『2重螺旋の恋人』 ダブルの妄想
『婚約者の友人』『17歳』などのフランソワ・オゾン監督の最新作。
主役には『17歳』のマリーヌ・ヴァクト。初々しい高校生役だった彼女だが、このときすでにいい大人だったらしく、今では一児の母だとか。
原題は「L'Amant double」。

原因不明の腹痛によって精神科を受診することになったクロエ(マリーヌ・ヴァクト)は、その精神科医のポール(ジェレミー・レニエ)と同棲生活を始める。しかしポールには秘密があり、パスポートの名前は苗字が違っている。実はそれは母方の苗字だという……。そのころクロエは街でポールと瓜二つのルイ(ジェレミー・レニエの二役)という精神科医に出会う。
ポールとルイは実は双子の兄弟だ。しかし、ポールはルイの存在をなかったかのように振舞っている。一方でルイはポールに対抗心を抱いているようでもある。ふたりの過去に何があったのか?
ふたりは共に精神科医だが、診療方法は対照的だ。黙ってクロエの話を聞くことに徹するポールに対し、ルイは挑発的にクロエに接している。ポールはクロエとの関係が恋愛へと発展することになると、診療はできないという精神科医として誠実な対応をするが、ルイは診察室でクロエに迫るという無茶苦茶なことをやっている。そもそもふたりは性格からして対照的な双子なのだ。クロエはポールと同棲しつつも、なぜかルイの存在のことも気になってしまう。
※ 以下、ネタバレもあり!

『戦慄の絆』(デヴィッド・クローネンバーグ監督)あたりを思わせる双子の兄弟の間で揺れる女性という三角関係から始まり、双子の間に生じた確執の話へと移行し、さらにその先の予想もつなかいオチへ……。前作『婚約者の友人』は「クラシカルな雰囲気を持つ作品」だったと書いたのだけれど、『2重螺旋の恋人』は一転してキワモノ的な作品となっている。
言ってみれば、ほとんどすべてがクロエの妄想だったというオチになるわけだが、本作はクロエという主人公の妄想以外に、監督フランソワ・オゾンの妄想も交じり合っているんじゃないかとも思えるのだ。
『17歳』でも美貌が際立っていたマリーヌ・ヴァクトを本作の冒頭でショートカットにさせたのはなぜか。断髪式の際のうらめしいような目付きと、その後の陰部の診察や精神科受診といった展開から性的虐待によるPTSDなのかと思っていたのだけれど、そうではないらしく結局のところは原因不明の腹痛ということらしい(この腹痛が最後のオチへとつながる)。
マリーヌ・ヴァクト演じるクロエは本作ではほとんどパンツルックで、スタイルもこれ以上ないくらいの痩身で、どこか男性のようにも見える瞬間がある。オゾンは双子という要素に加え、同性愛的なものを付け加えたかったのかもしれない。
双子のポールとルイはクロエを間に挟んでのセックスのなかで、兄弟同士でキスをするシーンもある。この場面はオゾン自身のかねてからの妄想を映像化したものらしい(どこかでそんなインタビューを読んだ)。同性愛者というのはナルシシズムと親和性が高いということなのだろうか?
さらに奇妙だったのは、クロエがポールを相手に擬似ペニスまで使ってアナルを攻め立てるというマニアックなシーン。オゾンはこのシーンについて「支配と従属の関係性」を描いたものだと説明している(こちらのサイトを参照)。
男女関係に「支配と従属の関係性」があるように、同性にだってそういう関係がある。そして、まったく同じ遺伝子を持つ双子にすらも「支配と従属の関係性」があるのだという。この指摘自体はおもしろいのだけれど、ポールとルイの間の「支配と従属の関係性」が描かれたというわけではなく、普通の男女の立場が逆転しているだけとも言える。男女の「支配と従属の関係性」を描くのだったらほかにも手段があるわけで、単純にオゾンのアブノーマルな妄想が映像化されているだけのようにも感じられるのだ。つまりオゾンはおもしろがっているのだ。
その証拠に、ヒッチコックの『白い恐怖』の扉が開いていく場面のパロディのようなシーンがあるのだけれど、それを女性のアレで表現したりもしている。もちろん悪ノリ以外の何ものでもない。
すべてが終わったあとのラストでクロエはポールと交わりつつ、その姿をもうひとりのクロエに見つめられている。セックス中の自分を自分が見つめているというシーンは『17歳』にも登場していた。このとき私は「自我の目覚め」といった解釈をしていたのだけれど、オゾンにとってこのシーンはもっと重要な何かが秘められているのかもしれない。キワモノ作品だけれどフランソワ・オゾンを精神分析するとしたら最適な作品なのかもしれない。



