『お嬢さん』 シンメトリーな関係
原作はサラ・ウォーターズの『荊の城』。

舞台は日本統治下の朝鮮半島。詐欺師たちに育てられたスッキ(キム・テリ)はある計画を持ちかけられる。藤原伯爵を名乗る詐欺師(ハ・ジョンウ)は、秀子(キム・ミニ)というお嬢さんを騙して莫大な財産を狙っているのだという。スッキは秀子の侍女として豪邸に入り込み、詐欺師のために秀子を騙す策を巡らせることになるのだが……。
サラ・ウォーターズの原作『荊の城』を読んだわけではないのだが、その前作の『半身』はたまたま読んでいる。「このミステリーがすごい!」というランキングでは、どちらの本もその年の第1位となっていることからするとミステリーファンには評価が高いらしい。
しかし、個人的には『半身』のオチには読み終わった文庫本を投げつけようかと思ったくらいで、全然ミステリーとしては受け付けなかった。それでもあとになって考えてみれば作品世界の構築はとても素晴らしいものがあったことも確か。妖しい世界のなかで展開する女同士の危険な関係という意味で、丁寧に描かれた「やおい」として楽しめる作品だったかと思う。
『お嬢さん』も二転三転していく展開に驚かされるところもあるのだけれど、舞台となる奇妙な世界の構築のほうに重点があるような気もするし、そのなかで繰り広げられるスッキと秀子のレズシーンはもはやオチとは関係なく、ただパク・チャヌクの変態趣味を満足させんがために展開しているような感もある。韓国の女優陣に日本語で「ち○ぽ」「ま○こ」と言わせたりしているのもおもしろがってやっているように見える。
秀子が囚われの身となっている豪邸はイギリスと日本の和洋折衷様式で、その内部にはマニア垂涎のエロい稀覯本がコレクションされていて、秀子が読み手となった朗読会という妖しい集会が催されたりもしている。そこでは日本語で卑猥な言葉が飛び交うのだが、演じている役者陣はすべて韓国人であり、訛った日本語はわれわれ日本の観客からするとちょっと気恥ずかしくもあればおかしくもある。そんな奇妙な世界観が見事だったし、エロを描いても日本のロマンポルノとはまったく異なるエンターテインメント作品になっていたと思う。


叔父に豪邸に閉じ込められている深窓の令嬢・秀子と、スラム育ちの侍女・スッキ。騙すつもりで秀子に近づいたスッキだが、お嬢さんの美しさとその純朴さに惹かれていく。侍女はお嬢さんの身の回りの世話をする役目であるから、いつも一緒にいることになり、ふたりは次第に身分を越えて親しい関係になっていく。
このサイトのインタビューを参考にすると、パク・チャヌクは男女のベッドシーンとは違ったものを狙っていたようで、この作品では『アデル、ブルーは熱い色』のような濃密なレズの絡みがあるけれど、『アデル』と異なるのは裸になったふたりがまったく同じように見えてくるところだろうか。
秀子を演じるキム・ミニとスッキを演じるキム・テリの顔はまったく似ていないけれど、すべてを脱ぎ去り髪をほどいたあとはどちらも対等で見分けがつかない。長い黒髪とスレンダーな手足、小ぶりな胸。そんなふたりがくんずほぐれつする場面は、絡み合ったふたりがシンメトリーな構図を生み出している。上下関係もなければ攻めとか受身とかもないベッドシーンは、確かに男女のそれとはまったく別物のシーンとなっていたと思う。
最初に登場する侍女役のキム・テリは、素朴でかわいらしく導入部で観客の視点となるにふさわしい女性を演じていて、新人とは思えないくらい度胸もいい。それでもこの作品の基調となっている妖しさを体現しているのはお嬢さん秀子を演じたキム・ミニだろう。そんな意味では英題の「The Handmaiden(侍女)」よりも、原題の「アガシ(お嬢様)」からいただいた邦題のほうが内容に合っている。
ちなみに役名の“秀子”とは日本の女優・高峰秀子から採られているとのこと。キム・ミニは高峰秀子には似ていないが、松嶋菜々子っぽく見えるときもある。首吊り未遂で揺れている姿が似合うという人はあまりいないと思うが、キム・ミニはそんな妖しい姿が合っていて幽霊役とかやらせたらはまりそう。
ハ・ジョンウの演じた詐欺師は悪役ということになるのだろうが、慣れない日本語の台詞がどことなく憎めない印象で、その詐欺師の最後の一言が笑わせてくれる。
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