『奪還者』 他人を押しのけてまで生きたい理由とは?
「『マッドマックス』以来の最高の世紀末映画!」とタランティーノからお褒めの言葉をいただいている作品とのことだが、劇場はガラガラだったからあまり話題にはなっていないらしい。
監督は『アニマル・キングダム』が絶賛されたデヴィッド・ミショッド(『アニマル・キングダム』は今回DVDで鑑賞したが素晴らしかった)。
オーストラリアを舞台にしたある種の世紀末を描くというあたりは『マッドマックス』を思わせなくもない。ただ『マッドマックス』のような熱狂はなく、『奪還者』はひたすらに重苦しいために観客を選ぶ作品でもあるだろう。
『奪還者』の世界も『マッドマックス』と同じように、かつての秩序はすでにない。この世界では経済が破綻して、人々はそれぞれに銃で自らの身を守るという状況にある。主人公のエリック(ガイ・ピアース)はかつて不倫をした妻とその相手を殺害したのだが、警察組織がなくなったのか逮捕されることもない。殺人という大罪を犯したにも関わらず、その罪を贖わせるべき社会が機能していないのは、エリック本人にとっても予想外だったようだ。もう人生が終わったものと覚悟していたのに、さらに生かされることになったわけで呆然としているのだ。
冒頭、エリックが車のなかで佇んでいる。ただ空虚を見つめているといった風情はエリックが抱える深い絶望を予感させる。そんなエリックだが自分の愛車を強盗たちに奪われたことで、突然目覚めたように行動に移る。愛車を取り返すという一念だけがエリックを動かしている。一度は強盗たちに返り討ちに遭うものの、追跡の途中で強盗たちの仲間レイ(演じるロバート・パティンソンは傷ついた子犬みたいだった)を見つける。レイは強盗の際にケガをして見捨てられたのだ。エリックはレイを脅し、愛車を奪ったレイの兄たちを追跡することになる。

エリックがなぜそこまで愛車に執着するのかはわからない。とにかくエリックにとってはその目的だけがすべてで、もはや善悪の見境はない。銃を買おうとしてオーストラリアドルを拒否されると、ためらいもなく売り手を撃ち殺してしまうし、旅の過程でエリックを邪魔するものは次々と死体となって転がることになる。
一方のレイは家族である兄に見捨てられたことを信じられないでいるが、エリックと行動するうちにそうした狂った世界で生きていく術を学んでいく。「闘わなければ死ぬぞ」というのがエリックの教えだ。
デヴィッド・ミショッドの前作『アニマル・キングダム』でも、主人公の青年は動物のような弱肉強食の環境のなかに投げ込まれ、良くも悪くもその環境に適応していく。『アニマル・キングダム』では家族が窃盗団という状況で、家族といることは悪に染まることだったが、他方には主人公を真摯に助けようとする正義漢の刑事(これもガイ・ピアースが演じている)もいた。しかし『奪還者』では、強盗団の兄にしても、「人生終わっている」エリックにしても、どちらもまともではない。というよりも世界が異常なわけだから、それに適応しようとすればまともでいられるわけもないのだ。
レイは最後に兄を発見すると、その兄に銃を向ける。兄は「いったい弟に何をしたんだ?」とエリックに叫ぶ。エリックに感化されたレイはそれまでとは変わったわけだけれど、かつては悪い仲間でも信じるものがあったわけで、エリック側に寝返ることがよかったのかどうかは疑問だ。エリックが教えたのは真実かもしれないが、そうやって生きていくことはかなりきついことだからだ。
エリックは関係のない他人を殺してまで生き残り、なぜ愛車を取り戻したかったのか。それはラストで明らかにされる。しかし、それに観客の多くが納得させられるかどうかはわからない(人間的だとも言えるけれど)。そうまでした結果が途轍もなく虚しいものだと感じさせられることになるかもしれない。事を成し遂げたあとにエリックが見せる涙はそうした類いのものだったようにも思えるのだが……。


監督は『アニマル・キングダム』が絶賛されたデヴィッド・ミショッド(『アニマル・キングダム』は今回DVDで鑑賞したが素晴らしかった)。
オーストラリアを舞台にしたある種の世紀末を描くというあたりは『マッドマックス』を思わせなくもない。ただ『マッドマックス』のような熱狂はなく、『奪還者』はひたすらに重苦しいために観客を選ぶ作品でもあるだろう。
『奪還者』の世界も『マッドマックス』と同じように、かつての秩序はすでにない。この世界では経済が破綻して、人々はそれぞれに銃で自らの身を守るという状況にある。主人公のエリック(ガイ・ピアース)はかつて不倫をした妻とその相手を殺害したのだが、警察組織がなくなったのか逮捕されることもない。殺人という大罪を犯したにも関わらず、その罪を贖わせるべき社会が機能していないのは、エリック本人にとっても予想外だったようだ。もう人生が終わったものと覚悟していたのに、さらに生かされることになったわけで呆然としているのだ。
冒頭、エリックが車のなかで佇んでいる。ただ空虚を見つめているといった風情はエリックが抱える深い絶望を予感させる。そんなエリックだが自分の愛車を強盗たちに奪われたことで、突然目覚めたように行動に移る。愛車を取り返すという一念だけがエリックを動かしている。一度は強盗たちに返り討ちに遭うものの、追跡の途中で強盗たちの仲間レイ(演じるロバート・パティンソンは傷ついた子犬みたいだった)を見つける。レイは強盗の際にケガをして見捨てられたのだ。エリックはレイを脅し、愛車を奪ったレイの兄たちを追跡することになる。

エリックがなぜそこまで愛車に執着するのかはわからない。とにかくエリックにとってはその目的だけがすべてで、もはや善悪の見境はない。銃を買おうとしてオーストラリアドルを拒否されると、ためらいもなく売り手を撃ち殺してしまうし、旅の過程でエリックを邪魔するものは次々と死体となって転がることになる。
一方のレイは家族である兄に見捨てられたことを信じられないでいるが、エリックと行動するうちにそうした狂った世界で生きていく術を学んでいく。「闘わなければ死ぬぞ」というのがエリックの教えだ。
デヴィッド・ミショッドの前作『アニマル・キングダム』でも、主人公の青年は動物のような弱肉強食の環境のなかに投げ込まれ、良くも悪くもその環境に適応していく。『アニマル・キングダム』では家族が窃盗団という状況で、家族といることは悪に染まることだったが、他方には主人公を真摯に助けようとする正義漢の刑事(これもガイ・ピアースが演じている)もいた。しかし『奪還者』では、強盗団の兄にしても、「人生終わっている」エリックにしても、どちらもまともではない。というよりも世界が異常なわけだから、それに適応しようとすればまともでいられるわけもないのだ。
レイは最後に兄を発見すると、その兄に銃を向ける。兄は「いったい弟に何をしたんだ?」とエリックに叫ぶ。エリックに感化されたレイはそれまでとは変わったわけだけれど、かつては悪い仲間でも信じるものがあったわけで、エリック側に寝返ることがよかったのかどうかは疑問だ。エリックが教えたのは真実かもしれないが、そうやって生きていくことはかなりきついことだからだ。
エリックは関係のない他人を殺してまで生き残り、なぜ愛車を取り戻したかったのか。それはラストで明らかにされる。しかし、それに観客の多くが納得させられるかどうかはわからない(人間的だとも言えるけれど)。そうまでした結果が途轍もなく虚しいものだと感じさせられることになるかもしれない。事を成し遂げたあとにエリックが見せる涙はそうした類いのものだったようにも思えるのだが……。
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