『君はひとりじゃない』 霊媒師がつなぐもの

 ベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞したポーランド映画。
 監督はマウゴシュカ・シュモフスカ
 原題は「Body」。邦題は劇中で何度もかかる「You'll Never Walk Alone」という曲から採られているらしい。

マウゴシュカ・シュモフスカ 『君はひとりじゃない』 ベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞したポーランド映画。

 冒頭のエピソードが奇妙だ。首吊りで死んだはずの男が、警察によって木から降ろされてしばらくすると、死んでいたことを忘れてしまったかのように歩いてどこかへ去っていく。周囲の人たちは唖然とするものの、この現象に対しての説明はなく「死者の世界」と「生者の世界」の境界はあやしいものになっていく。
 主人公となる父と娘は妻(母)を亡くしたことによって、精神的なバランスを欠いた状態にある。娘のオルガ(ユスティナ・スワラ)は摂食障害となり、父親の前で奇行をしてみせたりする。そんな娘を見守っている父親ヤヌシュ(ヤヌシュ・ガヨス)も、現実的な感覚を失っているようで、検察官の仕事で残酷な死体を見ても動じることはなく、食事には大量のコショウをかけないと味がしないらしい。そしてオルガのカウンセラーとして登場するのがアンナ(マヤ・オスタシェフスカ)で、霊媒師としての能力を持つアンナは、オルガの母親の霊について仄めかすことになる。
 アンナは子供を喪って以来、霊媒としての能力を授かることになったらしい。今では亡くなったばかりの少年の霊を見たり、死者の声を届けるメッセンジャーとしても活動している。そんなアンナがヤヌシュの妻の声を聞いているかのようなことを語ったりもするものだから、この作品では霊的存在の証拠が何らかの形で示されるのだろうという観客の期待も高まっていく。

 ※ ネタバレもあり! ラストにも触れているので要注意!!


『君はひとりじゃない』 アンナ(マヤ・オスタシェフスカ)はカウンセラーとしてオルガ(ユスティナ・スワラ)の治療にあたる。

 ラストは交霊術を試す場となり、丸いテーブルの周りにはヤヌシュとオルガとアンナの3人が揃うことになる。いよいよアンナが霊媒師としての力を示す時間ということになるわけだけれど、アンナはそれに失敗することになる。(*1)
 一晩中交霊術をやってみるものの結局何も起こらないのだ。それでもヤヌシュとオルガは何となく笑ってしまう。ふたりは霊的存在について信じていたわけではなかったけれど、アンナを媒介としてそれまで真摯に向き合うこともなかった父と娘が、奇妙な一晩を過ごすことになったからだ。
 実際にアンナが霊的存在を感じることができるのか否かはあまり問題ではないのだろう。アンナは死者の言葉(とアンナが考えるもの)を伝えることで、現実世界に居場所を獲得していたことも確かなのだ。ヤヌシュとオルガにとっては、それまではその家族の中心にいたであろう妻(母)を喪ったことで、ふたりの気持ちもバラバラになりかけていたわけだけれど、そこにアンナという媒介が入ることで再びつながることができたのだ。
 霊媒というのは霊的存在と人とを結びつけるものなのだそうだ。アンナは霊媒としての役割は果たせなくとも、人と人とを結びつける役割は果たしたわけで、カウンセラーとしての仕事もまっとうしたとも言えるのかもしれない。

 誰もがみんな病んでいるのだけれど、それがあまり深刻にならずに滑稽なもの見える。アンナと一緒に生活している犬のデカさには異様なものを感じるし、ヤヌシュの彼女のダンスシーンには呆気にとられる。ヤヌシュの彼女はもう還暦くらいなのにパンツ一丁で踊り狂うのだ。ヤヌシュはそれを笑いながら見ているのだけれど、観客として傍から見るとまるでホラー映画……。ヤヌシュの闇を感じる場面だった。

(*1) このオチは以前『お嬢さん』のところでも触れた『半身』と似ている。「やっぱり嘘だったのね」ということになるわけだけれど、『半身』には怒りを覚えても、『君はひとりじゃない』は微笑ましい。何だかんだ言ってもアンナはいい人だから。

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Date: 2017.07.25 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (2)

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>>君はひとりじゃない from 象のロケット
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2017.07.26

>>「君はひとりじゃない」 from ここなつ映画レビュー
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2017.07.27

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