主役には『17歳』のマリーヌ・ヴァクト。初々しい高校生役だった彼女だが、このときすでにいい大人だったらしく、今では一児の母だとか。
原題は「L'Amant double」。

原因不明の腹痛によって精神科を受診することになったクロエ(マリーヌ・ヴァクト)は、その精神科医のポール(ジェレミー・レニエ)と同棲生活を始める。しかしポールには秘密があり、パスポートの名前は苗字が違っている。実はそれは母方の苗字だという……。そのころクロエは街でポールと瓜二つのルイ(ジェレミー・レニエの二役)という精神科医に出会う。
ポールとルイは実は双子の兄弟だ。しかし、ポールはルイの存在をなかったかのように振舞っている。一方でルイはポールに対抗心を抱いているようでもある。ふたりの過去に何があったのか?
ふたりは共に精神科医だが、診療方法は対照的だ。黙ってクロエの話を聞くことに徹するポールに対し、ルイは挑発的にクロエに接している。ポールはクロエとの関係が恋愛へと発展することになると、診療はできないという精神科医として誠実な対応をするが、ルイは診察室でクロエに迫るという無茶苦茶なことをやっている。そもそもふたりは性格からして対照的な双子なのだ。クロエはポールと同棲しつつも、なぜかルイの存在のことも気になってしまう。
※ 以下、ネタバレもあり!

