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『パンク侍、斬られて候』 嘘っぽい世の中をやり過ごすには

 原作は町田康の同名小説。脚本には宮藤官九郎
 監督は『爆裂都市 BURST CITY』『シャニダールの花』などの石井岳龍

石井岳龍 『パンク侍、斬られて候』 主人公を演じるのは綾野剛。『シャニダールの花』『ソレダケ / that’s it』に続き、3作目の石井監督とのコンビ。


 時は江戸時代。とある街道沿いで主人公の掛十之進(綾野剛)が腹ふり党の残党だと思わしき男を斬り殺す。それを目撃した黒和藩藩士・長岡主馬(近藤公園)は「なにゆえ男を斬ったのか」と問いかけると、掛十之進は腹ふり党と呼ばれる邪教の恐ろしさを語り出す。

 腹ふり党という宗教があったことは本当のことだし、それによって混乱が生じた藩もあったらしいのだが、実は殺された男は腹ふり党とはまったく関係ない人物。掛十之進は間違って斬ってしまったのだ。というのも牢人(浪人)としての生活は楽ではないし、この辺でそろそろ仕官して安定した暮らしがしたかったから。
 間違いとはいえ斬ってしまったものはもう生き返らないしとばかりに掛十之進は嘘八百を続け、その嘘を利用しようと企む内藤帯刀(豊川悦司)の手助けもあってうまく立ち回ったものの、腹ふり党の元幹部・茶山半郎(浅野忠信)を担ぎ出して腹ふり党再興プロジェクトを立ち上げてみたところとんでもない大騒ぎに発展してしまう。

『パンク侍、斬られて候』 カラフルな衣装も映える北川景子が演じるろんの正体は?

 腹ふり党とは何か? 彼らの教義によればこの世界は巨大なサナダ虫の腹の中なのだという。そんな世界から抜け出すためにはサナダ虫の腹をくださなければならない。腹をくださせるにはサナダ虫にとっての毒になる必要がある。毒となればサナダ虫はそれを排出しようするわけで、悪事でも何でもやり放題をすれば、この世界から抜け出し――つまりはサナダ虫の肛門から排出され――真正世界を垣間見ることができる。
 もちろんこうした教義は狂っている。わけがわからないし、ありがたみもなさそうだ。ただ、「この世が嘘である」という一事においては当たっている。真正世界はどこか別にあって、間違った嘘の世界で苦しんでいる。その部分では誰もが認識を同じくしている。
 腹をふれば真正世界に抜け出せるわけではないのだが、嘘の世界に留まっているだけは何のおもしろみもない。そんなわけで「同じ阿呆なら踊らにゃ損々」となかばやけくそ気味に腹をふり始めると、それなりに楽しくなってきて真似するものも出てくる。みんながやっていると右へ倣えが続いていき、段々収拾がつかなくなってくる。

 主人公はすべての発端にいながらも自分で巻き起こした大騒動に驚くばかりだし、藩の治世を担う黒和直仁(東出昌大)や内藤たちにとっても腹ふり党はやっかいな代物だったわけだけれど、それなりにこのバカ騒ぎを楽しんでもいたようにも見える。どうもこの世は嘘っぽいという感覚は江戸時代も共通していて、だからどうすればいいのかというと「パンクであれ」ということなのだろう。となると「パンクとは何か」と問われることになるわけだが、そこはよくわからないのだけれど……。
 『爆裂都市 BURST CITY』(石井聰亙名義)では、重要な役柄で登場していた町田町蔵は、劇中で一言も口をきかず「あー」とか唸り声とも叫び声とも言える音を発していた。そんな町田康が作家となって書き上げた『パンク侍、斬られて候』は、その語り口こそがパンクなんじゃないんだろうか。つまりはパンクとは嘘っぽい世の中をやり過ごすための方策みたいなものなのだろう。
 その映画化である本作は、原作の語り口を活かし、ある登場人(?)物によるナレーションで心内語を描写し、混沌としたエネルギーをぶちまけるテンションの高い作品となっている。本作にとってはこの熱量こそがパンクということになるだろうか。
 時代は江戸なのに横文字ばかりが登場するというデタラメさに、カラフルな衣装、サル軍団の大立ち回り、超能力による人間花火、そして大人数での腹踊りの賑やかさなど見どころは多い(腹黒い内藤を演じる豊川悦司と綾野剛の掛け合いもおもしろい)。超人的剣客を自称する掛十之進と、それを暗殺しようとする真鍋五千郎(村上淳)の闘いはスピードがあってよかったし、“人間炬燵”という秘儀をプロレス技に移行させるなど遊び心もあって楽しめる作品となっていたと思う。原作に気を使ったのか、それに忠実すぎてエネルギーを削がれているように感じられたのが惜しいところかも。『爆裂都市 BURST CITY』なんてもっと混沌としていたような気がするし。

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Date: 2018.07.08 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (5)

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