『エヴォリューション』 着実に進化していく妄想

 監督・脚本は『ミミ』『エコール』などのルシール・アザリロヴィック
 今回は併映として2014年製作の短編『ネクター』も上映された。

ルシール・アザリロヴィック 『エヴォリューション』 舞台となる島には女性と少年だけが住む。


 外界を海に囲まれ孤絶した島に住むニコラ(マックス・ブラバン)は、母親(ジュリー=マリー・パルマンティエ)とふたりで暮らしている。ある日、海の底で赤いヒトデの引っ付いた死体のようなものを発見する。しかし母親はその話を信用せずに、いつものようにニコラに薬を与える。ニコラには薬を飲まなければいけない病があるのだ。

 舞台となる島には若い女性と少年たちしかいない。女性と少年はペアとなっていて、一応母親と息子ということになっている。しかし、その見守り方は愛情からというよりも、監視しているようにも見える。
 というのは実は女性たちは子供を産まないようで、少年たちが子供を孕ませられるのだ。少年が与えられていた薬はそのためのもので、少年たちは病院に入れられて手術を受け、そのお腹に生命を宿すことになる。女性は少年を飼うことで、人間を繁殖させているのだ。
 一応女性たちは人間のようなフリをしているのだが、彼女たちの身体には吸盤のようなものもあり、無表情のまま少年を手術に追いやる姿はかなり不気味。進化した存在なのかもしれないのだが、彼女たちのあまりにおぞましい行為は女性たちが何かに乗っ取られているようにも見えてくる。

『エヴォリューション』 冒頭の海のなかの映像はユートピアのようだったのだが……。

 ルシール・アザリロヴィックという監督は、女性に生まれたことにひどく戸惑っているのかもしれない。壁に囲まれた閉鎖空間で少女たちが共同生活する『エコール』では、少女たちを美しく描きながらも、成長することへの恐れのようなものを感じさせた(色彩にインパクトがあった短編『ミミ』は、危なっかしいロリコンものだったような……)。
 今回併映された『ネクター』では、なぜか主人公の女性が身体から蜜を生み出すことになっていて、これは女性が子供を産むことへの驚きが別の妄想となって表現されているようにも思えた。そして『エヴォリューション』ではさらに嫌悪感が付け加わった悪夢のようなものに進化している。

 この作品のキャッチコピーは「そこはユートピアか、ディストピアか」。冒頭の海の底の映像は何とも言えず美しくまさしくユートピアなのだけれど、話が病院での少年たちへの医療行為のほうへと移っていくと途端に陰鬱なものになる。この作品自体が監督の妄想であり、さらにそんな世界に投げ入れられた少年ニコラの悪夢も加って、それらが説明もなく展開されていくものだから観客としては置いてけぼりを食らった気持ちになった。
 たとえば『ネクター』の蜜蜂の描写は、それが多くの召使いとそれを従える主人公の関係を類推させるのはわかりやすい。では『エヴォリューション』のヒトデは何なのか? 実はヒトデには様々な生殖形態があるようだ。人間と同じようにオスとメスで増える種類もあるのだが、メスだけで増える種類とか、個体が分裂しながら増えていく種類などもある。つまりヒトデは人間にもあるかもしれない別の生殖形態の可能性を類推させるような役割を果たしているのだろう。
 ただ蜜蜂の生態はそれなりに知られていても、ヒトデの生殖形態のことが思い浮かぶ人は少ないんじゃないかとも思う。あの血のような色のヒトデが何かしら不気味なものとして迫ってくることはあるのかもしれないけれど……。個人的にはわからないことだらけで、81分という上映時間にも関わらずやけに長く感じた。アートってのはそんなものか。

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Date: 2016.12.06 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (3)

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