『夜明け』 疑似父子のゆるやかな共犯
是枝裕和や西川美和の監督助手などを務めていたという広瀬奈々子の監督デビュー作。

釣りをしようと川へと向かった哲郎(小林薫)は、水辺で倒れている青年を発見する。哲郎の自宅で介抱された青年(柳楽優弥)は「ヨシダシンイチ」と名乗る。自殺未遂を疑った哲郎は、帰ろうとするシンイチを引き止めゆっくりしていくようにと勧めることになる。
倒れていた青年は明らかに偽名を名乗っているし、自分のことを話そうとはしない。そのまま放り出すのも忍びないという単なる親切心から、哲郎がシンイチに手を差し伸べたということなのだと思っていたのだが、次第にそれだけではないことがわかってくる。というのも哲郎は妻と息子を交通事故で亡くしており、その息子の名前が「真一」だったこともあり、よくある名前を名乗っただけのシンイチのことが気にかかっているのだ。
哲郎は自分の木工所にシンイチを連れて行き、そこで仕事を覚えさせようとし、始めは戸惑っていたシンイチも次第にやる気を見せるようになっていく。木工所の同僚・庄司(YOUNG DAIS)や米山(鈴木常吉)もシンイチに親切で、哲郎と結婚することも決まっている宏美(堀内敬子)とその娘も含め、家族のような関係に……。
※ 以下ネタバレもあり!

『夜明け』の主人公はシンイチであるのは明らかなのだけれど、彼に手を差し伸べる哲郎の存在もそれと同じくらい重要になっていく。新たな息子を欲している哲郎と、本当の家族から逃げ出し、行く場所もなく考える時間を必要としているシンイチとの、ゆるやかな共犯関係が成立していくからだ。
父は息子に過度な期待を寄せ、息子はそれに応えたいと思いつつも、それが重荷になり逃げ出してしまう。これは哲郎と真一の間にもあった関係だし、芦沢光(シンイチの本当の名前)とその父親の間にもある関係だろう。その関係が改めて哲郎とシンイチという疑似父子にも繰り返されることになる(疑似父子が木工所で働くという設定は『息子のまなざし』を思わせる)。
真っ当な仕事もなく、働いてみればパワハラが酷く、その上司を「死ねばいい」とまで憎んでいたシンイチ(その上司との関係が冒頭のシーンに結びつく)。そんなふうに考えてしまうのは、そもそも「世の中はクソみたいで、そんなところで生きることに意味があるのか」といった厭世観に囚われているからだ。
そんなシンイチでも、哲郎たちに世話になっていることは理解しているし感謝もしている。だから自ら亡くなった「真一」に合わせるように髪を染めてみたりもする。それでいて家族の茶番劇には耐えられず、結婚式という茶番劇の最たる場面でやってはいけないことをやってしまう。
ここではその場を適当に取り繕ってやり過ごすことのできないシンイチの未熟さと同時に、善意とは言え自らの期待を押し付けて過ちを繰り返す哲郎の懲りない部分も見えるだろう。
それでもシンイチは「空気を読めない」若者というわけではないのだろう。あまりにシンイチのことに入れ込みすぎて、ややもすれば再婚相手である宏美を疎かにしがちな哲郎に対し、「このままだと誰も幸せになれませんよ」と説教めいた言葉を発したりするあたり、シンイチの人生に対する真摯な態度が表れているようにも感じられた。考え過ぎるから余計に間違ってしまうということもあるのかもしれない。
結婚式から逃げ出したシンイチは、あてもなく彷徨い夜明けを迎える。作品冒頭では夜明けのなかで自殺を図った(?)と思われるシンイチは、今度は自らの意志で哲郎の木工所へと戻ってくる。そこから先は描かれることはないけれど、シンイチが戻ってきたのは哲郎やその周囲の人たちに茶番ではないものを感じ取ったからだろうか。
師匠・是枝作品のようなウェルメイド感はなく、ぎこちない部分もあるし硬すぎる気もする。それでも主演の柳楽優弥が言うように「刺さる人には刺さる」作品だろうと思う。今の一部若者の気持ちを代弁しているところがあるからだ。『ディストラクション・ベイビーズ』とは違って頼りなげな表情を見せる柳楽優弥の姿を、我が事のようにハラハラしながら見守るような気分になった。ラストは何ともカッコ悪いしバツが悪いのだが、それを受け入れろというのが広瀬監督の思いなのかもしれない。



