『ヒメアノ~ル』 一寸の虫にも五分の魂、それでは殺人鬼には?

 原作は『ヒミズ』などの古谷実。
 監督は『さんかく』『銀の匙 Silver Spoon』などの吉田恵輔

吉田恵輔 『ヒメアノ~ル』 岡田(濱田岳)はユカ(佐津川愛美)と仲良くなって……。何だかとても初々しい。

『ヒメアノ~ル』 安藤(ムロツヨシ)はユカにフラれてこんな髪型に(これは原作通り)。もう恋なんてしないという宣言だとか。


 特に趣味なんかもなく退屈な日々を過ごしている岡田(濱田岳)は、ビル清掃会社のパートタイマー。底辺の生活で夢も希望もないのだが、同僚の安藤(ムロツヨシ)は「日々恋をしている」と言い放つ。安藤が想いを寄せるユカ(佐津川愛美)をひと目見ようと彼女が働くカフェに行くと、そこには岡田のかつての同級生・森田正一(森田剛)がいる。安藤によると森田は最近いつもユカの様子をうかがっているのだと言う……。

 恋の相談に乗ったら相談相手がその関係に巻き込まれるというのはよくあるパターン。この映画の安藤はどう控えめに見てもモテない男だし、そのこじらせ具合はギリギリのレベルに達している。とはいえ相談を受ける岡田のほうもまったく女には縁がなく、そんな岡田にかわいらしいユカが想いを寄せることなどあり得るはずもなく、端から自分は対象外と考えていたらしい。そんなだから突然降って湧いた幸せに岡田はそれが信じられない。
 ごく普通の日常生活というよりは、安藤の特異なキャラもあってかなりドタバタコメディっぽい雰囲気。そうした日常はずっと続くこともあるのかもしれないのだけれど、この作品では一気に転調する。中盤になって『ヒメアノ~ル』というタイトルがようやく登場すると、トップに名前が出てくるのは森田役の森田剛であり、真の物語はそこから始まるということが示される。

『ヒメアノ~ル』 殺人鬼・森田(森田剛)の様子。画面も急に暗くなる。

 そこまで脇役でしかなかった森田に焦点が当てられると、それまでののんびりとした空気は消え去り、暗く陰惨な場面が続くようになる。岡田とユカのベッドシーンと森田の殺人シーンがカットバックされるところで、日常とその陰に潜む暴力、そのふたつの流れが交錯することになる。四つん這いで岡田に攻め立てられるユカと、四つん這いで森田からの殴打を受けて失禁する女(山田真歩)が重ね合わせられる。ここでは平凡だけれど輝かしい日常が森田の暴力によって黒く塗り潰されていくようでもあった。

 原作の『ヒメアノ~ル』に関しては、以前別の映画のときにもちょっとだけ取り上げた。そのラストにかなり衝撃を受けたからだ。作者の古谷実はこんなことを書いてしまって大丈夫なんだろうかと勝手に心配になったりするくらいだった。
 この映画版では原作マンガで描かれたような森田の心の内側には迫れないため別のラストが用意されている。マンガでは殺人鬼の森田が自己憐憫的に自らを振り返ったように記憶しているが、映画版では殺人鬼を見つめる岡田を絡ませることでもっと観客にわかりやすい感情に落とし込んでいる。個人的にはマンガではその自己憐憫がおぞましい気もしたのだけれど、映画版は殺人鬼に同情してしまうようなつくりになっていると思う。
 タレントとしては知っていても映画では多分初めて見る森田剛はかなり危険な役どころ。たたずまいはダルい感じだが、やっていることはおぞましく、殺しに躊躇がないところが恐い。一方のコメディ班の3人も原作マンガのバカさ加減をとてもよく出していたと思う。『恋に至る病』にも顔を出していた佐津川愛美は顔立ちがいかにもかわいらしくてコメディに合っていたし、結構きわどい場面もあってちょっとドキッとさせる。

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Date: 2016.06.05 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (5)

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2016.11.19

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