『レヴェナント:蘇えりし者』 ディカプリオ、何もそこまでしなくても……
この作品はイニャリトゥに2年連続のアカデミー賞監督賞をもたらしたほか、主演男優賞と撮影賞などのアカデミー賞5部門を受賞した。
音楽には坂本龍一も参加している。

物語は単純で、一言で表せば復讐劇である。グリズリーに襲われて瀕死の重傷を負ったため、仲間のフィッツジェラルド(トム・ハーディ)から見放されたヒュー・グラス(レオナルド・ディカプリオ)は、動けない状態のまま息子を殺されるのを目にする。瀕死の状態にあったグラスはそのまま凍てついた大地に置き去りされるものの、息子の仇を討ちたいという気持ちが彼を蘇らせる。
冒頭のネイティブ・アメリカン襲撃シークエンスの長回しで一気に物語の世界に引き込まれる。その後は主役を演じたディカプリオの独壇場で、台詞はあまりないものの艱難辛苦に耐え抜く表情で157分を引っ張っていく。グリズリーに散々かわいがられても死なないのは信じられないことだが、この作品は事実をもとにしているらしい(原作は『蘇った亡霊:ある復讐の物語』という小説)。瀕死の傷を負いながらも仇討ちのために匍匐前進していく不屈の精神には恐れ入った。
この作品でアカデミー賞の主演男優賞を獲得したディカプリオだが、グリズリーに小突かれ振り回されるのが評価されたのかはともかくとして、実際に氷点下の撮影現場で過酷な試練をこなしているのも確かで、ほとんどスタントなしで本人がやっているのだからその根性は認めるほかないだろう。
個人的には寒さだけでも遠慮したいところだが、川に落とされてみたり、土に埋められてみたり、食べ物がないために草を喰い、バイソンの生レバーまでむさぼり喰うのだから、さすがのアカデミー会員も根負けしての主演男優賞受賞というところだろうか(『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』を思わせるサバイバル術として、馬の腹のなかで一晩過ごす場面も強烈だった)。

とにかく撮影の素晴らしさは圧倒的で、撮影監督のエマニュエル・ルベツキがアカデミー賞において3年連続の撮影賞獲得という史上初の快挙を成し遂げたのも納得だった。『ゼロ・グラビティ』は宇宙が舞台でCGに頼ったものだったが、『バードマン』は室内だけの全編ワンカットという技巧を凝らした作品だった。さらに今回は大自然こそが主役とも言えるほどに壮大な風景を捉えていて、前二作とはまったく違った映像を生み出している。
この作品は自然光だけを使いマジックアワーと呼ばれる時間帯に撮影されたのだという。かつてそうしたアプローチで評価されたのがテレンス・マリックの『天国の日々』(撮影監督はネストール・アルメンドロス)だったわけだが、『レヴェナント:蘇えりし者』はそんなテレンス・マリックを意識したような映像となっていたように思えた。
というのもエマニュエル・ルベツキはすでにテレンス・マリックとのコンビで『ニュー・ワールド』『ツリー・オブ・ライフ』『トゥ・ザ・ワンダー』を撮っているし、そのときのプロダクションデザインのジャック・フィスクも『レヴェナント』に参加しているからだ。
『ニュー・ワールド』も開拓地の風景を美しく描いていたが、『レヴェナント』はそれ以上の未開の地の厳しさが捉えられていて神秘的な美しさを感じさせる。それからテレンス・マリックほど宗教に傾いてはいないけれど、しきりに空を見上げるようなカットが挟まれるのは神に何かを祈るような『ツリー・オブ・ライフ』を思わせもし、『レヴェナント』はイニャリトゥ色よりもエマニュエル・ルベツキの手腕が際立っていたようにも見えた。広角レンズを使用したパンフォーカスで画面の隅々までクリアな映像を見せてくれるので、ぜひとも映画館の大きなスクリーンで観ておきたい作品になっていると思う。
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