『ネオン・デーモン』 美の化身が辿る運命

 『ドライヴ』ニコラス・ウィンディング・レフン監督の最新作。
 主演は『Virginia ヴァージニア』『SUPER 8 スーパーエイト』などのエル・ファニング

ニコラス・ウィンディング・レフン 『ネオン・デーモン』 冒頭のバルテュスの絵画を模したとされるシーン。

 モデルになることを夢見るジェシー(エル・ファニング)は、田舎からロサンゼルスへ出てきたばかり。何の経験もないジェシーだが、持ち前の美貌によって出世街道を駆け上っていく。こんなふうに言うと女の子のサクセスストーリーのようだし、実際にそういう側面もあるのだけれど、そこからの転がり方がおもしろかった。
 極端な赤や青のネオンに彩られた世界、思わせぶりで溜めの多い描写、わけのわからない記号に示される“何か”。説明的な台詞もほとんどないような展開で、観る人によっては苦痛を感じるであろうことは予想される作品となっている。アートっぽい雰囲気で見せていくふうを装っているけれど、後半の展開からすればホラー映画であり、アートだと気構えてわからないと嘆くよりも、ホラー映画として笑い飛ばすのが正しい観方なのかもしれない。
 そんな妖しい世界で主人公ジェシーを演じたエル・ファニングがとても美しい。『マトリックス』の仮想空間のような写真撮影の場面など、この世のものとは思えぬ怪しい魅力を振りまいて周囲を虜にしていく。

 ※ 以下、ネタバレもあり!!


『ネオン・デーモン』 ジェシー(エル・ファニング)はメイクの仕事をしているルビー(ジェナ・マローン)と知り合う。

『ネオン・デーモン』 ジェシーは奇妙な記号に導かれて万華鏡のような世界を通過する?

◆美の化身?
 先ほどはエル・ファニングが美しいと言ったばかりなのだけれど、『ネオン・デーモン』ではそのほかの女優陣もまたとても美しい。重要となる3人はメイクの仕事をしているルビー(ジェナ・マローン)とモデルのサラ(アビー・リー)とジジ(ベラ・ヒースコート)。ファッション業界に生きる3人だけに彼女たちもかなりの美貌を誇っているのだが、作品中ではエル・ファニング演じるジェシーだけが特出した存在として描かれている。
 もちろんエル・ファニングは美しいのだけれど、サラ役のアビー・リーがそれに劣るとは思えない。このあたりは「外見がすべて」と語っているこの映画の主張とはズレが生じる。わざわざルビーに「ジェシーには“何か”がある」と言わせていることからしても、見た目だけでは誰もが有無を言わせず納得するほどの説得力がないとも考えているのかもしれない。ただリアリティを若干無視しても、ジェシーを特別な存在として描いていくことが必要だったということなのだろう。
 『オンリー・ゴッド』では神がタイ人の元警官として顕現したように、『ネオン・デーモン』ではジェシーは美の化身として存在している。それはモデルのオーディションでわざわざふたりを対決させ、サラには何の興味も示さない男がジェシーには生唾を飲み込むほど惹きこまれてしまうという描写にも表れている。
 美の化身たるジェシーは自分の美貌をはっきり意識しているし、それが金になることも理解している。彼女は「ガラスの海の中のダイヤだ」とか「太陽」とか様々な形容でその美が称えられる。しかしその一方でそれが永遠に続かないことも示されている。かつては美貌を誇っていたはずの先輩モデルたちは自分たちが賞味期限切れになりつつあることを知るのだが、同時にジェシーですらそれを逃れられないことも仄めかされる。

◆レズビアン/カニバリズム/ネクロフィリアなど
 冒頭、バルテュスの絵画を模したとされる血を流して死体となったジェシーの描写にあるように、この作品ではジェシーの美が損なわれる運命にあることは何度も予告されている。モーテルでの山猫侵入事件や、夢のなかでのモーテルの管理人(キアヌ・リーヴス)の登場は、性的な不安を感じさせるものだったが、それ以上に美そのものが損なわれることを示していたのだろうと思う。
 美の化身たるジェシーは周りに影響を与えざるを得ない。男たちはジェシーに魅了され、女たちは嫉妬する。最初から妖しい雰囲気だったルビーたち3人の女たちだが、クラブで最初にジェシーと出会ったときの会話は、彼女の身辺調査だったのかもしれない。両親は亡くなり、この街に知り合いもいないし男もいない。ジェシーを消してしまっても問題が生じないかどうかを探っているようなのだ。ルビーたちは美の化身としてのジェシーを分有する(=食べる)ことで、自分たちに美を取り入れようとするヴァンパイアのような女なのだ(そう言えばジェシーはまだ16歳の処女だった)。

 ジジがジェシーの美を受け入れることができなかったのは、彼女が整形を繰り返している偽者だったからだろうか。一方でサラはジェシーの美を分有することで、今までになかった“何か”を手に入れることになる。美というものがこんなふうにして消費されていくというようにも解釈できるのかもしれないのだけれど、単純にレフン監督が変態映画を撮りたかっただけなのかもしれない。
 『オンリー・ゴッド』と同様に唖然としたり、グロい描写には顔をしかめつつも、何だか魅せられてしまう作品だった。とりあえずはレズビアンのネクロフィリアなんて聞いたこともなかったし、今後も真似する人はいないんじゃないだろうか。

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Date: 2017.01.16 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (8)

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