『クワイエット・プレイス』 劇場ではマナーを守りましょうという映画?

この作品では世界は“何か”によってほとんど壊滅状態にある。その“何か”は音に反応して現れるらしく、音を立てれば人間は生きてはいけない状況なのだ。本作は“何か”が地球上に現れてから89日目の時点からスタートするのだが、その時点で街の機能は停止し、主人公たち家族以外の姿は見えない。
実際には街から離れた場所にひっそりと暮らしている人がいることも推測されるのだが(夜のかがり火によって)、音を立てることが命を落とすことにつながるために、行動を制限され家族以外の誰かとコミュミケーションをとることも難しいということなのだろう。電話が鳴ったりしたら即死亡という状況では気軽に連絡することも憚られるというわけだ。
リー(ジョン・クラシンスキー)とエヴリン(エミリー・ブラント)の夫婦が家族と共に生き延びてきていたのは、日常生活の動線となる場所には砂を敷いて消音を図るとか、足音を最小限にするために裸足になるとか工夫をしていたからなのだろう。さらに彼らの娘リーガン(ミリセント・シモンズ)が聴覚障害者のため、家族内で手話を使うことができたからなのかもしれない。
※ 以下、ネタバレもあり! 結末についても触れているので要注意!!

キャッチ・コピーにある「音を立てたら、即死」という設定は『ドント・ブリーズ』を思わせるけれど、『ドント・ブリーズ』の舞台が一軒家のなかだけだったのに対し、『クワイエット・プレイス』ではその範囲が世界全体にも及んでいる。したがって逃げ場がないとも言えるのだけれど、世界は広大なわけで、少しの音なら大丈夫ということでもある。だから大きな音さえ立てなければ、リー一家にも平穏な生活がある。
ここから先はネタバレだけれど、音に反応する“何か”とは、宇宙から飛来してきたモンスターだ。彼らは外皮が硬い物質でできていて、目は見えないらしい。ただ聴覚だけは異常に発達していて、生物が動く音などを感知するとそれを襲撃して捕獲する。その動きは素早くて、ガタイも人間よりはデカイので戦ったらほとんど絶望的だ。
ホラー映画では絶叫クイーンなどと呼ばれる女性が登場して、モンスターに遭遇するたびに絶叫して逃げ回るというのが定番のパターン。しかし本作ではそれは封じられている。というのは絶叫すれば即死亡を意味するから。
だから登場人物たちも息をひそめるようにして生活しているわけで、それを見守る観客としても息をひそめて見守るほかない。だから絶叫クイーンがモンスターから逃げ回るのを、ポップコーンをガサゴソやりながら楽しむ感覚ではない。ちょっとの音さえも気になって緊張感が持続する作品になっているのだ。そんな意味では静かな劇場でほかの多くの観客と見るのが一番なのだろう。多分、ひとりで見てもあまり緊張感は味わえないような気もするから。
もっともツッコミどころは多い。長男がモンスターに殺される場面で子供が予想外の行動をしてしまうのは学んでいるはずなのに、すぐにまた妊娠しているのはちょっと唖然とするし、生まれた子供が実におとなしく泣き声すらも上げないというのはやはりご都合主義ということになるだろう。それでも95分という時間に必要最低限のエピソードだけをテンポよく盛り込んでいて、楽しめる作品になっていた。監督でもあるジョン・クラシンスキーの最期の場面はちょっとカッコつけすぎだと思うけれど……。
唐突に現れたモンスターに人間世界も変わらざると得ないという状況はなかなかおもしろかった。今ある生活は、この世界からほとんどの外敵を排除してきたからこその“文化的な生活”ということだろうか。外敵がすぐ近くにいては大きな音を立てることはもちろんのこと、歌うことも踊ることも憚られるわけだから。
そんななか、劇伴以外で流れる唯一の音楽がニール・ヤングの「Harvest Moon」だったのも個人的には嬉しかったところ。ちなみに「Harvest Moon」の歌詞を確認してみると、旦那から妻へのラブレターのような内容で、それは劇中の夫婦の話でもあるけれど、現実の監督と主演女優の話でもあるのかもしれない(つまりノロケ)。
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