『スターシップ9』 またまた宇宙でひとりぼっち
『ヒドゥン・フェイス』などの脚本を手がけたアテム・クライチェ・ルイス=ソリヤの初長編作品。Netflixのドラマシリーズ「ナルコス」のチームが制作とのこと。
原題は「ORBITA 9」。

公害で住めなくなった地球を捨て、別の惑星へと向かうエレナ(クララ・ラゴ)。エレナは宇宙船内で生まれ、両親はエレナのためにその宇宙船から降りた。その後、約20年もの間ひとりでの生活をしてきたエレナの前に、エンジニアの男アレックス(アレックス・ゴンザレス)が現れる。
「宇宙でひとりぼっち」感を演出しているのか、エレナは体内スキャンの際に体育座りをしながら手持ち無沙汰でどこか寂しそう。宇宙船内はとても快適で、エレナも体調管理を怠らず、いかにも壮健な身体をしている。それでも「一体何のために生きている」といった疑問に駆られるときもある。宇宙船が新たな惑星へ到着するまでにはさらに約20年もかかり、人生を80年とすればエレナはその半分を宇宙船内で過ごすことになるからだ。
宇宙での長旅をひとりで過ごすのが耐え難いというのは、最近の『パッセンジャー』とも似たような設定。アレックスはエレナにとって両親以外では初めて会う人間だ。他愛ない話をできるだけでも貴重だし、なかなかのイケメンなのだから興味津々なのだ。それでもアレックスは宇宙船内の機器の修理が終われば帰ってしまう。そうなるとまた20年もの間ひとりきりになってしまう。エレナはその夜、アレックスのベッドに忍び込むことになる。
※ 以下、ネタバレもあり! 重要な展開にも触れているので要注意!!

一応予告編でも匂わされているのだけれど、それでもこの後の展開には驚かされた。終始エレナの視点だった映画は、アレックスが宇宙船を出るときにアレックスの視点へと移行する。宇宙船から出たアレックスが歩いていくのは、どう見てもどこかの地下通路みたいな場所で、別の宇宙船に乗り込むわけではない。一体どういうことなのかと言えば、エレナが乗っている宇宙船は実験用のシミュレーターだったのだ。
アレックスは「オービター計画」と名付けられた別惑星への移住のための実験に参加するエンジニアであり、エレナは実験の被験者なのだ。計画に参加する人の人生の半分もの時間をかけてエレナたちの生体情報を収集し、その実験の成果が未来に予定されている本当のインターステラーのために利用されることになる。
宇宙船内部の造形があまりに清潔すぎてリアリティに欠けるなあなどと思っていたら、これは宇宙船しか知らないエレナのためのシミュレーターなのだからなのだろう。コロンビアで撮影されたという夜の街の情景は、『ブレードランナー』を意識している部分もあって近未来の風景に見えなくもなかった。全体的に低予算の部分が見え隠れするけれど、最初の驚き以外にもひねった展開が用意されているなど考えられてつくられていて、色々と推測させる余白があるといった印象。
ただそうした設定の細部が詰められていないように感じる部分もあった。たとえば実験用スターシップが設置された森のなかには「放射能注意」のマークがあり、エレナが宇宙船のなかで観ていた映画は『二十四時間の情事(ヒロシマ・モナムール)』だった(ような気がする)。何かしら放射能が実験に関わるのかと推測させるのだが、長期間に渡って何を経過観察しているのかはいまひとつわからなかった。
さらに一番謎なのはエレナを実験から救い出したアレックスの本来の意図だろうか。「オービター計画」では10個の実験用スターシップが用意されている。エレナがいたのは9番目のスターシップ。アレックスは10番目のスターシップの点検作業を終えたあと、突然、思い立ったようにエレナを実験装置から救い出す。アレックスは10人の被験者と会いながら9番目のエレナを選んだということになる。
同時にアレックスはカウンセリングにも通っていて、あまりに非人道的な実験に参加していることに疑問を感じていて、そのことが悩みともなっているようだ。しかし最終的にはほかの人たちを捨ててエレナだけを選ぶ。ということは実験に対する義憤よりも恋に駆り立てられたということなのだろう。
まあそれはそれでいいとしても、アレックスはエレナを救い出したあとのことを考えていたのだろうか。エレナをコントロールすることもできずに行き当たりばったりみたいなラストはちょっと釈然としなかった。アイディアは悪くはないのだけれど何だか惜しい作品。



