『ベロニカとの記憶』 記憶という厄介なもの

 原作はジュリアン・バーンズのブッカー賞受賞作品『終わりの感覚』
 監督は『めぐり逢わせのお弁当』リテーシュ・バトラ

リテーシュ・バトラ 『ベロニカとの記憶』 ベロニカ(シャーロット・ランプリング)とトニー(ジム・ブロードベント)は40年ぶりに再会することになるのだが……。

 若かりし頃には激情を求めたりもしたトニー(ジム・ブロードベント)も、今では年老いて平穏無事な生活を送っている。しかし、ある日突然届いた手紙に平穏な日々は揺さぶられることになる。手紙の相手はかつての恋人ベロニカの母親からで、わずかばかりのお金とかつての友人エイドリアンの日記をトニーに遺贈しているという。
 エイドリアンとトニーは高校時代の仲間であり、トニーの初恋の相手ベロニカは、トニーを棄ててエイドリアンと付き合うこととなった。つまりはトニーは寝取られ男だったということになるのだが、その後にエイドリアンは自殺してしまう。それにしてもなぜ40年も経った今になって、そのエイドリアンの日記がベロニカではなくベロニカの母親からトニーに託されることになったのか?

 高校時代の歴史の授業のシーンでは、それぞれの歴史観が披露されている。主人公トニーは「歴史とは勝者の嘘の塊」と言い、先生は「敗者の自己欺瞞であることも忘れるな」と付け加える。それに対しエイドリアンは、歴史とは「『何かが起こった』としか言えないのではないか」と反論する。
 たとえば劇中で話題になるロブソン少年の場合。彼は付き合っていた彼女が妊娠し、そのことで自殺したと噂されている。彼は「かあさん、ごめん」とだけ書き残して死んだのだという。しかし妊娠のことが本当の原因だったのか、あるいは子供は本当にロブソンの子供だったのか、実際にはわからないことだらけなのだ。部外者としては「ロブソンは自殺した」とだけしか言えないのではないか。
 こうした議論は後のエイドリアンの自殺についても言える。エイドリアンが自殺したという事実は確かなのだが、残された人はそれ以上の何を知っていると言えるのか。トニーはその後の生活のなかでエイドリアンの死を次第に忘れていく。しかし40年も経って届いた手紙によって、そうした過去に出会い直すことになる。

 以下、ネタバレもあり! 

『ベロニカとの記憶』 若かりしトニー(ビリー・ハウル)はベロニカの家に招かれ家族と会うことになる。

 老いたるトニーはこの作品のなかで二度に渡ってビックリ仰天することになる。
 最初のビックリはトニーの記憶には都合のいい欠落があったということ。ここまではたとえば『トータル・リコール』の原作『追憶売ります』とか、『メメント』などともよく似ていると言えるかもしれないのだが、この作品ではトニーはさらにビックリさせられることになる。というのはそもそもの最初から事実誤認があったということが明らかになるからだ(というか自己防衛本能が知ることを妨げていたのかも)。
 これによってベロニカ(シャーロット・ランプリング)は謎の女性から哀れな女性へと見えてくることにもなり、トニーは記憶改竄の自己欺瞞からは逃れるものの、今度は掛け値なしに無知蒙昧だったということが明らかになる。
 これは老いたるトニーにはきついことだろう。原作はここで放り出されるように終わることになるのだけれど、映画版のほうではトニーにとって幾分かやさしい結末を用意している。映画では元妻と娘の役割が大きくなっていて、トニーは過ちを認め、それを改善していくであろう柔軟性を見せることになり後味よい話となっている。

 原作は以前に読んでいたのだけれど、最後の部分がいまひとつ飲み込めなかったような気がする。というのも、二度目のビックリの部分が突飛に思えたのかもしれない。しかし映画版ではそこで重要な役割を果たすことになる人物の造形がちょっと魅惑的で納得してしまう部分があった。歴史と同じで、言葉で書き連ねただけでは伝わらないものがあるのかもしれない。そんな意味では登場人物に具体性を与える役者の仕事はかなり重要な役割を担っているのだろうと改めて思う。

終わりの感覚 (新潮クレスト・ブックス)



めぐり逢わせのお弁当(字幕版)


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Date: 2018.01.28 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (2)

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>>『ベロニカとの記憶』 青春の苦い勘違い from Days of Books, Films
The Sense of an Ending(viewing film) イギリ >READ

2018.01.30

>>ベロニカとの記憶 from 象のロケット
イギリス・ロンドン。 年金暮らしをしながら小さな中古カメラ店を営む男トニーは、元妻マーガレットと一緒に、もうすぐシングルマザーになる娘スージーの出産準備を手伝っている。 ある日、40年も前の初恋相手ベロニカの母親セーラが亡くなり、トニーに遺品を残したという通知が届いた。 それは、トニーの親友で恋敵だったエイドリアンの日記だという…。 ミステリー。 >READ

2018.02.04

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