『フィッシュマンの涙』 もはや地上に希望はない?

 エグゼクティブ・プロデューサーを務めているのはイ・チャンドン
 監督・脚本はクォン・オグァン。コンペティションによってこの映画のアイディアが選ばれて、今回の長編デビューとなったとのこと。

クォン・オグァン 『フィッシュマンの涙』 魚人間とその仲間たち。と言っても彼を利用しようとするばかりだが。

 「魚人間」のビュジュアルが妙に気になるこの作品。魚と人間の組み合わせでも、下半身が魚になれば、「人魚」と呼ばれてファンタジーのキャラっぽくなるのだが、この『フィッシュマンの涙』のように上半身が魚となると途端に得体の知れないものとなる。監督のクォン・オグァンは、ルネ・マグリットの「共同発明」という絵画に触発されてこの作品をつくったらしい。
 「魚人間」の造形は明らかに被り物とわかる代物で、グロテスクというよりも意外にもかわいらしくも感じられる。ちなみにこの映画が上映された新宿の劇場では、ロビーのソファーに腰掛けるような「魚人間」が居て、ひとり佇む姿がやけに哀愁を誘う。

劇場内に居たの魚人間(誰かが撮影したものがネットに落ちていた)。ちょこんと座っている姿が哀愁を誘う。

 バケモノの哀愁といったテーマとしては、たとえば『ザ・フライ』とか『エレファント・マン』など様々あると思うが、この作品の魚人間は意外にも出オチといった感もある。魚人間の苦悩を掘り下げるというよりは、魚人間というバケモノを発見してしまった周囲の騒動を描いていくからだ。
 魚人間の正体はパク・グ(イ・グァンス)というフリーターの青年で、製薬会社の治験に参加したために副作用で魚人間になってしまう。恋人というのは嘘で、実際には一度寝ただけの女だったジン(パク・ボヨン)は、酔った勢いそんな関係になったものの魚人間に愛情を抱いているわけではなく、彼を製薬会社に売り飛ばしてしまう。
 製薬会社の開発者は魚人間を利用するだけだし、彼の父親(チャン・グァン)は多額の賠償金をふんだくろうとし、名前を売りたい弁護士なども参加して騒ぎは大きくなる。そんな騒ぎをドキュメンタリーとして撮影しているサンウォン(イ・チョニ)が、一応の語り部となっているのだけれど、サンウォンにしても仕事を得るためにやっているにすぎない。魚人間はそうした騒動のなかで右往左往するばかり……。

 こうした騒動には韓国社会の現実が見て取れる。韓国でも日本と同じように就職難が続いているようだ。語り部のサンウォンも、魚人間の恋人を騙ったジンも、魚人間になってしまったパク・グも、仕事にあぶれた若者で韓国社会にあまり希望を見出せないでいる。そんななかの唯一の希望が公務員試験となっているのも、希望というよりは生きていくために仕方がないというあきらめにも感じられる。
 製薬会社や弁護士、さらにはパク・グの父親も含め、魚人間を利用しようとするものは彼の周囲に集まってくる。世間は底辺の人間たちのスターとして魚人間を一度は持ち上げるものの、風向きが変わると一転して今度はそこから引きずり下ろそうとする。この辺には大統領ですら犯罪者になってしまうという国の事情が反映しているのかもしれない。

 ラストでは海のなかで「水を得た魚」という言葉通りの姿を見せてくれる魚人間だけれど、その反面、もはや地上には希望はないということを感じさせなくもないわけで、地上で生きざるを得ない人間としてはちょっと複雑な気分。

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Date: 2016.12.24 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (0)

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