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『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』 笑えないコメディ

 『ロブスター』『籠の中の乙女』ヨルゴス・ランティモスの最新作。
 カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した作品。
 タイトルはギリシャ神話に基づいているなどとも言われているけれど作品内に説明はないし、公式ホームページにも特段の記載はない。

ヨルゴス・ランティモス 『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』 影絵のようなバリー・コーガンがこの作品の主役と言えるかもしれない。=


 心臓外科医のスティーブン(コリン・ファレル)は、眼科医の妻アナ(ニコール・キッドマン)とふたりの子供を持ち、悠々自適な生活を送っている。そんなスティーブンはこっそりマーティン(バリー・コーガン)という青年と会っている。マーティンとスティーブンの関係は一体?

 ふたりの関係性に妙なあやしさを感じていると、実は想像しているようなものではなくて、マーティンはスティーブンが担当した患者の息子だったことがわかってくる。その患者だった男は、スティーブンの手術を受けたあとに死亡した。そんなわけで父なし子となったマーティンに対し、スティーブンは負い目があるのだ。スティーブンがマーティンを家族に紹介すると、家族に不思議なことが起きるようになる。
 スティーブン家の誰かひとり犠牲にならなければならない。そんなことをマーティンは語る。最初に足が萎え、次第に食欲を失い、目から血が出て、最後に死に至る。そしてその犠牲者はスティーブンが選ばなければならない。そんなルールがマーティンから告げられることになる。

『聖なる鹿殺し』 長女のキムを演じるのはラフィー・キャシディ。足が萎えてしまった状態。

 ヨルゴス・ランティモスの作品では、独自のルールが設定される。『籠の中の乙女』では子供たちを守るため外界との接触を絶ち、犬歯が生え変わらなければ外に出ることができないとされた。『ロブスター』では独身者は動物にされてしまうという奇妙なものだった。
 『聖なる鹿殺し』ではマーティンが黒魔術でも使ったのか否かはわからないけれど、とにかく独自のルールが設定されるとそれは堅固なものとなる。スティーブンがマーティンの父親を医療事故で殺してしまったために、スティーブン家には呪いがかけられたのような事態が生じるのだ。家族がひとり減ったから、相手の家族からもひとり減らす。これは「目には目を、歯には歯を」的なルールと言える。これについては社会学者の宮台真司の簡潔な説明がわかりやすい。

 原初的な社会では民衆が司法に参加していました。血讐原理といいます。自分の部族の者が殺されたら相手方の部族を殺し返すこと。これは権利であると同時に義務です。報復しないと、対抗意思を表明しなかったので権利を放棄したと見做されるからです。


 この血讐原理で言えば、マーティンの家族はスティーブンに父親を殺されたわけだから、スティーブンの家族をひとり殺さなければならないということになるわけだ。
 一応マーティンはその前段で別の方法も検討している。スティーブンを父親としてマーティン家に迎えるという方法だ。スティーブンが妻アナと子供たちを棄て、マーティンの母親(アリシア・シルヴァーストーン)のパートナーなることを受け入れれば、スティーブン家の誰かが犠牲になることもなかったということなのだろう。マーティンは不気味な存在だけれど、意外と配慮があるのだ(だからこそ自分の行動を“正義”とまで言うことができるのだろう)。
 それでもスティーブンは自分の家に戻ることを選択したことで、マーティンのルールが発動することになる。最初は色々と足掻いてみるものの、そのルールが堅固なものであることが判明すると、犠牲になりたくない家族たちは延命のためにスティーブンに擦り寄っていく。その必至さが滑稽だった。この作品はコメディなのだ。
 ラストは運を天に任せたとも言えるわけだけれど、スティーブンは自分を犠牲にすることをまったく考慮に入れていないあたりがかなりブラックな味わい。アナが言う通り子供はまたつくればいいということなのかもしれないけれど、コメディとはいえちょっと笑えない話だった。

 ものすごいことを仕出かすわけではないのに観客を不安にさせるバリー・コーガンがいい味を出していた。『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』でも共演しているコリン・ファレルニコール・キッドマンは脇に回った印象だけれど、どちらも真っ裸になって奮闘してもいる。長女のキムを演じるのはラフィー・キャシディで、彼女は『トゥモローランド』で美少女ターミネーターみたいな役柄だった子。そのラフィー・キャシディがアカペラで歌うポップミュージックすらなぜか不気味なものに聴こえてくるような作品だった。

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Date: 2018.03.13 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (0)

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