アトム・エゴヤンの最新作 『白い沈黙』 誘拐された愛娘が8年後に

 『スウィート ヒアアフター』『アララトの聖母』などのアトム・エゴヤン監督の最新作。
 原題は「THE CAPTIVE」

アトム・エゴヤン 『白い沈黙』 マシュー(ライアン・レイノルズ)は娘のキャスを乗せて家路を行くのだが……。


 マシュー(ライアン・レイノルズ)は娘のキャスと共に家へと帰る途中、夕食用のパイを買いにいつものダイナーへと立ち寄る。ほんの数分目を離した隙に、キャスは忽然と姿を消してしまう。警察に連絡するものの、警察はマシューに疑惑の目を向けるだけで役に立たない。それから8年後、なぜか母親ティナ(ミレイユ・イーノス)の働くホテルの部屋にキャスの持ち物と思われるものが現れるようになり……。


 ※ 以下、早々とネタバレ! ご注意を!

 この映画の観客の多くが、上記のような情報はあらかじめ頭に入っているものと思われる。予告編でも「一体、誰が何のために」と丁寧に観客の気を惹くべく謎が提示されている。しかし、映画が始まるとあやしげな男が金髪の女の子を監禁している様子が映し出されるわけで、「一体、誰が何のために」「誰が」の答えは冒頭で明らかになってしまう。
 そうなると「何のために」という部分が残るわけだが、この答えも意外に簡単に示されることになる。事件を追う刑事の関心は、組織的に幼児を誘拐し商売にしているグループへと向けられているからだ。つまり組織化された悪党たちが金儲けのために幼児誘拐を行っていたというわけで、その事実は衝撃的なのかもしれないけれど、ミステリーとしてはネタが割れてしまっているのだ。
 そして、エゴヤン監督特有の時間軸をシャッフルした手法はこの作品でも健在だったが、それがうまく活かされていたかは疑問だ。8年前の誘拐事件のときと、その6年後の愛娘を誘拐され夫婦仲が崩壊した時期、さらに現在の話へと次々と展開していくから混乱する人もいるかもしれない。
 こうしたシャッフルの手法は、それだけでは意味不明な断片がうまくつながったとき、見えなかった全体が浮かび上がって観客をハッとさせる。わざわざジグソーパズルのエピソードまで出しているのは、そうした手法に意識的だからだろう。エゴヤン作品のなかで個人的にお気に入りの『エキゾチカ』では、過去と現在を結ぶひとつの事件の謎が最後に明らかにされる。ジグソーパズルの最後のピースがはまり、途端に全貌がはっきりとするという見事な構成になっていたと思う。一方で『白い沈黙』は、「一体、誰が何のために」の答えはすでに提示されているわけで、時間軸のシャッフルという手法がはまっているとは思えなかった。

『白い沈黙』 舞台はカナダ・オンタリオ州。『スウィート ヒアアフター』でも印象的だった雪景色が広がる。

 というわけで観客の興味として残されているのは、キャスが両親の元へ帰れるのか否かということだろうか。これに関しては、犯人のマヌケぶりと父親マシューの愛で無理やり解決させてしまったわけで、かなりご都合主義な印象。前作『デビルズ・ノット』は謎が謎のままで終わってしまったわけで、その罪滅ぼしなのかもしれない。
 また、犯人たちが母親ティナの働くホテルを監視していたり、わざわざ両親に接近したりするのも腑に落ちない部分だった。娘を誘拐された親の姿を楽しむという嗜虐的な行為という警察の解釈もあったのだけれど、一方で娘キャスの言い分では母親の姿を見るというのが彼女の慰めだったとも思えるような台詞もあった。誘拐されたキャスは組織のリクルーター役で、彼女がネットを介して少女を集める仕事をしていたようだ。少女を釣るための物語のインスピレーションとして、母親の姿をキャスが必要としていたとも説明されるのだが、このあたりはよくわからない部分だった。
 というのは犯罪組織の仕事がほとんど描かれないからかもしれない。幼児虐待を追う刑事たちだが、映像としては幼児虐待の場面はまったく登場しないのだ(レーティングの問題?)。加えて言えば、誘拐されて成長したキャス(アレクシア・ファスト)はあまりに健康的だし、犯人たちも妙に清潔感があってビジネスマンめいている。組織的に少女を誘拐するという行為のおぞましい部分が感じられないのだ。雪が大地を覆ってすべてを白くしてしまうように、どろどろした部分は隠されてしまったようで、妙にキレイに終わってしまったのが残念だった。

 愛娘を誘拐される母親ティナを演じているのがミレイユ・イーノス。この人が登場するとそれだけで不安定な人間なんじゃないかと疑ってしまう。『サボタージュ』でもキレた目で大活躍していたし、『デビルズ・ノット』でも事件をかき回す役割を担っていて、その行動原理は理解不能なのだけれど、ミレイユ・イーノスの表情だとそんな人もいるだろうなと納得してしまうところがある。

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Date: 2015.10.18 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (8)

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