『エクス・マキナ』 ロボットも人間も内側のことはわからない

IT企業で働くケイレブ(ドーナル・グリーソン)は社内での抽選に当たり、滅多に会えない社長と過ごす権利を獲得する。ヘリコプターで山奥の別荘まで送迎されたケイレブは、そこで社長のネイサン(オスカー・アイザック)から今回の滞在の目的を知らされる。検索エンジン「ブルーブック」を開発したネイサンの次の目標は人工知能で、検索エンジンで集めたありとあらゆる情報を取り込んだ人工知能を開発する。ケイレブはまだ誰にも知られていない人工知能のテストを任されるのだ。
人工知能を取り扱った映画は最近でも『オートマタ』とか『her/世界でひとつの彼女』とか『チャッピー』など様々あって珍しいものではないけれど、ほかの作品の人工知能がいかにも機械という姿だったり、PCのOSという目に見えないものだったりするのに比べ、この『エクス・マキナ』のロボット・エヴァはビジュアル的にインパクトがあったと思う(エヴァを演じたアリシア・ヴィキャンデルのお人形さんのように整った顔立ちが無機質な役柄にとても合っていた)。
インパクトとは言っても、身体の一部がスケルトン構造になっているというだけのアイディア勝負だ(マンガ『コブラ』のクリスタル・ボーイ風)。人間のような顔をもっているけれど、身体にはしっかりと機械仕掛けという証拠を見せている。それでもワンピースを着てカツラをつけたりすれば女の子にも見えてしまう。このビジュアルはその後の展開にも大いに関係するわけで、視覚的にもアイディアとしてもなかなか秀逸だった。
※ 以下、ややネタバレあり!

物語は二転三転していく。ケイレブはエヴァに対してチューリング・テストを行う。このテストは人工知能が人間と同じように知的か否かを調べようとするもの。ケイレブはガラス張りの部屋に閉じ込められているエヴァと向かい合って会話をし始めるのだが、その返答は人間を相手にしているようにしか思えない。
だからチューリング・テストの結果としてはエヴァは合格ということになるわけだが、テストを仕掛けたネイサンには別の目的もある。人工知能エヴァと人間であるケイレブとの間で恋愛は可能なのかという、ネイサンの下世話な興味も混じっているのだ。ネイサンにはキョウコという口を利かないメイドがいて、キョウコは実はよくできたロボットなのだが、キョウコにしてもエヴァにしても性交渉は可能なのだという。つまりほとんど人間の女性と何も変わらないわけで、そうなれば恋愛だって可能だろうというわけだ。もしケイレブがエヴァを愛したとすれば、より一層人間に近い人工知能が完成したことになるとネイサンは考えたのかもしれない。
エヴァに惹かれていくケイレブと、ネイサンを信用するなと訴えるエヴァと、ふたりの実験対象者を神のような視点から見守るネイサン。そんな3人の腹の探り合いは緊迫感があった。しかもその後にさらにひねりを加えてくる展開はなかなかスリリングで楽しめると思う。
最後にはネイサンの別荘を抜け出して街の交差点に現れるエヴァだが、個人的にはその未来に恐ろしいものはあまり感じなかった。ネイサンから逃げ出すためには手段を選ばなかったエヴァとはいえ、人間を敵に回すようなことはしないだろう。外見的には人間のなかに紛れ込むことは可能なはずだから、監禁状態から抜け出した女の子の新しいスタートのように希望さえも感じてしまうのだ。しかしその反面では、うぶなケイレブが騙されたのと同じでエヴァの考えていることなど何も理解していないだけなのかもしれないとも思う。
あまり物語とは関係ない部分だけれど、キョウコとネイサンのダンスシーンはちょっと見物(下の動画)。古臭い感じのダンスをふたりが真剣に踊りきるのが妙におかしい。キョウコを演じたソノヤ・ミズノは日系英国人のバレリーナだとか。
キョウコはいかにもモデル的なスレンダーな体型で、これにはその生みの親であるネイサンの好み(使い古しのほかのロボットもみんなモデル体型だった)が反映している。一方、エヴァが完成体になったときの裸はちょっとロリータっぽい。これはネイサンが検索エンジンのログから盗み出してきたケイレブの趣味に合わせたものとなっている。現実でもそうした情報は筒抜けになっているわけで、知らない間に検索エンジンに人間の行動がコントロールされているということはすでに起こっていることらしい……。
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