『戦慄の絆』(デヴィッド・クローネンバーグ監督)あたりを思わせる双子の兄弟の間で揺れる女性という三角関係から始まり、双子の間に生じた確執の話へと移行し、さらにその先の予想もつなかいオチへ……。前作『婚約者の友人』は「クラシカルな雰囲気を持つ作品」だったと書いたのだけれど、『2重螺旋の恋人』は一転してキワモノ的な作品となっている。
言ってみれば、ほとんどすべてがクロエの妄想だったというオチになるわけだが、本作はクロエという主人公の妄想以外に、監督フランソワ・オゾンの妄想も交じり合っているんじゃないかとも思えるのだ。
『17歳』でも美貌が際立っていたマリーヌ・ヴァクトを本作の冒頭でショートカットにさせたのはなぜか。断髪式の際のうらめしいような目付きと、その後の陰部の診察や精神科受診といった展開から性的虐待によるPTSDなのかと思っていたのだけれど、そうではないらしく結局のところは原因不明の腹痛ということらしい(この腹痛が最後のオチへとつながる)。
マリーヌ・ヴァクト演じるクロエは本作ではほとんどパンツルックで、スタイルもこれ以上ないくらいの痩身で、どこか男性のようにも見える瞬間がある。オゾンは双子という要素に加え、同性愛的なものを付け加えたかったのかもしれない。
双子のポールとルイはクロエを間に挟んでのセックスのなかで、兄弟同士でキスをするシーンもある。この場面はオゾン自身のかねてからの妄想を映像化したものらしい(どこかでそんなインタビューを読んだ)。同性愛者というのはナルシシズムと親和性が高いということなのだろうか?
さらに奇妙だったのは、クロエがポールを相手に擬似ペニスまで使ってアナルを攻め立てるというマニアックなシーン。オゾンはこのシーンについて「支配と従属の関係性」を描いたものだと説明している(こちらのサイトを参照)。
男女関係に「支配と従属の関係性」があるように、同性にだってそういう関係がある。そして、まったく同じ遺伝子を持つ双子にすらも「支配と従属の関係性」があるのだという。この指摘自体はおもしろいのだけれど、ポールとルイの間の「支配と従属の関係性」が描かれたというわけではなく、普通の男女の立場が逆転しているだけとも言える。男女の「支配と従属の関係性」を描くのだったらほかにも手段があるわけで、単純にオゾンのアブノーマルな妄想が映像化されているだけのようにも感じられるのだ。つまりオゾンはおもしろがっているのだ。
その証拠に、ヒッチコックの『白い恐怖』の扉が開いていく場面のパロディのようなシーンがあるのだけれど、それを女性のアレで表現したりもしている。もちろん悪ノリ以外の何ものでもない。
すべてが終わったあとのラストでクロエはポールと交わりつつ、その姿をもうひとりのクロエに見つめられている。セックス中の自分を自分が見つめているというシーンは『17歳』にも登場していた。このとき私は「自我の目覚め」といった解釈をしていたのだけれど、オゾンにとってこのシーンはもっと重要な何かが秘められているのかもしれない。キワモノ作品だけれどフランソワ・オゾンを精神分析するとしたら最適な作品なのかもしれない。
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この記事へのコメント:
まれ
Date2019.02.18 (月) 10:14:48
そこで、ここ数年、映画から遠ざかっていたので、監督はどんな映画を撮っていたのか検索し、「2重螺旋の恋人」と「婚約者の友人」のネタバレ込みの解説を読んでました。でも、他の方の解説では監督作品の「行間」がわからず、Nickさんの解説で良くわかりました。
「2重螺旋」では主従関係の描写で何がいいたいのかわからず、クロエに同性愛的要素で納得しました。監督自身が同性愛者というのも、今回初めて知り、今まで観た作品における性表現の美しいけれど、そこまでと感じてた理由、わかった気がしました。
「婚約者」は絵画との因果関係について記載している解説がなかったので、Nickさんの解説で理解できました。読み取れるない人もいるかもしれないですね。どちらもオゾン作品らしい。最新作も監督のセクシャリティを考えると、広く世間に問題提起にすべき事件で、踏み込みやすい立場だと納得です。
彼の作品は結末を知ってからの方が伏線的なところを楽しめると思うので、いつか観たいと思いました。他の作品の感想も読んでみようと思います。ありがとうございました。
Nick
Date2019.02.18 (月) 23:05:46
> 最新作「Grâce à Dieu」の延期要求に対する判決がでるというニュース
オゾン監督の最新作はそんなトラブルになっているんですね。
海外の情報まで追う余裕がなくてまったく知りませんでした。
「2重螺旋の恋人」と「婚約者の友人」の記事を読んでいただきありがとうございます。
自分でも振り返ってみると、
オゾン作品についてのレビューは結構長くなることが多いような気がします。
何となく色々と書きたくなることが出てくる作品なのかもしれません。
最新作も公開延期を要求されているということですから、
センセーショナルな作品になっているということなのでしょうね。
今からちょっと楽しみです。
まれ
Date2019.02.20 (水) 02:31:58
Nick
Date2019.02.23 (土) 00:27:25
ありがとうございます。
>古いですがデヴィッド リンチやスタンリーキューブリック作品が好きだったので、
リンチやキューブリックの作品はもちろん一通り観ています。
古い作品は言い尽くされているところがあって、
新しく書くのは大変そうなので手を出してませんでした。
リンチはちょっと前に『ツイン・ピークス』の新シリーズを観ました。
前シリーズは25年も前の話だったので忘れているところもあって、
もう一度前シリーズを振り返ろうかとも思っているうちに時間が経ってしまいました。
ケーブルテレビでの放映だからか結構攻めた内容になっているように思えました。
ブログに文章を書くのも嫌いではないですが、
やはり観るほうが好きなのかもしれません。
まれ
Date2019.02.23 (土) 09:10:36
ツインピークス、曲がとても流行っていて覚えていますが、ドラマは観ていませんでした。しばらく経ってからネタバレ検索したものの、結論が出ていなかったような..だから新シリーズが始まるということですかね?
Nick
Date2019.02.24 (日) 17:41:20
リンチの『ツイン・ピークス』はこれでは終わらず、さらに続きそうな感じもします。