釣りをしようと川へと向かった哲郎(小林薫)は、水辺で倒れている青年を発見する。哲郎の自宅で介抱された青年(柳楽優弥)は「ヨシダシンイチ」と名乗る。自殺未遂を疑った哲郎は、帰ろうとするシンイチを引き止めゆっくりしていくようにと勧めることになる。
倒れていた青年は明らかに偽名を名乗っているし、自分のことを話そうとはしない。そのまま放り出すのも忍びないという単なる親切心から、哲郎がシンイチに手を差し伸べたということなのだと思っていたのだが、次第にそれだけではないことがわかってくる。というのも哲郎は妻と息子を交通事故で亡くしており、その息子の名前が「真一」だったこともあり、よくある名前を名乗っただけのシンイチのことが気にかかっているのだ。
哲郎は自分の木工所にシンイチを連れて行き、そこで仕事を覚えさせようとし、始めは戸惑っていたシンイチも次第にやる気を見せるようになっていく。木工所の同僚・庄司(YOUNG DAIS)や米山(鈴木常吉)もシンイチに親切で、哲郎と結婚することも決まっている宏美(堀内敬子)とその娘も含め、家族のような関係に……。
※ 以下ネタバレもあり!

『夜明け』の主人公はシンイチであるのは明らかなのだけれど、彼に手を差し伸べる哲郎の存在もそれと同じくらい重要になっていく。新たな息子を欲している哲郎と、本当の家族から逃げ出し、行く場所もなく考える時間を必要としているシンイチとの、ゆるやかな共犯関係が成立していくからだ。
父は息子に過度な期待を寄せ、息子はそれに応えたいと思いつつも、それが重荷になり逃げ出してしまう。これは哲郎と真一の間にもあった関係だし、芦沢光(シンイチの本当の名前)とその父親の間にもある関係だろう。その関係が改めて哲郎とシンイチという疑似父子にも繰り返されることになる(疑似父子が木工所で働くという設定は『息子のまなざし』を思わせる)。
真っ当な仕事もなく、働いてみればパワハラが酷く、その上司を「死ねばいい」とまで憎んでいたシンイチ(その上司との関係が冒頭のシーンに結びつく)。そんなふうに考えてしまうのは、そもそも「世の中はクソみたいで、そんなところで生きることに意味があるのか」といった厭世観に囚われているからだ。
そんなシンイチでも、哲郎たちに世話になっていることは理解しているし感謝もしている。だから自ら亡くなった「真一」に合わせるように髪を染めてみたりもする。それでいて家族の茶番劇には耐えられず、結婚式という茶番劇の最たる場面でやってはいけないことをやってしまう。
ここではその場を適当に取り繕ってやり過ごすことのできないシンイチの未熟さと同時に、善意とは言え自らの期待を押し付けて過ちを繰り返す哲郎の懲りない部分も見えるだろう。
それでもシンイチは「空気を読めない」若者というわけではないのだろう。あまりにシンイチのことに入れ込みすぎて、ややもすれば再婚相手である宏美を疎かにしがちな哲郎に対し、「このままだと誰も幸せになれませんよ」と説教めいた言葉を発したりするあたり、シンイチの人生に対する真摯な態度が表れているようにも感じられた。考え過ぎるから余計に間違ってしまうということもあるのかもしれない。
結婚式から逃げ出したシンイチは、あてもなく彷徨い夜明けを迎える。作品冒頭では夜明けのなかで自殺を図った(?)と思われるシンイチは、今度は自らの意志で哲郎の木工所へと戻ってくる。そこから先は描かれることはないけれど、シンイチが戻ってきたのは哲郎やその周囲の人たちに茶番ではないものを感じ取ったからだろうか。
師匠・是枝作品のようなウェルメイド感はなく、ぎこちない部分もあるし硬すぎる気もする。それでも主演の柳楽優弥が言うように「刺さる人には刺さる」作品だろうと思う。今の一部若者の気持ちを代弁しているところがあるからだ。『ディストラクション・ベイビーズ』とは違って頼りなげな表情を見せる柳楽優弥の姿を、我が事のようにハラハラしながら見守るような気分になった。ラストは何ともカッコ悪いしバツが悪いのだが、それを受け入れろというのが広瀬監督の思いなのかもしれない。
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