『ノクターナル・アニマルズ』 衝撃的な冒頭と味のあるラスト

 監督・脚本は『シングルマン』でデビューしたトム・フォード。トム・フォードは有名なファッションデザイナーで、『007』シリーズにもスーツを提供しているのだとか。
 原作はオースティン・ライトの同名小説。

トム・フォード 『ノクターナル・アニマルズ』 スーザン(エイミー・アダムス)はアートギャラリーのオーナーとして成功をつかんでいる。その後ろにあるのは……。
 

 アートギャラリーのオーナーであるスーザン(エイミー・アダムス)のもとに、ある日、元夫のエドワード(ジェイク・ギレンホール)から彼が書いた小説が送られてくる。「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」というタイトルのその小説は、暴力的な内容のものだった。エドワードは20年も経ってなぜそんなものを送ってきたのか?

 スーザンは今の仕事ですべてを手に入れているはずなのだが、それでも満たされないものがある。現在の夫ハットン(アーミー・ハマー)はほかの女と浮気をしており、スーザンとの関係は上辺だけのものとなっているのがその一因かもしれない。
 そんなときに元夫エドワードからの小説が送られてくる。タイトルの「ノクターナル」とは「夜行性の」という意味。エドワードはかつてスーザンのことを「夜の獣」と呼んでいたのだという。今現在のスーザンは不眠症で、ほとんど寝ていない状態にあるのも「夜の獣」という呼び名に相応しいとも言えるかもしれない。

◆作品の構成
 この作品は重層的な構成となっている。「スーザンの現在の生活」、「小説『夜の獣たち』の世界」、「スーザンによる元夫との回想シーン」、この3つのパートが絡み合う。満たされない生活の空虚さが小説を読ませ、その内容が現在の生活を脅かしたりもしつつも、それを書いた元夫との過去の出来事を想い起こしたりもしながら展開していく。
 おもしろいのはスーザンが眠れぬ夜を過ごすために読むことになる小説『夜の獣たち』のパートでも、その主人公をジェイク・ギレンホールが演じていることだろうか。小説『夜の獣たち』の主人公トニーと、それを書いているエドワードは同一人物ではないのだが、スーザンはほとんど同一視しているのだ(このパートはスーザンが小説を読み、頭のなかで映像化されたものということだろう)。
 エドワードが書いた小説について、スーザンは「自分のこと以外を書くべき」などとアドバイスをしていたりもしたわけで、スーザンにとってはエドワードが書く小説の登場人物はどうしてもエドワードの姿に思えてしまうということだろう(エドワードは未だに自分をモデルとした小説を書いているということでもあるかもしれない)。

 それからこれは単に私の勘違いなのだけれど、劇中劇である『夜の獣たち』においてトニーの妻を演じているのもエイミー・アダムスだと思っていたのだ。実際トニーの妻を演じているのはアイラ・フィッシャーという女優さんである。彼女はスーザン役のエイミー・アダムスとよく似ていて、ネットでふたりの名前を検索すると「まるで双子」などと出てくるから、似ている人物を選んでいるのだろう。スーザンは元夫が書いた小説のなかの主人公を元夫と同一視し、その主人公の妻を自分によく似た誰かと考えているのだ。
 とにかくスーザンはエドワードが書いた小説が、かつて夫婦であった自分たちをモデルとして描かれていると推測していることは確かだ。スーザンは小説のなかのトニーの妻とその娘が殺されたことに驚き、自分の娘に電話をして安否を確認したりもしているからだ。
 
 ※ 以下、ネタバレもあり!

『ノクターナル・アニマルズ』 劇中劇の『夜の獣たち』はテキサスが舞台となる。

◆小説『夜の獣たち』についてのあらまし
 トニーという主人公は妻と娘を乗せてハイウェイを走行中、レイ(アーロン・テイラー=ジョンソン)と仲間たちに襲われる。舞台となるのは誰もいない夜のテキサスで、妻と娘は暴漢たち拉致されて残虐に殺されることになる。
 トニーは妻と娘を助けることはできなかったわけで、その弱さを悔やむことになるわけだけれど、肺がんで余命1年という保安官(マイケル・シャノン)の助けを借り、法律を犯してまで復讐を果たすことになる。しかし同時にトニーという主人公自身も死んでしまうことになる。

◆エドワードとスーザンの過去
 回想で描かれるスーザンはエドワードと同様に芸術に関心を抱く学生だったのだが、自分の才能を信じることができずに方向転換する。エドワードとの関係も同様だ。ゲイの兄を認めないような保守的な両親の考えを否定しようとして、スーザンは母親が反対するエドワードと結婚することになるのだが、ここでも方向転換することになるのだ。エドワードはいつになっても芽が出ずに、もとのブルジョアな生活が懐かしくなったのか、スーザンはエドワードとの子供を堕ろして彼を棄てることになる。

◆ラストの解釈
 ラストシーンではエドワードとの再会を約束したスーザンが寂しく待ちぼうけを食うことになる。エドワードは約束をしておきながら、それをすっぽかしたのだ。わざわざ小説を送りつけたのは“復讐”だったと考えるのが一番すんなりくるのではないだろうか。
 スーザンは小説『夜の獣たち』の完成度を褒め称えていたけれど、エドワードがそれに込めた意味合いにはその時点では気づいていない。スーザンは恐らく小説の登場人物のなかでは主人公トニーの妻と自分を重ね合わせている。それは小説のなかでは被害者の側となるわけだけれど、作者であるエドワードの意図は違う。エドワードはスーザンがやったことは小説のなかの暴漢レイがやったことと同じなのだと仄めかしているのだ。
 スーザンはエドワードの子供を殺すことで今の優雅な生活を手に入れた。それによってエドワードは小説のなかのトニーと同じように精神的には死んだということなのだろう。それと同時にトニーは自分の側に正義があると信じ復讐を完遂したのと同じように、エドワードも復讐をやり遂げることとなったわけで、エドワードはスーザンが自分のやったことの酷さに気がついていないことも復讐計画の一部に組み込んでいたということなのだろう。

 復讐が完遂したことでさすがに鈍感なスーザンだって自分の能天気さに気がついただろう。待ちぼうけの間にスーザンがどんなことを思い巡らしたのかはわからないけれど、エドワードはそれをどこかで見ていたのかもしれないし、あるいは小説同様に死んでしまったりしたのかもしれない。そのあたりを余韻のなかで感じさせるラストはなかなか味がある。
 それにしても冒頭のアレは衝撃的だった。スーザンの仕事のジャンクさを示しているのかもしれないのだけれど、そのインパクトに仰け反った。スーザン自身も回想シーンでは美しいのに、現在の場面では妙にけばけばしくてグロテスクにも見えてくるのもそのインパクトが効いているからだろうか。

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Date: 2017.11.06 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (3)

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