『オデッセイ』 宇宙でひとりぼっち、再び
アカデミー賞には作品賞・主演男優賞を含む7部門にノミネートされている。
原作はアンディ・ウィアーが自分のサイトで連載していたという『火星の人(The Martian)』。

事故で火星に取り残されてしまったマーク・ワトニー(マット・デイモン)。火星には空気もなければ、水もない。助けを呼ぼうにも通信手段もない。食糧は31日分が残っているけれど、次のロケットが到着するのは4年後。そんな状況でワトニーはどうやって命をつないでいくのか。
どう考えても絶望的な状況なのだけれど、ワトニーは常に前向きでユーモアを忘れない。パニックになることもなく自らの置かれた状況を冷静に把握し、対策を練って実行していく。意外にもあっさりと食糧問題を解決してしまい、長期的展望を語る様子は地球に戻ることを信じて疑わない楽天的なものすら感じる。
ワトニーがそんなふうになってしまうのは、残されていた音楽がルイス船長(ジェシカ・チャステイン)の70年代のディスコ・ミュージックばかりだったからなのかもしれない。あのノリではどうにも暗くなりようがないのだ。ドナ・サマー「Hot Stuff」とかデヴィッド・ボウイ「Starman」とかグロリア・ゲイナー「I Will Survive」など、有名な曲がワトニーの気持ちに沿うように配置されていて、困難を乗り越えてサバイブしていくエンターテインメント作品としてとても楽しめる。途中で藪から棒に中国が出てくるのも営業戦略という感じがするし、世界中のみんながワトニーを応援しているというのもハリウッドの超大作らしい雰囲気だった。
NASAが協力しているということもあり科学的には正しい描かれ方をしているのだろうと推測するのだけれど、細部の説明は宇宙飛行士のひとりが「それを英語で言うと?」と茶化しているように、専門的すぎてよくわからなかった。それにしてもあんな状態のロケット(?)で宇宙に飛び出せるものなのだろうかとワトニーが心配になった。
この作品はマット・デイモンが主役だが、彼自身がこの役を望んで製作陣にアプローチしてきたとのこと(本屋で立ち読みした雑誌『DVD&ブルーレイVISION』にそんな記事があった)。いつでも“いい人”というイメージが強いマット・デイモンだが、『インターステラー』では宇宙の片隅に置き去りにされて寂しくて狂気に陥るという役柄だった。今回の『オデッセイ』はそれとは正反対なわけで、『インターステラー』の悪役の記憶を上書きするような意識があったのかもしれないなどと感じてしまう(共演のジェシカ・チャステインも『インターステラー』に出ていたし)。
宇宙の彼方と消え去りそうになるワトニーを仲間がインターセプトするというラストのミッションはとてもハラハラさせるのだけれど、やはり『ゼロ・グラビティ』を思い出してしまうわけで、全体的にどこか既視感もあった。嵐の場面は『プロメテウス』でもやっていたし、火星の造形も『ゴースト・オブ・マーズ』『ミッション・トゥ・マーズ』なんかとさほど変わらない。リドリー・スコット作品としてはもの足りないし、エンタメに徹しているからアカデミー賞の作品賞や主演男優賞とは縁遠いだろうと思う。
『オデッセイ』とはあまり関係ないのだが、雑誌のインタビューでリドリー・スコットが『悪の法則』に関して語っていた。賛否両論の『悪の法則』だがギレルモ・デル・トロはそれを35回も観たとも噂され、リドリー本人もとても気に入っている作品だということ。楽天的で希望に満ち溢れた『オデッセイ』とは正反対の『悪の法則』だが、個人的にはあの暗さにしびれた。
![]() |

![]() |

![]() |

![]() |

- 関連記事
-
- 『ディーパンの闘い』 内に秘めた暴力が爆発するとき
- 『オデッセイ』 宇宙でひとりぼっち、再び
- 『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』 勝者であり続けることの難しさ
この記事へのコメント: