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『死の谷間』 ネオ・ジェネシス?

 監督は『コンプライアンス 服従の心理』クレイグ・ゾベル。『コンプライアンス』は実話を元にした作品で、何とも不快でイライラさせられる点が素晴らしかった。
 原作はロバート・C・オブライエンの小説『死の影の谷間』。
 原題は「Z For Zachariah」

クレイグ・ゾベル 『死の谷間』 マーゴット・ロビーが『スーサイド・スクワッド』あたりでブレイクする前に撮った作品。

 死の灰に覆われた核戦争後の世界のなかで唯一汚染されていない谷。どことなく『風の谷のナウシカ』なんかを思わせる設定だが、この作品が描こうとしているのは新しい「アダムとイブ」の物語ということになるようだ。
 その谷間での唯一の生存者アン(マーゴット・ロビー)は、愛犬と一緒に誰もいなくなった我が家に住んでいる。スーパーの食品もあらかた食べ尽くし、自給自足で生きていく方法を探している。そんなある日、谷間に防護服を来た誰かがやってくる。
 自らを唯一の生存者と思っていたアンは、自分以外の人間が生きていたことに喜びを感じつつも、その人間がどんな人物なのかがわからずに遠巻きに様子を窺う。しかしそのうちにその黒人男性ジョン(キウェテル・イジョフォー)は汚染された水の泉に浸かってしまい、体調を崩すことになってしまう。アンはジョンを助け、体力回復のために一緒に生活することになる。

『死の谷間』 微妙なバランスの上に成り立つ三角関係。

 まだ若くて健康的なアンと、放射能の被害に苦しむ中年男性ジョン。そんなふたりが新しいアダムとイブなのかと思っていると、そこに第三の男が登場するところが「創世記」のそれとは違うところ。
 ジョンはアンとふたりだけの生活をそれなりに楽しんだりもし、男女の関係にもなりかけるのだけれど、時間はたっぷりあるからと手を出さないのだ。そうこうしているうちに別の男ケイレブ(クリス・パイン)――白人で、アンと同じくキリスト教徒――がやってきたものだから、妙な三角関係になってしまう。
 世界の終わりという危機的な状況のなかで、何とも日常的なじれったい三角関係が描かれていく。三人がその谷で冬を越すためには水車を作り、電気を使えるようにすることが必要とされる。そのためにはケイレブの体力と、科学者としてジョンの知識も必要となる。微妙なバランスの上に成り立つ関係は水車の完成とともに崩れることになるのだが、その結末は明確に示されるわけではない。

 原題は「Z For Zachariah」というもの。これは映画『死の谷間』のなかにも登場する「A For Adam」という絵本と対になっている。これは「ドレミの歌」みたいに、「AはアダムのA」から始まって「ZはザカリアのZ」で終わるものだ。つまりは原題が「Z For Zachariah」となっているのは、人類の始祖であるアダムとイブではなく「最後の人」という意味合いもあるのかもしれない。
 3人が食卓を囲んでの告白合戦の際には、自分たちが見てきた世界の終わりの壮絶さが語られる。誰もが酷い世界を経験してきたわけだが、ジョンがアンに対して一歩踏み込めなかったのもそうした過去が影響しているらしい。どちらかと言えば本能的に生きているケイレブは無頓着だったからこそアンと結ばれることになったのかもしれない。考えすぎるとうまくいかないという教訓話をしたいわけではないと思うのだけれど、曖昧すぎて新しい「アダムとイブ」像というものが見えてくることはなかったようにも思えた。
 ちなみに原作は映画とはまったく異なるものだった。そもそも第三の男は登場しないのだから。しかもアンはまだ16歳の子供という設定。映画でアンを演じたマーゴット・ロビーはもっと大人に見えたし、積極的に次世代のことを考えていたようにすら見えたのだけれど……。

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Date: 2018.07.06 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (2)

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2018.07.07

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2018.07.27

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