『ブレードランナー2049』 知りたいことはまだ残っている

 1982年公開の『ブレードランナー』の続編。
 監督は『メッセージ』などのドゥニ・ヴィルヌーヴで、前作の監督リドリー・スコットは製作総指揮を担当している。
 ちなみに前作の舞台は2019年という設定で、この30年の間に何があったかを示す短編3作品も公開されている。こちらも観ておくと理解の助けになる。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ 『ブレードランナー2049』 ライアン・ゴズリングと同等の扱いのようなハリソン・フォードだが、実際には最後のほうにしか登場しない。


 ブレードランナーのK(ライアン・ゴズリング)は逃亡していたレプリカントのサッパー・モートン(デイブ・バウティスタ)を解任(=殺害)するのだが、そこで地下に埋められた箱を発見する。そのなかにはレプリカントの遺骨が入っており、それには子供を出産していた形跡があった。

◆人間とアンドロイドの違いは?
 前作ではブレードランナーのデッカードがレプリカントのレイチェルを連れて逃亡するところで幕切れとなったわけだが、この続編はきっちりとそれを引き継いでいく。前作でも特別なレプリカントだと言われていたレイチェルは、自分のことを人間だとすら思っていた。本作『ブレードランナー2049』では、さらにレイチェルが子供を産んだことが判明する。
 この作品世界のレプリカントと呼ばれるアンドロイドはほとんど人間のよう。レプリカントは傷を負えば真っ赤な血が出るし、銃で撃たれれば死んでしまう。一応は人間がつくったものだからマシンに違いないのだが、数年経つと感情も生じてくることになる。そして、レイチェルのように子供を産むことまで可能となれば、レプリカントと人間の境界というものは限りなく曖昧なものとなってくる。
 本作ではその子供とその父親デッカードを巡って、Kの属する警察組織とレプリカントを製造するニアンダー・ウォレス(ジャレッド・レト)率いるウォレス社が争奪戦を繰り広げることになる。警察は彼らを消そうとし、ウォレス社はレプリカント繁殖の秘密を暴くために彼らを追う。さらにレプリカント反乱軍などの存在も明らかになる。

『ブレードランナー2049』 撮影はロジャー・ディーキンス。

◆新旧ブレードランナー対決
 前作のブレードランナー・デッカード(ハリソン・フォード)と本作のKとで異なるところは、Kは自分がレプリカントであることを認識しているということだろうか。前作のディレクターズカット版やファイナル・カット版においては、デッカード自身もレプリカントなのではないかと思わせる描写がある。もしかするとデッカードは前作の最後にそれを悟ったのかもしれないのだが、Kは予めそのことを知っている。
 Kは自分がレプリカントだと知っているから何事にも動じない。Kが受けるトラウマテストでは、彼が人間的な反応を示すか否かが試されているようだ(ナボコフ『Pale Fire』の引用にも何やら意味が込められているのだろう)。Kが今回の一連の事件で自らのアイデンティティを揺さぶられ、とても人間的な反応すら見せるようになる。
 Kは自分がレイチェルとデッカードの子供なのではないかと考えて戸惑うことになるのだが、さらに一転してそれは間違いであることが判明する。レプリカントは自分が人間もどき(スキン・ジョブ)ではなく本物になりたいと感じているから失望は大きい。これは前作でデッカードやレイチェルが受けた衝撃と同様なものだろう。一度はぬか喜びしている分、落胆の度合いも大きいと言えるかもしれない。
 Kはそれでも人間以上に人間らしく大義のために生きることを選択することになるが、これは前作で反乱レプリカントのリーダーだったロイ・バッデイ(ルトガー・ハウアー)と同様の振舞いを繰り返しているとも言える。本作ではKが前作のデッカードの役目もロイの役目も果たしているのだ。
 私が何が言いたいのかと言えば、この作品ではKがその両方を担っている分、魅力的な敵役が存在しないようにも感じられるということだ。前作ではロイやプリスといったキャラが魅力的で、デッカードはハードボイルドな探偵ものの視点に過ぎなかったのではなかったのか。最後の戦いの場面など、どう見てもルトガー・ハウアーの独壇場になっていたのだから。
 一応本作にも敵役らしきラヴ(シルビア・フークス)というレプリカントが登場し、それなりに鋭い“かかと落とし”などを披露したりはするのだけれど、前作ほどのインパクトは感じられないのだ(ラヴが二度見せる涙の理由は謎)。

『ブレードランナー2049』 ジョイを演じたのはアナ・デ・アルマス。

◆デッカード=レプリカント説についての結論は?
 デッカードがネクサス6型のタイプのレプリカントだとすれば寿命は4年だから、本作のように30年経って生きているということは、そのこと自体でデッカードは人間だとする解釈もあるようだ。
 しかしそれほど単純でもなさそうだ。本作のなかでは、ウォレスがデッカードに対し「あなたが創られた存在ならば」と、あくまで仮定の話として語りかけたりもしている。これは人間として生まれたのではないという意味だろう。ウォレスの説ではレイチェルとデッカードは子供を産むように始めから計画されていたということになる。となるとデッカードもレイチェルと同様の特別なレプリカントであるのかもしれず、寿命だけでは結論としては弱い。ウォレスの言葉に対してはデッカードが明確な返答をすることもないために、結局のところ真相は謎のままということになる。

 しかし、そもそもそんなことに拘泥することに意味があるのか。『ブレードランナー』の世界においては人間もレプリカントもその境界が曖昧なものとなっていくわけだし……。続編である『2049』においては新たなキャラとしてKの彼女としてジョイというホログラム3Dの女の子が登場する。ジョイ(アナ・デ・アルマス)はウォレス社の商品であり、AIを搭載したヴァーチャルな存在だ。Kは自分がレプリカントと認識しているためか人間の女性を求めようとはせず、ジョイと生活することで満足している。
 本作ではそんな幻影であるジョイですらとても愛おしい存在として描かれることになる(というかアナ・デ・アルマスがとてもかわいらしいのだ)。ジョイはコンピュータープログラムの賜物であり、すべてを「0」と「1」という信号で把握するマシンに過ぎないはずなのだが、Kとジョイの間には互いに対する愛情があり、それは人間たちと何ら変わりないんじゃないかというのがこの作品世界の思想でもあるのだから。

 前作を受け継いだビジュアルは見応え十分なのだけれど、如何せん長すぎることは否めない。2時間以内に収めればもっと引き締まったものになったんじゃないだろうか。ハリソン・フォードが登場してからの部分は謎をさらなる続編へと先延ばししただけのようにも感じられた。「知る覚悟はあるか」というのが、本作のキャッチコピーだが、新しく知ったことは冒頭のレイチェルの出産以外に何かあったのだろうか? あちこち引き回された挙句散々な目に遭うことになるKの末路には同情を感じるのだけれど……。

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Date: 2017.10.31 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (13)

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