fc2ブログ

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』 今、言っとかないと

 『リンカーン』『ブリッジ・オブ・スパイ』などのスティーヴン・スピルバーグの最新作。
 原題は「THE POST」

スティーヴン・スピルバーグ 『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』 ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)とキャサリン(メリル・ストリープ)。やっぱりうまいふたりは初共演だとか。

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアンをはじめとして、日本のガンダムとか様々なキャラが賑やかに登場し、おもちゃ箱をひっくり返したような映画になりそうな『レディ・プレイヤー1』が4月20日から公開となるスピルバーグ。それとほとんど同時にアメリカの歴史を振り返る硬派な『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』も公開となった。
 この2作品が同時期の公開となったのは、トランプ政権となり大手メディアが「フェイクニュース」などと呼ばれる異常事態に対する、スピルバーグの返答ということらしい。スピルバーグは『レディ・プレイヤー1』をちょっと脇に寄せてまでこの作品を公開し、早急にメッセージを発したかったのだ。
 “ペンタゴン・ペーパーズ”とは、ベトナム戦争には勝ち目がないという分析がなされた極秘の報告書のこと。アメリカ政府は勝ち目がない戦争と知りながらもそれを続け、若者たちを戦場へ送り出していたということになる。この映画では、その文書を巡ってのワシントン・ポスト紙とニクソン政権との闘いが描かれる。この映画は最後に『大統領の陰謀』で描かれた「ウォーターゲート事件」へとつながっていくことになるけれど、その事件で主役となるニクソン大統領の姿は、そのまま現大統領の姿に重なってくることになる。

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』 キャサリンは“ペンタゴン・ペーパーズ”の存在を知っていたマクナマラ(ブルース・グリーンウッド)とは親しい仲だったため、彼女の仕事が友人を窮地に追いやることになってしまう。

 中心となる人物は編集主幹のベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)と、その雇い主である社主のキャサリン(メリル・ストリープ)。ベンは常にスクープ記事を狙っているやり手の編集者。一方でキャサリンは夫の自殺によって、無理やり担ぎ出されたお飾りの女社長という立場。それでも最終的な決定権はキャサリンにあり、彼女は難しい判断を任されることになる。
 多分、ベンだけに焦点を当てていたならば、それほどドラマチックな物語にはならなかったのだろう。ベンはどちらかと言えば「行け行けドンドン」というタイプだから。しかしキャサリンの視点が入ることで、様々な葛藤がある物語となっている。社会派の作品でありながら、エンターテインメントとしての見せ場もあるのだ。キャサリンは株式公開した会社を守るべき責務と、報道の自由との間で揺れ動くことになる。
 キャサリンの取り巻きの役員連中の男性たちは、それなりに真っ当な考え方をしているのだろうと思う。その分、保守的で何かを変えるということは難しい。ベンですら、かつてケネディと親しかった時代を懐かしみつつ、「今後はそれではダメだ」と自分に言い聞かせるようにしている。
 ベトナム戦争をずるずると続けた理由も、「敗戦という不名誉」を避けるためだとも説明されているのだけれど、これもいかにも男が考えそうな理屈である。そんな凝り固まった男社会をキャサリンはブレークスルーする。報道のあるべき姿は政権にすり寄ることではないと判断し、国民にとって利益をもたらすであろう“ペンタゴン・ペーパーズ”を公開することを選ぶのだ。

 表現の自由はアメリカでは合衆国憲法修正第1条として定められている。そして、報道機関が仕えるべきは国民であって、統治者ではない。そんな理念が共有されているからだろうか、この作品で描かれる顛末はベンやキャサリンだけの力ではなく、多く人の信念に基づいた行動があって成り立っている。
 文書を盗み出したランド研究所のエルズバーグがいて、それを最初の記事にしたニューヨーク・タイムズ社の記者たちがいて、エルズバーグの存在を捜しだし文書を入手した記者がいた。そんな彼らの行動があってこそ、ワシントン・ポスト紙が大きな仕事を成し遂げることができたのだ。
 どこかの国ではお上の顔をうかがって忖度してみたりとか、組織を守るために文書を隠してみたりとか何でもありといった感じで、理念も何もあったもんじゃない。「アメリカ万歳」とは思わないけれど、自分のところが褒められたものではないのは確かという気はする。

ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書 ブルーレイ DVDセット[Blu-ray]


ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 (字幕版)



大統領の陰謀 [Blu-ray]


大統領の陰謀 [DVD]



スティーヴン・スピルバーグの作品
関連記事
スポンサーサイト



Date: 2018.04.05 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (9)

