もが快哉を叫ぶことになる。

これはそっくりそのまま『七つの会議』の主人公八角にも当てはまることのように思えた。八角を演じるのは野村萬斎である。野村萬斎は狂言師として知られ、あの『シン・ゴジラ』でゴジラを演じた人でもある。野村萬斎は八角という人物を単なるぐうたら社員ではなく、狂言のなかの登場人物として演じているようだ。立ち振る舞いは異様だし、漫画の擬音でもあるかような笑い方もおよそリアリティに欠ける。もちろんこれは演出なんだろう。
というのも『七つの会議』で描かれるような日本の会社の実情は、まったく馬鹿げた話だけれどリアルな話だろう。部下が嘔吐するほどのパワハラ、ライバル同士での足の引っ張り合い、下請けへの無理強い、同業他社を出し抜くための偽装工作と隠蔽などなど。本作では滑稽なくらいにデフォルメされているようにも見えるけれど、会社の内部の人からすれば心情的にはリアルなものと言えるかもしれない。そんな馬鹿げた何かに日本の多くのサラリーマンが(つまりはほとんどすべての働く世代の人々が)苦しめられているということなのだろう。
かつては日本のやり方が絶大な効果を生んだこともあった。それでもさすがに変えていったほうがいいだろうというのが誰もが心のなかでは思うこと。しかしそれが変えられないのが日本の企業ということでもあるのだろう。そこに登場するのはおよそリアリティを欠いた居眠り八角という主人公で、彼は会社の不正を暴くことになる。八角はクビを恐れないし、それでいて会社に対する忠義を忘れることもなく、最後の最後まであきらめることはない。
そんな人物がどこに居るのだろうか。いや、居るわけがない。そんな反語的表現が最後の八角の独白だったようにも思えた。というのも、ここでの八角はそれまでとは一変するような語り口で、ここでは製作陣の気持ちが込められているようにも感じられたからだ。最後に八角は日本社会に不正も隠蔽もなくならないでしょうと語る。その理由として挙げられるのは武家社会の幕藩体制が今なお続いていること。藩から出て生きていくことは難しく、藩のなかにいれば守られる。そうした意識が会社組織のなかにも残っているからだと分析する。威勢のよかったキャラの突然の心変わりも、八角みたいな存在があり得ないということを示しているかのようだった。
豪華キャスト陣の顔芸が楽しめる作品で、やはり香川照之のそれはわかっていても見てしまう。
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