『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』 想いは消えない?

テキサスのある一軒家。そこに住む若いふたりの男女。ある日、交通事故で片割れのC(ケイシー・アフレック)が死んでしまう。しかし、Cは遺体安置所からシーツを被ったまま起きだし、ふたりが住んでいた家に戻ってくる。Cはゴーストとなって、ひとりになってしまったM(ルーニー・マーラ)を見守り続ける。
スタンダード・サイズで角が丸みを帯びた凝ったスクリーンに映し出されるのは、ゴーストとなったCがひたすらMを見守り続ける姿。ゴーストはMに対して自らの存在を知らせることができない。ただ、Mの隣に突っ立っている。というか足があるのかどうかもわからないので、ただそこに存在しているだけとも言える。
しかも片割れCを亡くしたMは新しい男を見つけ、その家を去っていくことになる。それでもゴーストはその家に縛り付けられたまま、新しい住人が来ては去っていく永遠のような時間をそこに存在し続ける。

『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』では後半になって唐突に熱弁を奮う男が登場する。その男によれば、人々は自分のことを忘れて欲しくなくて何かしらの遺産(レガシー)を残そうとする。ただ、それらも宇宙が滅亡する日にはすべて消えてなくなってしまう。要はすべてが無意味なんじゃないかということだ。しかし、本作ではそれは否定されることになる。
というのは男が語っていたのは「人間の世界」の話であり、本作にはそれに重なり合う形で「ゴーストの世界」があるからだ。「人間の世界」の時間は直線的であり終末に向かって進んでいく。一方で「ゴーストの世界」の時間は円環的だ。ここでは世界は再び同じ時間を繰り返すことになる。つまり「ゴーストの世界」ではすべてが消えてなくなることなどないのだ。だからゴーストの視点から見れば、熱弁を奮っていた男は「人間の世界」しか見ていない浅はかな存在ということになるのだろう。
この「ゴーストの世界」の時間は『スローターハウス5』の異星人の時間感覚と似たようなものだろう。
わたしがトラルファマドール星人から学んだもっとも重要なことは、人が死ぬとき、その人は死んだように見えるにすぎない、ということである。過去では、その人はまだ生きているのだから、葬儀の場で泣くのは愚かしいことだ。あらゆる瞬間は、過去、現在、未来を問わず、常に存在してきたのだし、常に存在しつづけるのである。たとえばトラルファマドール星人は、ちょうどわれわれがロッキー山脈をながめると同じように、あらゆる異なる瞬間を一望のうちにおさめることができる。
「ゴーストの世界」では同じ時間が反復する。ゴーストは人間のように退屈したりもせずに、ひたすらにそこに居ることができる。なぜそこに居るのかと言われれば、「人間の世界」に未練があるからだろう。ゴーストは“あの世”への入り口を無視して、Mのいる家に帰ってきたのだから。
そして隣家のゴースト(シーツの柄がかわいらしい)が「待ち人が来ない」ということに納得して成仏したように、CのゴーストもMが家の隙間に残したメモを読むことで成仏する。一度はそのタイミングを逃しても次がある。そして、何度でも気の済むまで同じ時間を繰り返すことができる。つまり人間の営為は決して無駄ではないし、Mの残した想いも消えることはない。人の残したレガシーは「ゴーストの世界」では永遠に形を留めているということになるのだろうと思う。
デヴィッド・ロウリーのデビュー作『セインツ -約束の果て-』はボニーとクライド的な男女を本作と同じケイシー・アフレックとルーニー・マーラが演じ、テレンス・マリックの『地獄の逃避行』を思わせる映像と共に描いていた。前作の『ピートと秘密の友達』はディズニー作品だからちょっと毛色が違うが、本作もどことなく『ツリー・オブ・ライフ』以降のテレンス・マリックを思わせるところがある。
『ツリー・オブ・ライフ』は宇宙誕生からの長い長い時間を見つめる視点から描かれていたし、「これは一体どういう意味なんだろうか」と映像を見つめながら途方に暮れてしまうようなところが似ているのだ。本作ではMが延々とパイを食べ続けるシーンをひたすらに見つめ続ける。これは時間感覚が違うゴーストの視点だからこそなのだけれど、人間としてはその退屈さに飽き飽きしてしまう場面でもある。それでも本作はラストの救いとも感じられる成仏シーン(?)によって、ギリギリわれわれ人間にもわかるところに踏み留まっていたような感じもして、「ゴーストの世界」の円環する時間と同じようにもう一度最初から見てみたいとも思わせるものがあった。
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