この記事へのコメント:


管理人のみ通知 :

トラックバック:


>>「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」☆成長ものがたり from ノルウェー暮らし・イン・原宿
アカデミー賞にノミネートされていなかったら、正直観に行ってなかったかも。 そしてスピルバーグならではの生真面目なつくりが、前半あくびを何度も出させることにもなった。 一昨年オスカーを受賞した「スポットライト 世紀のスクープ」と比べると、ややメリハリが足りなかったかな… >READ

2018.04.06

>>ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書 from 象のロケット
1971年、アメリカ。 ベトナム戦争が泥沼化し反戦の気運が高まっていたこの時期に、国防総省がベトナム戦争について調査・分析した7000枚に及ぶ文書の一部が、ニューヨーク・タイムズにスクープされた。 ライバル紙に先を越された、ワシントン・ポストの女性発行人キャサリン・グラハムと編集主幹ベン・ブラッドリーは、残りの文書を独自に入手し機密文書の全貌を公表しようとする…。 社会派ドラマ。 >READ

2018.04.06

>>ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 from とらちゃんのゴロゴロ日記-Blog.ver
報道の自由を守るために戦うジャーナリストの心意気は素晴らしい。特に夫の死後社主になったキャサリンを演じたメリル・ストリープがいい。ワシントン・ポストもニューヨーク・タイムズもよくやったと思う。大人の鑑賞に耐えうる映画だと太鼓判を押せる。 >READ

2018.04.06

>>ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 from 映画に夢中
メリル・ストリープとトム・ハンクスが共演し、スティーヴン・スピルバーグがメガホンを取った社会派ドラマ。実在の人物をモデルに、都合の悪い真実をひた隠しする政府に対して一歩も引かない姿勢で挑んだジャーナリストたちの命懸けの戦いを描写する。『コンテンダー』などのサラ・ポールソンやドラマシリーズ「ベター・コール・ソウル」などのボブ・オデンカークらが出演。脚本を『スポットライト 世紀のスクープ』で第8... >READ

2018.04.10

>>映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書(日本語字幕版)」 感想と採点 ※ネタバレなし from ディレクターの目線blog@FC2
映画 『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書(日本語字幕版)』(公式)を本日、劇場鑑賞。 採点は、★★★★☆(最高5つ星で、4つ)。100点満点なら75点にします。 【私の評価基準:映画用】 ★★★★★  傑作! これを待っていた。Blu-rayで永久保存確定。 ★★★★☆  秀作! 私が太鼓判を押せる作品。 ★★★☆☆&... >READ

2018.04.11

>>『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』('18初鑑賞32・劇場) from みはいる・BのB
☆☆☆☆- (10段階評価で 8) 4月7日(土) 109シネマズHAT神戸 シアター1にて 16:10の回を鑑賞。 字幕版。 >READ

2018.04.12

>>80『ペンタゴン・ペーバーズ』今だからこそ! from シネマ・ジャンプストリート 映画のブログ
スティーブン・スピルバーグ最新作! 『ペンタゴン・ペーバーズ/最高機密文書』 ~あらすじ~ ベトナム戦争の最中だった1971年、アメリカでは反戦運動が盛り上がりを見せていた。そんな中、「The New York Times」が政府の極秘文書“ペンタゴン・ペーパーズ”の存在を暴く。ライバル紙である「The Washington Post」のキャサリン(メリル・ストリープ)... >READ

2018.04.17

>>「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」 from ここなつ映画レビュー
私は大変困惑している。今年の鑑賞作品で、4月からの物を殆どアップできていないのだ。鑑賞ペースが落ちていて書く作品がなかったという訳ではない。逆に本数見過ぎてアップが追いつかないという訳でもない。これはつまり…書く能力が著しく落ちている、ということなのか?忍び寄る老い…?この場でその足音を耳にするなんて、いやはや…なのである。だが、そうも言っていられないので、現在の鑑賞作品に追いつけるよう粛々... >READ

2018.05.17

>>「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」 from 或る日の出来事
日本の新聞は、がんばるところ、ないんかい? >READ

2020.02.03

プロフィール

Nick

Author:Nick
新作映画(もしくは新作DVD)を中心に、週1本ペースでレビューします。

最新記事
最新トラックバック
最新コメント
月別アーカイブ
07  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03 
カテゴリ
カウンター
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

タグクラウド


検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
このブログをリンクに追加する
Powered By FC2ブログ


ブログランキングに参加しました。

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

QRコード
QR