『イット・カムズ・アット・ナイト』 疑心暗鬼が一番怖い
長編デビュー作となった『Krisha』(日本未公開)が評判だったらしいトレイ・エドワード・シュルツ監督の第2作。
最近『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』『ヘレディタリー/継承』などでも何かと評判となっているA24の製作。

本作の舞台となるポール(ジョエル・エドガートン)の家は、山のなかにある一軒屋。家の外には人を死に至らしめる何かがいる。そのためポールの家には入り口はひとつしかなく、そこは赤いドアによって閉ざされている。
ある日、そこに闖入者が現れる。ウィル(クリストファー・アボット)一家は水を求めて彷徨ううちにポールの家にたどり着いたらしい。ウィルは家畜を持っているために、ポールは水と交換にウィルを家に招き入れることになる。しかし、ある夜、閉ざされているはずの赤いドアが開いていることが判明する。一体誰がやったのか?
この作品の世界では人類の大半が死に絶えているらしく、わずかながら生き残った人が何かに怯えながら暮らしている。ちょっと前の『クワイエット・プレイス』と似た状況だが、人類の大半が死ぬことになった“それ”の正体が何なのかがわからない点が違うところ。
端的に言えば、『イット・カムズ・アット・ナイト』の“それ”とは、劇中に登場するブリューゲルの絵にあるようなペストと同様の病原菌の類いということになるだろう。だから『クワイエット・プレイス』のようにバケモノが姿を現して大暴れしたりすることがない点で肩透かしを感じる観客も多いのかもしれない(出てきてがっかりする場合も多いから、これはこれでよかったと思う)。

ポールたちはガス・マスクを着けて、“それ”に感染することを防ごうとしているのだが、病原菌が空気感染するのなら夜だけ気をつけてもあまり意味がないはず。それでも夜に赤いドアを閉ざすのは、暗闇が恐ろしいという人間の心理によるのだろう。本当は何もいないはずなのに、見えないどこかに何かが潜んでいるかもしれないと恐れることこそが、“それ”という何がしかの敵を生み出してしまうのだ。実質的な主人公とも言えるトラヴィス(ケルビン・ハリソン・ジュニア)が見る悪夢も、見えない何かを恐れるが故のものだろう。
ポールが家族を守るために課すルールは、“それ”対策のためのものだ。そのひとつが「夜には赤いドアを閉めること」だが、ほかにも「家族以外は信用するな」とか、「感染したら殺害して火葬処理する」という残酷なルールもある。
そして、暗闇のなかに“それ”を見出してしまう人間は、自分たちとは違う人間――たとえば家族以外の人間を恐れることにもなる。ポールたちはウィルたち家族を疑い、ウィルたちはポールたちを恐れ、互いに疑心暗鬼に駆られる。そこでは“それ”とは別の敵を自らが生み出してしまうことになり、外にも内にも敵だらけということになり悲劇が起きることになる。
ポールにとって家族というのは守るべき大事な存在だ。そのためには最初に“それ”に感染した祖父は始末するしかなかった。それによってポールと奥さんとトラヴィスの3人は生き永らえることになる。
ただ、ラストで犠牲になるのはトラヴィスである。祖父の犠牲は老い先短い老人だったからとあきらめられたものの、将来がある息子が犠牲になった場合はどうか? 感染したトラヴィスを始末して、夫婦ふたりだけで生きていくことは可能なのか。さらにもし伴侶のどちらかが感染したら、独りになっても相方を殺して生きるのか。果たしてそんなことまでして生きることに意味があるのか。そんな酷く嫌なことを考えさせるラストカットが秀逸だった。
最近『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』『ヘレディタリー/継承』などでも何かと評判となっているA24の製作。

本作の舞台となるポール(ジョエル・エドガートン)の家は、山のなかにある一軒屋。家の外には人を死に至らしめる何かがいる。そのためポールの家には入り口はひとつしかなく、そこは赤いドアによって閉ざされている。
ある日、そこに闖入者が現れる。ウィル(クリストファー・アボット)一家は水を求めて彷徨ううちにポールの家にたどり着いたらしい。ウィルは家畜を持っているために、ポールは水と交換にウィルを家に招き入れることになる。しかし、ある夜、閉ざされているはずの赤いドアが開いていることが判明する。一体誰がやったのか?
この作品の世界では人類の大半が死に絶えているらしく、わずかながら生き残った人が何かに怯えながら暮らしている。ちょっと前の『クワイエット・プレイス』と似た状況だが、人類の大半が死ぬことになった“それ”の正体が何なのかがわからない点が違うところ。
端的に言えば、『イット・カムズ・アット・ナイト』の“それ”とは、劇中に登場するブリューゲルの絵にあるようなペストと同様の病原菌の類いということになるだろう。だから『クワイエット・プレイス』のようにバケモノが姿を現して大暴れしたりすることがない点で肩透かしを感じる観客も多いのかもしれない(出てきてがっかりする場合も多いから、これはこれでよかったと思う)。

ポールたちはガス・マスクを着けて、“それ”に感染することを防ごうとしているのだが、病原菌が空気感染するのなら夜だけ気をつけてもあまり意味がないはず。それでも夜に赤いドアを閉ざすのは、暗闇が恐ろしいという人間の心理によるのだろう。本当は何もいないはずなのに、見えないどこかに何かが潜んでいるかもしれないと恐れることこそが、“それ”という何がしかの敵を生み出してしまうのだ。実質的な主人公とも言えるトラヴィス(ケルビン・ハリソン・ジュニア)が見る悪夢も、見えない何かを恐れるが故のものだろう。
ポールが家族を守るために課すルールは、“それ”対策のためのものだ。そのひとつが「夜には赤いドアを閉めること」だが、ほかにも「家族以外は信用するな」とか、「感染したら殺害して火葬処理する」という残酷なルールもある。
そして、暗闇のなかに“それ”を見出してしまう人間は、自分たちとは違う人間――たとえば家族以外の人間を恐れることにもなる。ポールたちはウィルたち家族を疑い、ウィルたちはポールたちを恐れ、互いに疑心暗鬼に駆られる。そこでは“それ”とは別の敵を自らが生み出してしまうことになり、外にも内にも敵だらけということになり悲劇が起きることになる。
ポールにとって家族というのは守るべき大事な存在だ。そのためには最初に“それ”に感染した祖父は始末するしかなかった。それによってポールと奥さんとトラヴィスの3人は生き永らえることになる。
ただ、ラストで犠牲になるのはトラヴィスである。祖父の犠牲は老い先短い老人だったからとあきらめられたものの、将来がある息子が犠牲になった場合はどうか? 感染したトラヴィスを始末して、夫婦ふたりだけで生きていくことは可能なのか。さらにもし伴侶のどちらかが感染したら、独りになっても相方を殺して生きるのか。果たしてそんなことまでして生きることに意味があるのか。そんな酷く嫌なことを考えさせるラストカットが秀逸だった。
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