『ロブスター』 設定は抜群におもしろいのだけれど……

 ギリシャ映画『籠の中の乙女』ヨルゴス・ランティモス監督の初の英語作品。
 コリン・ファレルレイチェル・ワイズレア・セドゥベン・ウィショージョン・C・ライリーという豪華な顔ぶれを見ると、この監督の作品がいかに期待されているかがわかる。私は観ていないのだけれど『籠の中の乙女』は評判がいいらしい。

ヨルゴス・ランティモス 『ロブスター』 かなり豪華な出演陣が名を連ねている。今回のレア・セドゥはエロを封印している。


 ルール1 45日以内にパートナーを見つけること
 ルール2 独身は罪
 ルール3 捕まれば動物になって頂きます

 妻に去られ独身になったデヴィッド(コリン・ファレル)は独身者たちが収容されたホテルに送られる。そこで45日間にパートナーを見つけることができなければ動物に変えられてしまう。デヴィッドの連れている犬も兄の変えられた姿だ。デヴィッドは果たして無事にパートナーを見つけて動物になることを回避できるのか?

 設定は抜群におもしろい。この設定は現実世界の姿を誇張したものだ。世の中に独身者など必要ないという世間一般のごく穏当な考えをグロテスクにして表現したものだろう。この作品世界ではカップルであることが自然の姿とされていて、何らかの理由でひとりになったときは強制合コンみたいなホテルへ収容されカップルになることを強いられる。
 ホテルでするべきことと言えばパートナー探しだけなのだが、なぜか森へ人間狩りに出かけることも日課となっている。森に潜む社会不適合者たちを狩ることで動物にされる日付を先送りすることもできる。実はこの森に住む人間はカップルになることを拒否した独身者たちなのだ。

 もちろん現実世界でもカップルであることは推奨される。というのは次世代が生まれてこなければ社会は成り立たないからだ。この『ロブスター』でもカップルの性交渉は望ましいものとされているらしく、そのために独身者はマスターベーションを禁止され、しかもホテル従業員の扇情的な行為で欲望をさらに駆り立てられ、すぐにでもパートナーを見つけることを強要される。しかし、ホテルでは同性愛カップルも認められているので(なぜかバイセクシャルはダメ)、次世代のことを考えているわけではない。ここではカップルであることが強迫観念のようなものになっているのだ。
 カップルになることを拒否すればこの社会では生きられないわけで、そうなると森のなかに逃げ込むしかない。それでも森のなかに自由があるわけでもない。カップルを強制されない代わりに、恋愛やセックスは禁止される。そして社会をつくらないことを前提としているからか、助け合いは禁止され、自己責任で自己完結しなければならない。自分の墓は自分で掘り、死ぬときは自分で墓に入るべしという極端な取り決めもある。
 
 ※ 以下、ネタバレもあり! 結末にも触れているのでご注意を!

『ロブスター』 デヴィッドは森のなかでレイチェル・ワイズ演じる女と恋に落ちるのだが……。
 
 現実を誇張した作品世界はたしかにおもしろい。そんな世界で登場人物たちはいかにも真面目な顔でバカらしいことをやってのける。そのあたりのギャップが笑いどころなのかもしれない(ベン・ウィショーとジョン・C・ライリーのじゃれ合い以外ほとんど笑えないけど)。
 この作品では設定にしても、登場人物の背景にしても特に説明はない。意味がないことにお付き合いできて楽しめる人ならこの映画には適しているのかもしれないけれど、「なぜなのだろうか」というウブな疑問を持ってしまうような人には合っていないかもしれない(私は後者)。「なぜ動物に変えられるのか」「なぜ人を狩るのか」「なぜカップルに共通点が必要なのか」という疑問は、当然のことと考えられているのかもしれないけれど特段の説明はないのだ。
 主人公デヴィッドがホテルで惹かれる女は、血も涙もない女なのだけれど、そのキャラは背景もなければ意味もないまま放り出される(とても興味が沸くキャラだと思うのだが)。また、カップルたちは互いの共通点探しに夢中になり、共通点を作るために涙ぐましい努力を積み重ねているのだけれど、谷崎潤一郎『春琴抄』的なラストが説得力を持つほど登場人物の内面が掘り下げられているとは思えなかった。
 ちなみに題名はデヴィッドがなりたいと思っていたのがロブスターだったから。本当かどうかは知らないけれど、ロブスターには寿命がなくて生殖能力が落ちることもないのだとか……。

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Date: 2016.03.13 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (5)

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