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『ザ・スクエア 思いやりの聖域』 「気まずさ」の感覚

 『フレンチアルプスで起きたこと』リューベン・オストルンド監督の最新作。
 カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した作品。

リューベン・オストルンド 『ザ・スクエア 思いやりの聖域』 テリー・ノタリー演じるモンキーマン。一応これもパフォーマンス・アートということになっているのだが……。

 美術館のキュレーターのクリスティアン(クレス・バング)は、次の展示として「ザ・スクエア」という現代美術作品を選ぶ。この正方形のなかでは「すべての人が平等の権利を持ち、公平に扱われる」という設定だ。
 この美術作品は横断歩道のような役割を持つ。横断歩道では自動車は歩行者に注意をしなければならないとされているように、「ザ・スクエア」のなかでは普段の社会的地位などとは無関係に誰もが平等で公平であるべき。身体が不自由な者がいれば手を差し伸べなければならないし、お腹を空かせている者がいれば食べ物を分け与えなければならない。
 当たり前と言えば当たり前なのだけれど、実際には実行することは難しい博愛精神。「ザ・スクエア」という美術作品は、目に見える形でそうした空間を創り出すことで、今一度普段は見過ごしていることを問題提起しているということになる。
 それを積極的に推すクリスティアンは悪い奴ではない。たとえ偽善的だったとしても、博愛精神という理想を忘れていない程度にはいい奴である。ただ現実にはどうかと言うと、理想ほどうまくはいかない。
 クリスティアンは助けを求める女性を気にかける程度にはいい奴で、だからこそスリの被害に遭ったりもする。ただ、その女性が実際にはスリ集団の一味だと知ると、盗まれたスマホと財布を取り戻すために、突き止めた貧困地区のマンション全戸に脅しの文書を入れるほど、博愛精神からはほど遠い人物でもある。クリスティアンはその脅しの文書によって余計に自分の首を絞めることになっていく。

『ザ・スクエア 思いやりの聖域』 このなかでは「すべての人が平等の権利を持ち、公平に扱われる」という設定の現代美術作品。

様々な正方形
 みんなで助け合いながら踊るチアリーディングの場面など、タイトルからしてスクリーンのなかの正方形が目に付くことになる。とはいえ一番の正方形はスクリーンという正方形(実際にはビスタサイズだったから長方形だけれど)とも言える。
 この作品では、そのスクリーンの外側を意識させるような演出が何度もなされている。スリの場面でも叫び声が響くのはスクリーンの枠の外側からだし、クリスティアンの脅迫状によって迷惑を被る少年の助けを求める声もスクリーンの外側から聞こえてくる。
 なぜそんな演出が選択されているかと言えば、「ザ・スクエア」の内部だけで博愛主義が意識されればいいわけではないからだろう。「ザ・スクエア」という美術作品によって人々が博愛精神を掻き立てられ、どんな場所においてもそれが意識されることが意図されるのと同様に、スクリーンの外側にいるこの映画の観客もクリスティアンのことが他人事ではないような気持ちになるだろう。

◆「気まずい」感覚
 『ザ・スクエア』はどちらかと言えば散漫なエピソードの集まりのようでもあるのだけれど、共通しているのは「気まずさ」だったような気がする。そして、観客がクリスティアンと共有するのも「気まずさ」だったんじゃないだろうか。
 人が気まずいのは誰かが見ているからで、誰も見ていないところでは「気まずさ」は感じない。前作『フレンチアルプスで起きたこと』では家族のなかで面目を失った父親の姿が描かれていたけれど、『ザ・スクエア』のクリスティアンも途中までは独身貴族を謳歌しているように見えたけれど、突如として娘ふたりが現れ父親の権威が崩れていくところを目撃していくことになる。
 「気まずさ」が誰かに見られているから生じる感覚であるのと同様に、ほかのエピソードでも周囲の人との関係が影響している。女性が助けを求めて叫んでいても周りに人がたくさんいると誰も助けようとはしないという「傍観者効果」のエピソードも、「ミルグラム実験」を思わせるモンキーマン(テリー・ノタリー)のエピソードも、どちらも社会心理学の成果から生まれたものだろう。どちらのエピソードも周りに人がいるからこそ、個人として考えることを放棄してしまうのだ。
 『フレンチアルプスで起きたこと』では最後のバスのエピソードで、みんながバスを降りるなか、ひとりだけ決然と自分の意志を通す女性がいたけれど、普通はなかなかそれができずに「右へ倣え」という行動を選択してしまうのだ。
 そんななかでよくわからなかったのは、アン(エリザベス・モス)という女性とのエピソード。情事のあとに中身の詰まったコンドームの取り合いをするというシュールなおかしさがある作品でもある。一応アンとの情事も、その後の美術館内でのクリスティアンとの「気まずい」会話という点では共通しているわけだけれど、151分の長尺を絶妙な間(というよりそのはずし方)で描くという巧妙な作品でもあった。最後に付け加えておくと、ボビー・マクファーリンの声だけで奏でる音楽もこの作品の雰囲気にとてもマッチしていたと思う。

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Date: 2018.05.01 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (2)

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