『夏をゆく人々』 終わったあとにじわじわとくる感じ

 第67回カンヌ国際映画祭のグランプリ作品。
 監督のアリーチェ・ロルヴァケルはイタリアの新鋭で、本作は長編としては2作目。ちなみに『眠れる美女』に出ていたアルバ・ロルヴァケルは彼女の姉とのこと。アルバ・ロルヴァケルも一家の母親役として『夏をゆく人々』にも出演している。

アリーチェ・ロルヴァケル 『夏をゆく人々』 長女ジェルソミーナと次女マリネッラのふたり。ジェルソミーナの顔には蜜蜂が……。

 養蜂家の父と娘が描かれるとなると『ミツバチのささやき』を思い出してしまうのだが、この作品は監督・脚本のアリーチェ・ロルヴァケルの自伝的要素を含んでいて、実際にアリーチェ・ロルヴァケルのドイツ系の父は養蜂を営んでいたようだ。
 『ミツバチのささやき』では少女が映画のなかのフランケンシュタインに魅せられていくが、『夏をゆく人々』では主人公ジェルソミーナが魅せられるのはテレビ番組「ふしぎの国」の女神様みたいなキャラクターだ。その女神をモニカ・ベルッチが演じている。海の泡のような白い髪ときらびやかな衣装で非現実的でとても美しいのだけれど、テレビという虚構の俗っぽさもある不思議なキャラだった。

 舞台はイタリア・トスカーナ地方。ジェルソミーナの家族は頑固親父のヴォルフガング(サム・ルーウィック)を中心に、母親と4人の娘と居候の叔母という構成。父親のお気に入りは長女ジェルソミーナ(マリア・アレクサンドラ・ルング)なのだけれど、彼女は大人になりかけの時期で、田舎の暮らしよりもほかの世界へと気持ちが動いている(テレビ番組「ふしぎの国」に出演したいと望むのもそんな気持ちから)。次女のマリネッラはちょっとぽっちゃりの母親大好きの甘えん坊。しっかり者の長女に比べると仕事をサボりたがるなまけ者でもある。下のふたりの妹はまだ幼く、ほとんど裸のまま夏を過ごしている。

 この作品ではある夏のジェルソミーナの体験が日記のように描かれていく。ジェルソミーナがこき使われる養蜂家としての仕事や、幼い妹たちがはしゃぎ回る水遊びなど、陽光溢れるイタリアの夏の生活がほとんど脈絡のない形で捉えられていく。ハチミツ作りでの大失敗も一時は大騒ぎになるけれどうやむやになってしまうし、ジェルソミーナが魅せられたテレビ番組への出演というイベントも、家族のいい思い出になったとも思えないまま終わる。
 一家には「少年更生プラン」のプログラムで、非行少年マルティンがやってきたりもするのだが、ジェルソミーナとマルティンの関係がとりわけクローズアップされるわけでもない。父親以外男手のない一家では、父親から頼りにされるマルティンという男手に対するジェルソミーナの嫉妬もあるし、その反面で強権的な父に対する反発もあって、ジェルソミーナの父親に対する複雑な感情も仄めかされる。ただそれでいてジェルソミーナの感情に寄り添うというよりは、どこか観客の感情移入を廃しているようにも思える。これはなぜなのだろうか?

『夏をゆく人々』 父親のヴォルフガングとまだ幼い下の妹たち。右端には母親役のアルバ・ロルヴァケル。

 この土地の近くには古代エトルリアの遺跡があり、そこが劇中のテレビ番組のロケ地となっている。エトルリアの遺跡は2000年以上も前のものだそうだ。ジェルソミーナ一家はその近くで伝統的な養蜂業を営んでいる。父親ヴォルフガングの意向で昔からの製法を守り続ける一家の生活にも変化はやってくる。近くの農地で使われた農薬で蜂がやられ、役所の規制は衛生面などに配慮した施設を要求してくる。一家の昔ながらの生活も長くは続かないのだ。
 エトルリア遺跡の洞窟でのジェルソミーナとマルティンの夜のシーンでは、映画は急に夢・幻のような雰囲気を漂わせる。洞窟の壁に映るふたりの影は、プラトンの「洞窟の比喩」の話を思わせる。われわれが見ていると思い込んでいるものは、「実体の影」にすぎないというわけだ。洞窟から家に戻ったジェルソミーナを家族一同が迎えることになるが、そうした家族団欒すらもすべて夢だったかのように思わせるラストは、“時の流れ”を一瞬にして感じさせて見事だったと思う。(*2)
 エトルリアの人々が遺跡だけを残して消えていったように、ジェルソミーナたちが去ったあとには廃墟のような邸宅だけが残されている。ラストでこれまで描かれてきたことがすべて過去のことだったと明らかにされるのだ。
 ただ、この視点は成長したジェルソミーナが過去を振り返っているというわけではないだろう(そうだとすればもっとノスタルジックなものになる)。個人の視点というよりは、“時の流れ”を超越したような存在からの視点と思えるのだ。だからジェルソミーナの様々なエピソードも、どこか感情移入を廃するよう描き方になっていたのだ。少女の夏の出来事という形式を採用してはいても、主題は“時の流れ”のほうにあったからこその手法の選択だったのだろうと思う。

(*1) 映画のなかには時代背景を示すものはあまりない。公式ホームページによれば、ジェルソミーナとマリナッラが踊るヒット曲(曲名は不明)は90年代のものとのことで、90年代が想定されているのかもしれない。

(*2) カメラがパンするだけで時の流れを表現するというのは、アンゲロプロスの作品などではもっと優雅な感じで披露されていたように記憶しているが……。

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Date: 2015.09.06 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (0)

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