『日日是好日』 お茶の効能はマインドフルネス?
監督は『光』『セトウツミ』などの大森立嗣。
原作は森下典子のエッセイ『日日是好日‐「お茶」が教えてくれた15のしあわせ‐』。
タイトルは有名な禅の言葉。後先考えずに始めてしまったこのブログのタイトルもこれをもじったもの。似たようなタイトルのブログを見かけたりもするのでありがちな言葉だったらしい。今となっては遅いけれど……。

「本当にしたいことが何なのかわからない」と感じていた典子(黒木華)は、親の薦めもあって従妹の美智子(多部未華子)と一緒に茶道を始める。茶道教室の武田先生(樹木希林)は、そのたたずまいからして人と違って見えるということで、その先生に教えを受けることになる。
エッセイを元にしているからか物語らしい物語もなく、まったくの素人だった典子が茶道を通して成長していく月日を追っていく。武田先生曰く、茶道は「始めに形をつくっておいて、後から心が入るもの」とのことで、典子はわけもわからぬまま様々なお茶の作法を学んでいく。
描かれるのはほとんどが茶室での出来事だが、四季折々に窓の外に見える自然の様子が美しい。途中で美智子が結婚したりもするし、典子も彼氏と別れたりもするけれど、そうしたことにはあまり触れられない。新しい彼氏も顔すら映らないくらいで、徹底的にお茶のことだけに題材を絞っている(あとは家族の話くらいだろうか)。そう言えば茶道教室の生徒にも男性は皆無だったし、お茶の道にはそうしたドロドロしたものは不要ということなのかもしれない。

「日日是好日」の意味は、「毎日がいい日」とかいう単純なものではないらしい。もともとは禅の言葉で、そこには深い意味があるのだとか。作品中には長い茶道の稽古の末に、典子がその言葉の意味を感得する場面もあって、簡単に言ってしまえば「一期一会」に通じるようなものになるだろうか。
個人的にはこの場面で典子が感じていると思われるお茶の効能は、「マインドフルネス」などと言われるものとよく似ているように思えた。「マインドフルネス」とは簡単に言えば、「今ここで起こっていることに注意を向けること」だ。これはもともと仏教などで行われていた瞑想の効能であり、その宗教色を除いた西洋的な実践が「マインドフルネス」ということになる。
典子は茶道によって、それまで見えなかったものが見え、聞こえなかったものが聞こえてくる。それまでは微妙過ぎて感じ取れなかった「お湯の音」と「水の音」の違いがわかるようになり、かつては「四季」というだけで済ませていた季節の移り変わりも「二十四節気」という細かい区分で感じられるようになる(「清明」なんて区分もあるのだとか)。かつてはつまらなかった映画『道』(この選択は“道”つながり?)が大事な作品と思えるようになったのも、典子の成長ということなのだろう。
茶道は禅とは別のものだけれど、その境地には似たような部分があるのかもしれない。武田先生が達観しているように見えるのも、茶道の効能によって人生が豊かになっていることの表れなのだろう。
この作品を観ることだけでは茶道の効能はないかもしれないけれど、のんびりと落ち着いた作風に癒しは感じられるんじゃないだろうか。先日亡くなられた樹木希林の演技はあまりに自然でアドリブかとも思われるようだったし、「毎年同じことができるってことが幸せ」という劇中の台詞は樹木希林自身の言葉のようにも響いた。それから『リップヴァンウィンクルの花嫁』に陶酔した者としては、黒木華の和服姿というのも見逃せないところじゃないんだろうかと思う。






原作は森下典子のエッセイ『日日是好日‐「お茶」が教えてくれた15のしあわせ‐』。
タイトルは有名な禅の言葉。後先考えずに始めてしまったこのブログのタイトルもこれをもじったもの。似たようなタイトルのブログを見かけたりもするのでありがちな言葉だったらしい。今となっては遅いけれど……。

「本当にしたいことが何なのかわからない」と感じていた典子(黒木華)は、親の薦めもあって従妹の美智子(多部未華子)と一緒に茶道を始める。茶道教室の武田先生(樹木希林)は、そのたたずまいからして人と違って見えるということで、その先生に教えを受けることになる。
エッセイを元にしているからか物語らしい物語もなく、まったくの素人だった典子が茶道を通して成長していく月日を追っていく。武田先生曰く、茶道は「始めに形をつくっておいて、後から心が入るもの」とのことで、典子はわけもわからぬまま様々なお茶の作法を学んでいく。
描かれるのはほとんどが茶室での出来事だが、四季折々に窓の外に見える自然の様子が美しい。途中で美智子が結婚したりもするし、典子も彼氏と別れたりもするけれど、そうしたことにはあまり触れられない。新しい彼氏も顔すら映らないくらいで、徹底的にお茶のことだけに題材を絞っている(あとは家族の話くらいだろうか)。そう言えば茶道教室の生徒にも男性は皆無だったし、お茶の道にはそうしたドロドロしたものは不要ということなのかもしれない。

「日日是好日」の意味は、「毎日がいい日」とかいう単純なものではないらしい。もともとは禅の言葉で、そこには深い意味があるのだとか。作品中には長い茶道の稽古の末に、典子がその言葉の意味を感得する場面もあって、簡単に言ってしまえば「一期一会」に通じるようなものになるだろうか。
個人的にはこの場面で典子が感じていると思われるお茶の効能は、「マインドフルネス」などと言われるものとよく似ているように思えた。「マインドフルネス」とは簡単に言えば、「今ここで起こっていることに注意を向けること」だ。これはもともと仏教などで行われていた瞑想の効能であり、その宗教色を除いた西洋的な実践が「マインドフルネス」ということになる。
典子は茶道によって、それまで見えなかったものが見え、聞こえなかったものが聞こえてくる。それまでは微妙過ぎて感じ取れなかった「お湯の音」と「水の音」の違いがわかるようになり、かつては「四季」というだけで済ませていた季節の移り変わりも「二十四節気」という細かい区分で感じられるようになる(「清明」なんて区分もあるのだとか)。かつてはつまらなかった映画『道』(この選択は“道”つながり?)が大事な作品と思えるようになったのも、典子の成長ということなのだろう。
茶道は禅とは別のものだけれど、その境地には似たような部分があるのかもしれない。武田先生が達観しているように見えるのも、茶道の効能によって人生が豊かになっていることの表れなのだろう。
この作品を観ることだけでは茶道の効能はないかもしれないけれど、のんびりと落ち着いた作風に癒しは感じられるんじゃないだろうか。先日亡くなられた樹木希林の演技はあまりに自然でアドリブかとも思われるようだったし、「毎年同じことができるってことが幸せ」という劇中の台詞は樹木希林自身の言葉のようにも響いた。それから『リップヴァンウィンクルの花嫁』に陶酔した者としては、黒木華の和服姿というのも見逃せないところじゃないんだろうかと思う。
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