『カメラを止めるな!』 観客を楽しませるサービス満載の娯楽作
監督・脚本・編集はこの作品が劇場用長編デビュー作となる上田慎一郎。
新宿K's cinemaおよび池袋シネマ・ロサという2館での限定的な公開だった作品だが、SNSなどで人気が広がり全国100館以上で上映されることになったという話題の作品。

冒頭から37分間に及ぶワンカット撮影でのゾンビ映画「ONE CUT OF THE DEAD」が始まる。この映画はゾンビ映画を撮影に来ていた製作陣たちが本物のゾンビに襲われるという話。いかにもチープな作りとなっているのは「低予算だから仕方ないのかな」なんてことも感じさせつつ進んでいくのだが、どこかで違和感もある。意味のない会話のやりとりや、妙に間延びした部分があるからだ。ただ、後半になってその理由が明かされる一気に謎が氷解してスッキリさせてくれる。さらには映画愛や家族愛なんかも感じさせる部分もあり感動的ですらあった。とにかくヒットするのも納得のエンターテインメント作品となっていたと思う。
※ 以下、ネタバレもあり! ネタバレ厳禁の展開についても触れているので要注意!!

この作品は3部構成となっていて、第1部のゾンビ映画「ONE CUT OF THE DEAD」が終わると、時間は1カ月前の出来事に遡る。「ONE CUT OF THE DEAD」の製作が日暮隆之監督(濱津隆之)に持ち込まれるところから第2部ということになる。
日暮監督のウリは「早い、安い、質はソコソコ」というもので、映画製作は好きだけれど、妥協しながら生きている男なのだ。今回のゾンビ映画はテレビ用の作品としてワンカットでしかも生中継として放送されるということに決定している。「作品よりも放送のほうが大事」というプロデューサーにとって、「質はソコソコ」でも放送できる堅実な作品をつくってくれるであろう日暮監督が選ばれたということになる。
さらに第3部では実際に生中継で放送される「ONE CUT OF THE DEAD」の裏側が垣間見られることになる。これによって冒頭で見ていた「ONE CUT OF THE DEAD」がまた別のものに感じられてくるというところが『カメラを止めるな!』のおもしろいところなのだ。
劇中劇である「ONE CUT OF THE DEAD」にも登場する日暮監督は、役者陣をどなり散らす暴君として振舞っていた。しかし、第2部で明らかにされる日暮監督の実像は、腰が低くて役者やプロデューサーに何も言うことができない妥協だらけの人間だということがわかってくる。それがたまたま監督役の役者のトラブルにより、日暮監督自身が劇中劇でも監督を演じることになる。そのなかでアドリブ的に出てきてしまったのが、役者陣を罵倒する言葉だったというワケだ。劇中劇での暴君監督ぶりが、第3部で撮影の裏側を見ると好き勝手なワガママを言っていた役者陣に対する意趣返しとなっていたことがわかって一気にスッキリさせるのだ。
映画製作の裏側を見せる作品というのは色々あるけれど、この作品がおもしろかったのは映画が脚本という大元の構想はあっても、様々なアクシデントに対する臨機応変な対処や現実的な妥協との間の葛藤のなかでできあがっていくところを見せてくれたところ。実写映画では偶然の出来事が映り込んでしまう場合があるというのがおもしろいところで、すべてをコントロールしてつくりあげていくアニメやCGとは違ったよさがあるのだと思う。
劇中劇「ONE CUT OF THE DEAD」は生中継という1回限りのものという設定。だからこそやり直しは効かないわけで、もともとの脚本とは違うものになっていく。それでも製作陣の頑張りと、加えて監督の奥さんと娘の協力によって、何とか作品として成り立っていくあたりが何とも感動的なのだ(奥さんのほうはかえってトラブルを引き起こすことにもなるのだが)。そして最初に感じていた劇中劇に対する間延び感も、その裏側を知ることになると作品を成立させるためのギリギリのサスペンスとして機能してくるあたりがよく出来ていた。このうまさが、一度見た観客をさらに繰り返し劇場へと足を運ばせることになっている要因なんじゃないだろうか。
メタ・フィクションのレベルで言えば、劇中劇「ONE CUT OF THE DEAD」のメタのレベルに映画作品としての『カメラを止めるな!』があるという構造だけれど、さらにエンディングでは『カメラを止めるな!』を製作するスタッフの姿も映し出されている。
劇中劇「ONE CUT OF THE DEAD」の日暮監督役は濱津隆之という役者さんだが、『カメラを止めるな!』の監督は上田慎一郎監督。それと同じようにカメラマンも複数登場する。劇中劇を撮影しているのは腰痛持ちの男性カメラマンとその助手の女の子(浅森咲希奈)。しかし男性カメラマンは途中で腰痛の影響でダウンし、助手にバトンタッチする。劇中劇ではカメラが地面に放置され、ここでカメラマンが交代したという設定になっている(撮影のタッチも変化するあたりも芸が細かい)。
しかしエンドロールでの映像を見ると、別の事情が見えてくる。『カメラを止めるな!』のカメラマンとしてクレジットされている曽根剛は、この場面でカメラを地面に置いて休憩しつつ水分補給をしているのだ。というのも、37分間という長時間役者を追いかけ続ける重労働のために、中休みとしてそれが必要とされていたということなんだろう。
劇中劇「ONE CUT OF THE DEAD」撮影の裏側を見せてくれる『カメラを止めるな!』第3部に対して、『カメラを止めるな!』撮影の裏側を見せてくれるのがエンドロール映像だということになる。なかなか複雑なメタ構造になっているわけだが、そんな裏側をさりげなくエンドロールでそれを見せてくれるサービスにも、観客を楽しませようという監督の心意気が感じられた。低予算でもこんな楽しい作品を作り上げてしまう上田監督の映画愛もひしひしと感じた。
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