『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』 今、言っとかないと
原題は「THE POST」。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアンをはじめとして、日本のガンダムとか様々なキャラが賑やかに登場し、おもちゃ箱をひっくり返したような映画になりそうな『レディ・プレイヤー1』が4月20日から公開となるスピルバーグ。それとほとんど同時にアメリカの歴史を振り返る硬派な『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』も公開となった。
この2作品が同時期の公開となったのは、トランプ政権となり大手メディアが「フェイクニュース」などと呼ばれる異常事態に対する、スピルバーグの返答ということらしい。スピルバーグは『レディ・プレイヤー1』をちょっと脇に寄せてまでこの作品を公開し、早急にメッセージを発したかったのだ。
“ペンタゴン・ペーパーズ”とは、ベトナム戦争には勝ち目がないという分析がなされた極秘の報告書のこと。アメリカ政府は勝ち目がない戦争と知りながらもそれを続け、若者たちを戦場へ送り出していたということになる。この映画では、その文書を巡ってのワシントン・ポスト紙とニクソン政権との闘いが描かれる。この映画は最後に『大統領の陰謀』で描かれた「ウォーターゲート事件」へとつながっていくことになるけれど、その事件で主役となるニクソン大統領の姿は、そのまま現大統領の姿に重なってくることになる。

中心となる人物は編集主幹のベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)と、その雇い主である社主のキャサリン(メリル・ストリープ)。ベンは常にスクープ記事を狙っているやり手の編集者。一方でキャサリンは夫の自殺によって、無理やり担ぎ出されたお飾りの女社長という立場。それでも最終的な決定権はキャサリンにあり、彼女は難しい判断を任されることになる。
多分、ベンだけに焦点を当てていたならば、それほどドラマチックな物語にはならなかったのだろう。ベンはどちらかと言えば「行け行けドンドン」というタイプだから。しかしキャサリンの視点が入ることで、様々な葛藤がある物語となっている。社会派の作品でありながら、エンターテインメントとしての見せ場もあるのだ。キャサリンは株式公開した会社を守るべき責務と、報道の自由との間で揺れ動くことになる。
キャサリンの取り巻きの役員連中の男性たちは、それなりに真っ当な考え方をしているのだろうと思う。その分、保守的で何かを変えるということは難しい。ベンですら、かつてケネディと親しかった時代を懐かしみつつ、「今後はそれではダメだ」と自分に言い聞かせるようにしている。
ベトナム戦争をずるずると続けた理由も、「敗戦という不名誉」を避けるためだとも説明されているのだけれど、これもいかにも男が考えそうな理屈である。そんな凝り固まった男社会をキャサリンはブレークスルーする。報道のあるべき姿は政権にすり寄ることではないと判断し、国民にとって利益をもたらすであろう“ペンタゴン・ペーパーズ”を公開することを選ぶのだ。
表現の自由はアメリカでは合衆国憲法修正第1条として定められている。そして、報道機関が仕えるべきは国民であって、統治者ではない。そんな理念が共有されているからだろうか、この作品で描かれる顛末はベンやキャサリンだけの力ではなく、多く人の信念に基づいた行動があって成り立っている。
文書を盗み出したランド研究所のエルズバーグがいて、それを最初の記事にしたニューヨーク・タイムズ社の記者たちがいて、エルズバーグの存在を捜しだし文書を入手した記者がいた。そんな彼らの行動があってこそ、ワシントン・ポスト紙が大きな仕事を成し遂げることができたのだ。
どこかの国ではお上の顔をうかがって忖度してみたりとか、組織を守るために文書を隠してみたりとか何でもありといった感じで、理念も何もあったもんじゃない。「アメリカ万歳」とは思わないけれど、自分のところが褒められたものではないのは確かという気はする。
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スティーヴン・スピルバーグの作品

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