『ベイビー・ドライバー』 現実逃避のススメ

 『ショーン・オブ・ザ・デッド』などのエドガー・ライト監督作品。
エドガー・ライト 『ベイビー・ドライバー』 脇役のケビン・スペイシーとジェイミー・フォックスとなかなか豪華。


 幼いころの交通事故で耳鳴りが続き、それを消すために常にiPodで音楽を聴き続けている青年ベイビー(アンセル・エルゴート)。ベイビーは天才的なドライビング・テクニックで犯罪組織の「ゲッタウェイ・ドライバー(逃がし屋)」として活躍中だが、ある日、デボラ(リリー・ジェームズ)という女の子と出会い……。

 カー・チェイスを売りにした映画はたくさんあると思うのだけれど、この作品はそれを見事に音楽にシンクロさせているところがすごいところ。カー・チェイスを撮影してからそれに音楽をかぶせるという方法ではなく、初めに音楽ありきで、音楽に合わせてすべての振り付けまでが練られていたものらしい。
 この楽しさは公開されている冒頭6分の本編映像を見てもらうのが一番手っ取り早い。とにかく見れば一目瞭然なのだ。登場人物の一挙手一投足が音楽のリズムに乗っているし、銃撃戦が始まればそれがドラムの音と一緒になって響いてくる。歌い踊り出したりはしないけれど、感覚的にはミュージカルと変わらないノリだから、大音量で音楽を響かせる劇場でこそ楽しめる作品となっているんじゃないだろうか。



 エドガー・ライトという監督はいつもジャンル映画のパロディ作品を撮っている人。『ショーン・オブ・ザ・デッド』ではゾンビ映画を、『ホット・ファズ ‐俺たちスーパーポリスメン!‐』では刑事ものを、『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』ではボディ・スナッチものを下敷きにした作品を仕上げている。
 『ベイビー・ドライバー』は、『ザ・ドライバー』『ドライヴ』のような「ゲッタウェイ・ドライバー」を主人公とした作品となっているわけだけれど、それ以上に音楽にウェイトがあるとも言える。ジャンル映画にもそれなりに引き出しは多いかもしれないけれど、音楽はそれ以上に膨大なリストを持っているわけで、この作品は様々なジャンルの音楽を聴かせてくれる。

 iPodとサングラスで現実逃避していたベイビーが、デボラと恋に落ちることで現実と向き合いオトナとしての一歩を踏み出すことになる。結末を見れば、一応はそんな「ビルドゥングスロマン」とも「恋愛もの」とも言えるのかもしれないけれど、これは据わりのいい感じにまとめただけで、エドガー・ライト自身は過去の映画と多くのお気に入りの音楽でこの作品を彩っていくこと自体を楽しんでいる(そう言えば現実逃避を指摘した登場人物は最初に死ぬことになった)。
 この作品では登場人物の台詞が過去の映画(たとえば『モンスターズ・インク』とか)から採られていたり、流れている曲の歌詞が物語ともリンクしていたりする。主人公の“ベイビー”という名前だって、彼が未熟者だということもあるだろうけれどそれだけではない。“デボラ”という名前を冠する曲はほとんどないけれど、“ベイビー”というニックネームを持つことで多くの曲が彼の曲となり、ネタとして使えることになるからだ。ちなみにタイトルはサイモン&ガーファンクルの同名曲から採られている。
 この作品はエドガー・ライトがオタク的に過去の映画や音楽を吸収することで生まれたものであり、現実に向き合うことで生まれたものではないはずだ。パロディをやること自体が好きなのだろう。ただ、作品には一応の結末がなければならないという現実もあり、後半やや失速ぎみだったようにも……。エドガー・ライトにはあまり現実なんかに目覚めずに、性懲りもなくベイビーであり続けてほしいという気もする。

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Date: 2017.08.26 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (4)

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