原題は「ORBITA 9」。

公害で住めなくなった地球を捨て、別の惑星へと向かうエレナ(クララ・ラゴ)。エレナは宇宙船内で生まれ、両親はエレナのためにその宇宙船から降りた。その後、約20年もの間ひとりでの生活をしてきたエレナの前に、エンジニアの男アレックス(アレックス・ゴンザレス)が現れる。
「宇宙でひとりぼっち」感を演出しているのか、エレナは体内スキャンの際に体育座りをしながら手持ち無沙汰でどこか寂しそう。宇宙船内はとても快適で、エレナも体調管理を怠らず、いかにも壮健な身体をしている。それでも「一体何のために生きている」といった疑問に駆られるときもある。宇宙船が新たな惑星へ到着するまでにはさらに約20年もかかり、人生を80年とすればエレナはその半分を宇宙船内で過ごすことになるからだ。
宇宙での長旅をひとりで過ごすのが耐え難いというのは、最近の『パッセンジャー』とも似たような設定。アレックスはエレナにとって両親以外では初めて会う人間だ。他愛ない話をできるだけでも貴重だし、なかなかのイケメンなのだから興味津々なのだ。それでもアレックスは宇宙船内の機器の修理が終われば帰ってしまう。そうなるとまた20年もの間ひとりきりになってしまう。エレナはその夜、アレックスのベッドに忍び込むことになる。
※ 以下、ネタバレもあり! 重要な展開にも触れているので要注意!!

一応予告編でも匂わされているのだけれど、それでもこの後の展開には驚かされた。終始エレナの視点だった映画は、アレックスが宇宙船を出るときにアレックスの視点へと移行する。宇宙船から出たアレックスが歩いていくのは、どう見てもどこかの地下通路みたいな場所で、別の宇宙船に乗り込むわけではない。一体どういうことなのかと言えば、エレナが乗っている宇宙船は実験用のシミュレーターだったのだ。
アレックスは「オービター計画」と名付けられた別惑星への移住のための実験に参加するエンジニアであり、エレナは実験の被験者なのだ。計画に参加する人の人生の半分もの時間をかけてエレナたちの生体情報を収集し、その実験の成果が未来に予定されている本当のインターステラーのために利用されることになる。
宇宙船内部の造形があまりに清潔すぎてリアリティに欠けるなあなどと思っていたら、これは宇宙船しか知らないエレナのためのシミュレーターなのだからなのだろう。コロンビアで撮影されたという夜の街の情景は、『ブレードランナー』を意識している部分もあって近未来の風景に見えなくもなかった。全体的に低予算の部分が見え隠れするけれど、最初の驚き以外にもひねった展開が用意されているなど考えられてつくられていて、色々と推測させる余白があるといった印象。
ただそうした設定の細部が詰められていないように感じる部分もあった。たとえば実験用スターシップが設置された森のなかには「放射能注意」のマークがあり、エレナが宇宙船のなかで観ていた映画は『二十四時間の情事(ヒロシマ・モナムール)』だった(ような気がする)。何かしら放射能が実験に関わるのかと推測させるのだが、長期間に渡って何を経過観察しているのかはいまひとつわからなかった。
さらに一番謎なのはエレナを実験から救い出したアレックスの本来の意図だろうか。「オービター計画」では10個の実験用スターシップが用意されている。エレナがいたのは9番目のスターシップ。アレックスは10番目のスターシップの点検作業を終えたあと、突然、思い立ったようにエレナを実験装置から救い出す。アレックスは10人の被験者と会いながら9番目のエレナを選んだということになる。
同時にアレックスはカウンセリングにも通っていて、あまりに非人道的な実験に参加していることに疑問を感じていて、そのことが悩みともなっているようだ。しかし最終的にはほかの人たちを捨ててエレナだけを選ぶ。ということは実験に対する義憤よりも恋に駆り立てられたということなのだろう。
まあそれはそれでいいとしても、アレックスはエレナを救い出したあとのことを考えていたのだろうか。エレナをコントロールすることもできずに行き当たりばったりみたいなラストはちょっと釈然としなかった。アイディアは悪くはないのだけれど何だか惜しい作品。
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