『きみはいい子』 やさしさの連鎖という希望

 『そこのみにて光輝く』(キネマ旬報ベスト・テン1位)の呉美保監督の最新作。
 昨年6月末に劇場公開され、今年1月20日にソフトがリリースされた。
 原作は中脇初枝の同名連作短編集。

呉美保監督 『きみはいい子』 水木雅美(尾野真千子)は娘のあやね(三宅希空)に手をあげてしまう。

 『きみはいい子』は3つのエピソードを中心にした群像劇となっていて、それらは関係のない話だけれど、学校を中心にしてゆるやかに結びついている。
 虐待された子供が成長して親となったとき、同じことを繰り返すというのはよくあることのようだ。この映画の水木雅美(尾野真千子)もそうで、夫が単身赴任で娘とふたりきりのマンションの部屋で、娘のあやね(三宅希空)に手をあげてしまう。虐待の描写は直接的なものではないのだけれど、その泣き声だけでも観ていてもつらいものがある。
 一方で岡野匡(高良健吾)が担任をするクラスの子供たちのふるまいには唖然とするものがある。しつけとしてビンタくらい食らわせなければいけないんじゃないかとも思わせる傍若無人ぶりとなっているのだ。子供たちの相手をするのは大変だろうと改めて思い、揚げパンは大好きでも小学校の先生は遠慮したい気持ちにもなるのだが、そんな子供たちのなかにはやはり虐待で苦しんでいる子が存在する。ここでは意図的にかわいそうな子供とウザい子供の両方が配置されているのだろう。
 さらにもう一つのエピソードでは障がい児と認知症の老婆のふれあいが描かれている。

 ※ 以下、ネタバレもあり!

『きみはいい子』 岡野匡(高良健吾)は神田さん(浅川蓮)のことを気にかけているのだが……。男の子なのに“さん”付けなのは差別に対する配慮だとか。

 簡単に言えば「暴力の連鎖を断ち切って、やさしさの連鎖を」というのがこの作品のメッセージだろう。雅美はやさしさを知らないから、子供に対しても親から受けた暴力で接してしまう。そんな雅美のことを理解して抱きしめることになる大宮陽子(池脇千鶴)には、暴力の防波堤になってくれた近所のおばあちゃんがいた。暴力はそこで途絶え、おばあちゃんのやさしさは陽子を通じてほかへと広がっていく。雅美の苦しみに陽子が理解を示した瞬間、それまで寒々しかった部屋に光が差すのだが、そうやって誰かがやさしさをつなぐことで世の中が少しずつ幸せになるのだろう。
 一方で岡野は家族にハグしてもらうという宿題を出して、やさしさの連鎖を広めようとする。そして岡野が神田さん(浅川蓮)のための防波堤になることを決意したところで映画は終わる。それ自体は感動的なのだけれど、どこか釈然としないものを感じてしまったのは、岡野が走り出す前の場面でいわゆる「特殊学級」の様子が挟み込まれているからだろうか。岡野の決意をわざわざそうした場面のあとに見せるのはちょっとあざといような……。
 それにしても岡野は揚げパンを持ってどこへ向かおうとしていたのだろうか。岡野は5時のチャイムに気づいて突然反対方向へと走り出す。養父によって邪魔者扱いされ、5時までは家に帰ることができない神田さんのことを思い出したのだろうが、その瞬間までは家に帰って自分で揚げパンを食べるつもりだったのだろうか。

 子供たちがハグの感想を語る場面はアドリブなんじゃないだろうか。子供たちは与えられた台詞ではなくためらいがちに自分の言葉を探している様子が見られたからで、アドリブか否かはわからないけれどとても自然でよかったと思う。それから岡野に抱っこされた甥っ子が、「がんばって」とささやく際の妙にやさしいトーンがとてもかわいらしかった。
 『そこのみにて光輝く』とはうって変わった池脇千鶴のおばちゃんぶりが見事で、雅美に寄り添うその丸まった背中からしておばちゃんにしか見えなかった。

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Date: 2016.02.11 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (1)

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生徒や親に振り回されてばかりいる小学校の新米教師、認知症扱いされている一人暮らしの女性と自閉症の生徒、夫が単身赴任中で3歳の娘を傷つけてしまう母親とママ友たち…。 同じ町で暮らす人々の出会いを描く、ヒューマン群像ドラマ。 >READ

2016.02.14

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