『SHARING』 震災の痛みを共有することは可能か?

 『おかえり』『東京島』などの篠崎誠監督の最新作。
 実はすでに東京での上映は終了してしまっている。3週間のレイトショー上映というかなり限定的な公開だったのだが、私が観た日は監督と観客との質疑応答などもあってか満席だった。このあと全国で順次公開することになるらしい。

篠崎誠 『SHARING』 何だかよくわからないけれどカッコいいポスター。


 2011年の東日本大震災から3年後。瑛子(山田キヌヲ)には、たまたまその日に宮城へ行ったために死ぬこととなった恋人・清志がいた。突然に愛する人を亡くした瑛子は3.11を忘れることはできないし、未だに夢のなかで清志の姿を追い続けている。一方、瑛子の教え子でもある薫(樋井明日香)は、東京で3.11についての舞台を稽古中。経験してはいない地震と津波について思いを馳せ、演劇で何かを語ることができるのか格闘している。

 『SHARING』では3.11を忘れることができない瑛子と、3.11を体験せずにそれについて語ることを模索する薫がいる。そうした出来事に遭わずに済んだ人にとってもそれはまったく関係ないわけではない。ただ、3年という時間が経過し、それぞれが日々の生活に追われていると、そんなことなどなかったかのように暮らしていたりもする。震災の痛みを共有する(SHARING)ことは可能なのか? 薫はそれを可能だと考える。
 演劇では自分の知らない役でもそれを演じなくてはならない場合もある。殺人者の役は殺人者しか演じられないとすれば演劇は成り立たない。そこを補うのが演技者のイマジネーションであり、それによって3.11の被災地とは遠く離れていても3.11について語ることはできる。薫はそんなふうに信じるが、ほかの者はそうではない。
 平穏無事な東京に居ながら3.11について語ることは傲慢ではないか。他方ではそういう考えもあり、演劇部の仲間は被災者の気持ちになりきることはできない。紆余曲折を経て完成した演劇は、もとの設定からズレて薫だけの一人舞台となることに鑑みると痛みの共有は簡単なことではないのかもしれない。

 瑛子は社会心理学者で予知夢についての研究をしていたりもする。というのは動物と人間を隔てるものは、人間に備わっている未来を想像する能力だと瑛子は考えるからだ。動物は今そこにある危機を察することはできるが、人間のように未来に対する漠然とした不安を感じることはないのだ。
 この作品の重要な登場人物である彷徨う男(高橋隆大)は、大学構内に爆発物を仕掛けることになるが、動物にはない過剰な何かが自ら破滅を導くような行動をしてしまうのかもしれない。彷徨う男はドッペルゲンガーを伴って登場するのだが、彷徨う男の未来には破滅と道とは別の道も示される。(*1)その別の道では、彷徨う男はある女の子と一緒になって幸せになっているように見える。ただ、そうした僥倖は決して訪れないのではないかという未来に対する不安があればこそ、爆弾を仕掛けるというバカな真似をしてしまう。

(*1) 今回観たのは111分版なのだが、この作品には99分の『SHARING アナザー・バーション』が存在する。彷徨う男に別の道が示されたように、『アナザー・バージョン』は111分版とは違う結末となっているらしい。ちなみに『アナザー・バージョン』には彷徨う男は出てこないとのこと。こちらも観たかったのだが……。

『SHARING』 瑛子と薫が対峙する場面では、最後にベルイマンの『仮面/ペルソナ』のような分割画面に……。

 前半は対話劇としてゆっくりとしたテンポで進む。瑛子と同僚は酒を酌み交わしながら、薫は演劇論を仲間と戦わせながら、3.11について語り合う。しかし、次第に瑛子の夢が現実を浸食していき、瑛子は何度も「夢から醒めた夢」を見ることになると事態は混沌としてくる。一方の薫はイマジネーションの力で被災者の体験を幻視してしまうことになる。そんなふたりの対話がひとつのクライマックスでもあるのだが、ふたりがそれぞれの気持ちを共有できたかといえばそうではないようだ。
 結末はそれが瑛子の夢という可能性を残しつつも苦いものになっている。そうした結末から痛みを共有することの必要性を読み解くこともできるのかもしれない。(*2)ただ、この映画『SHARING』は3.11以後のわれわれに説教を垂れるばかりではなく、3.11を題材にしながらそれをエンターテインメントとして仕上げているという点でとても貴重な作品となっている。
 瑛子の夢が現実を浸食していくにつれて、映画は不安をあおるようになっていく。久しぶりにゾクゾクさせられる感覚を味わったような気がする。それでは何が怖かったのかと言えば、ドッペルゲンガーでも爆弾でも幽霊でもなくて、未来に対する不安なんじゃないかとも思う。
 こんな限定的な公開ではもったいない作品。しかもソフト化するかどうかもあやしいようなので、観る機会がある人はぜひとも。

(*2) 篠崎監督の『忘れられぬ人々』では、第二次大戦でお国のために戦った兵士たちのその後の姿が描かれる。震災も戦争も忘れてはならない出来事ということなのだろう。


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Date: 2016.05.22 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (0)

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