『アレノ』 夫と、妻その愛人 さまよう3人

 エミール・ゾラの小説『テレーズ・ラカン』をもとにした作品。
 監督・脚本は『かぞくのくに』『夏の終り』などのプロデュースをしていた越川道夫
 脚本には越川監督の奥様だという佐藤有記(『ヘヴンズ ストーリー』など)も名を連ねている。

越川道夫 『アレノ』 冒頭のシーンの夫(川口覚)と妻(山田真歩)。雨のシーンなのだが、雨の音だけで実際に雨が降っているように見えないのがちょっと気になった。


 病弱な夫(川口覚)とその看護のために結婚させられたような妻(山田真歩)。ふたりには幼なじみで今でも仲のいい男(渋川清彦)いて、実は妻はその男と不倫の関係にあった。愛人の男と妻は邪魔になる夫のことを殺してしまうのだが……。

 雨の降る寒々しい湖の雰囲気がとても印象的だった(ギドク『魚と寝る女』を思い出させる)。夫を殺した妻と愛人は、湖近くのホテルで死体が上がるのを待つことになる。日常生活とは切り離された場所で、登場人物の過去に関してもほとんど語られない。そんななかで濃厚な濡れ場が展開されるあたりはロマンポルノっぽい。
 邪魔者を消したふたりはホテルのベッドで愛し合うことになるが、なぜか最初はうまくいかない。ところが幽霊となった夫がふたりのそばに現れると突然燃え上がることになる。ふたりは水から上がって濡れたままの幽霊に見守られながら愛し合う。それまで隠れて愛し合っていたふたりなのに、邪魔者を消した途端、その邪魔者がふたりにとって必要とされるというのが奇妙なところ。
 この作品では夫の幽霊は意外にすんなりふたりに受け入れられ、それぞれと会話を交わしたりもする。後半では生き残ったふたりは毒を飲んで心中を図ることになるものの、結局死ぬこともない。というより、ふたりとも死んでしまい、いつの間にかに夫と同じ幽霊となっているということなのだろう。
 生きているのか死んでいるのかわからない女が慣れない車に乗ってどこかに行こうとしたところで映画は終わる。“生きているのか死んでいるのかわからない”状態というのは、夫の看護に明け暮れる日々だった女の過去のことだが、夫を殺してからも似たような境遇にあるのが皮肉なところ。題名の“アレノ”とは、3人がさまようことになる“この世”という“荒野”のことなのだろう。
 思えば、愛人の登場の仕方も亡霊のようだった。冒頭の夫と妻の心中を思わせる場面に続くのが、突如として湖から生まれ出たような愛人の出現だったからだ。湖から女が助け出されると、女は愛人のことを化け物か何かのようにびっくりした顔で見つめている。ここでは語り落とされていることがあるから愛人が突然出現したように見えるわけだけれど、初めに愛人も亡霊のように登場していたからこそ、ホテルの部屋に夫の幽霊が出現するのもごく自然に感じられたのだと思う。

『アレノ』 湖から助け出された妻役の山田真歩。本当に寒かったらしい。

 主演の山田真歩はテレビドラマ『花子とアン』でも知られているようだが、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(松居大悟監督)のOL役がとてもよかった。今回は初の濡れ場ということだが、かなり大胆なベッドシーンを演じている(レーティングも18禁だし)。
 同じ原作をもとにした『渇き』(パク・チャヌク監督)のキム・オクビンはエネルギッシュだった。『渇き』では夫がいなくなった女は抑圧から解き放たれたようにセックスを楽しむわけだが、『アレノ』の山田真歩はどこか背徳感みたいなものがあって淫靡なところがよかったと思う。

 今回は映画の日に『アレノ』を観たのだが、その日は越川道夫監督と殺された夫の母親役を演じた内田淳子さんの舞台挨拶があった。
 息子を亡くした母親(内田淳子)は嫁(山田真歩)に対して怒りをぶつけようとするのだが、車イスの世話になっている身体で自由が利かない。母親は嫁の手を取るとそれを噛むことでどうしようもない思いを表現する。
 舞台挨拶で語られていたのは即興演出について。上記の場面でも監督からの具体的な指示はなかったようだが、母親役は車イスという設定であり、蹴り飛ばしたくてもそんなことはできないわけで、その制限から手を噛むという行動になったようだ。即興演出もあまり自由度がありすぎるよりも、何かしら制限があったほうがやりやすいとのこと。
 冒頭の湖のシーンは本当に寒かったらしく、実際にその水に浸かった山田真歩は寒さで震えて考えていた演技ができなかったとのこと(越川監督談)。でも、そんな演じる人の自然な反応をカメラが捉えてしまうというのも映画のおもしろいところなのだろうと思う。

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Date: 2015.12.06 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (0)

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