『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』 勝者であり続けることの難しさ
ラミン・バーラニはイラン系アメリカ人で、アミール・ナデリもイラン出身ということだが、そんなふたりが選んだ題材がいかにもアメリカっぽい資本主義というのはなぜなんだろうか。

リーマン・ショック後のアメリカ。デニス・ナッシュ(アンドリュー・ガーフィールド)は借金を返すことができずに長年暮らしてきた家を追い出される。母親と息子を連れてモーテルに一時避難したナッシュだが、金を作る手段もなく、自分たちを追い出した憎き不動産ブローカーのリック・カーバー(マイケル・シャノン)の下で働くことになる。
リーマン・ショック後には借金が払えなくなって家を追い出される人が大勢いたようで、舞台となるフロリダでは“ロケット・ドケット”という短期裁判でそうした訴訟を解決していたようだ(こちらのサイトを参照)。作品のなかでも「4万件も順番待ちの案件がある」と説明されるわけで、個々の事情など構っていられるものではないらしく、借金が返せなければ有無を言わせず強制退去の運びとなる。
そうなると不動産業者が警官を伴ってやってきて2分ばかりの温情的な時間を与えられただけで、家のなかのすべての物は敷地外に出されてしまい、住み慣れた家は銀行のものとなる。法律は銀行の味方であり、社会のシステムを守るためには庶民など路頭に迷おうと関係ないのだ。箱舟に乗ることのできるのは1%で、残りの99%は溺れ死ぬ。リックが言うように、それがアメリカの資本主義であり、アメリカは勝者の勝者による勝者のための国なのだ。
邦題が『ドリーム ホーム』となっているのは、ラミン・バーラニが“アメリカン・ドリーム3部作”を撮っているからなのだろう。その3部作は観ていないのだけれど、今の時代に能天気にアメリカン・ドリームを描くことは難しいんだろうと思うわけで、この作品の“ホーム”も夢に満ち溢れているとは言えないものだ。
※ 以下、ネタバレもあり!

リックはもともとは普通の不動産屋だった。それでも銀行はデタラメな金融商品を売っているし、政府は無策なわけで、時代の流れがリックを取り立て屋にさせたのだと言う。悪いのは自分ではないと言いたいのかもしれないが、リックはほかの人を押しのけて勝者になったのだ。
ただ、1%の勝者は幸せなのかというと微妙である。リックは自分が周囲に敵を作っていることを知っていて、常に銃を手放すことができないのだ。リックは今現在は1%の側にいるわけだが、それはいつまでも続くとは限らないわけで戦々恐々としている。このシステムでは誰が幸せになるのかとも考えてしまう。
そんなリックはナッシュを右腕に据える。ただ、すべてをリックがコントロールしているようでいて最後が妙に甘い。一度は潰したナッシュを拾い上げ、元の家を買い戻させたのもリックだし、欲張ってそれ以上を求めさせてナッシュの家族を崩壊させたのもリックだと言える。ナッシュを追い込んでしまっているわけで、リックは自らその破滅を用意してしまっているようにも見えるのだ。
家を追い出された人間はどうなるか? リックのように「家なんかただの箱だ」と言い切れる人ばかりではない。家は家族と過ごした想い出もつまっているのだ。作品冒頭では自殺者も出ているし、腹いせに家を汚物まみれにする輩もいるわけで、99%の庶民から絞り取るにしてもあまりにえげつないやり方ではかえってしっぺ返しを食らうことに……。そのあたりの見極めはリックの苦手とするところだったのかもしれない。
リックを演じたマイケル・シャノンが圧倒的で、勝者の国について演説も説得力がある。一方でナッシュを演じたアンドリュー・ガーフィールドが最後まであか抜けないのは、物語上の必然性からだとは思うけれど、そそのかされて買ってしまった豪邸でのやり場のない感じはよかった。ローラ・ダーンはナッシュの母親役なのだけれど、とてもおばあちゃんには見えなかった。
![]() |

- 関連記事
-
- 『オデッセイ』 宇宙でひとりぼっち、再び
- 『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』 勝者であり続けることの難しさ
- 『サウルの息子』 見たくないものを見ようとすると……
この記事へのコメント: