『スポットライト 世紀のスクープ』 地味ながら誠実なアカデミー賞作品賞

 「カトリック教会の性的虐待事件」という衝撃的な事実をもとにした作品。
 アカデミー賞では作品賞と脚本賞を受賞した。
 監督は『扉をたたく人』『靴職人と魔法のミシン』のトム・マッカーシー

 『スポットライト 世紀のスクープ』とは関係ない話題をひとつ。今回の作品は新宿のTOHOシネマズのSCREEN9で観たのだが、ほかの階の4D作品(恐らく『バットマンvsスーパーマン』かと思う)の影響らしく盛んに振動が伝わってきた。
 つい先日、熊本で大きな地震があっただけにちょっと心配にもなったりして、集中できない部分があった。観客の一部はちょっとざわついていたから地震かと勘違いしている人はそれなりにいたはずで、今回の作品ように台詞が中心の静かな映画のときは問題ありだと思う(たとえば、4D版『バットマンvsスーパーマン』の上映と同時にスタートした2D版『バットマンvsスーパーマン』ならば、同時に揺れが伝わっていいのかもしれないけれど)。それにしても何の振動対策もしていないのだろうか? 
 ちなみにTOHOシネマズ新宿(なぜか新宿のみらしい)では、木曜日にマスターカードを使うと割引になるサービス(モク割)というのがあるらしい。これはちょっとありがたいサービスだと思うのだけれど……。

トム・マッカーシー 『スポットライト 世紀のスクープ』 「スポットライト」のコーナーを担当する4人と編集長。

 2002年、ボストン・グローブ紙が「カトリック教会の性的虐待事件」について報じた。この作品は、同紙の「スポットライト」という特集記事を担当する4人が中心となり、その事実に迫っていく様子を追っている。
 きっかけはよそ者の編集長バロン(リーヴ・シュレイバー)が赴任してきたことから。新編集長は小さなコラムに載っていた神父の性的虐待に関して、なぜそれを掘り下げなかったのかと「スポットライト」チームの面々に訊ねる。ボストンはカトリックが多い土地でボストン・グローブ紙の読者の約半分がカトリックだ。そんな町では教会に関して誰も疑問を抱かない。「スポットライト」チームのメンバーもカトリックの影響下にあるわけだが、新編集長はボストンには何のしがらみもないわけで怖いものはないし、ユダヤ人だから色眼鏡で見ることのなく状況を把握したのだ。

 この作品の結末はすでにわかっている。けれどもそこにたどり着くまでには紆余曲折がある。性的虐待を受けた被害者は通常でもそれを公表したがらない。ましてやこの場合の被害者は歳若い少年ばかりで、しかも加害者は神父である。神父を訴えることは神に楯突くと同じこと、そう信者の多くは考えているのだ。そんな地域では教会の正しさを信じるあまり、神父が幼い子供に性的虐待をするなどとは考えられないのだ。万が一、それが事実だと認めたとしても、今度はそれを隠蔽する方向に進む。なぜなら教会の善は明らかであって、大きな善のためには小さな犠牲はやむを得ないからだ。
 ボストンの町を守るためには、教会に過ちがあってはいけない。だから間違いを犯した神父は「病気療養」などの名目で転属し、被害者には教会が雇った弁護士が金を払い口をつぐませる。作品冒頭で登場するゲーガン神父は70年代にすでに性的虐待で問題となっていたのだが、その後、30年もの間カトリックのシステムに守られてほかの土地でも性的虐待を繰り返していたのだ。

『スポットライト 世紀のスクープ』 集合写真風の1枚。地味な映画だけにあまり絵面は変わらない。

 とても地味な映画だ。「スポットライト」チームの頑張りによって最後にはカトリック全体を揺るがすような記事が公になる。ただ派手な盛り上がりはないし、記者たちは感情をむき出しにして争ったりもしない。マイク・レゼンデス(マーク・ラファロ)の勇み足の部分がかえって浮いてしまうほど誰もが地道に仕事をしているのだ。
 もっと感情に訴えかけるような作りにすることは簡単だが、禁欲的にそうした方法を避けているようだ。何人か登場する被害者たちに寄り添うこともできたはずだし、もっと記者たちをヒーロー然とした存在として扱うこともできただろう。それから、この作品ではなぜか加害者である神父の顔がほとんど見えない。たとえば『トガニ』などではあのおぞましい顔があったからこそ観客に訴えるところがあったはずで、『スポットライト 世紀のスクープ』は意図してそれを避けている。
 というのも、おぞましい神父を糾弾することで被害者や観客が溜飲を下げてしまうのは真の目的に適わないからだ。同じように、記者たちがヒーローにならないのも、悪を懲らしめて正義が凱歌をあげ、それで物事が済んでしまったかのような終わり方にしないためだろう。
 編集長が言っていたように、ひとりの加害者神父を糾弾することが目的ではないのだ。個人を攻撃するだけでは教会は特殊な個人の問題としてそれを処理してしまうことになる。そうではなくてカトリックのシステム全体の問題を示すことが目的なのだ。この作品のラストでは、記事を読んだ被害者からの反響のあとに、そうした事件が明らかになった都市のリストが示される。びっくりするほどの数のリストが続くことで、カトリックのシステム全体に広がっていた問題の根深さがじんわりと感じられるのだ。

 とはいえ、そうした手法が映画製作者の目的には適っていて誠実だったとしても、観客としてはもの足りなさを感じる部分があったことも確か。「スポットライト」チームのリーダーであるロビー(マイケル・キートン)は、かつて神父の性的虐待の記事を担当したことがあった。ただ記者のハードワークに紛れてしまったのか、ロビーは知っていたのに何もしなかったことになる。そんなロビーの葛藤を掘り下げれば、昨年の『バードマン』に続いてマイケル・キートンはアカデミー賞主演男優賞を狙えたかもしれないのに残念な気もした。それから編集長を演じたリーヴ・シュレイバーが脇役ながら印象に残った(あの静かな熱意はどこから来たのだろうか)。

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Date: 2016.04.23 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (12)

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