『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』 巨人は何のメタファー?
監督は『ガメラ 大怪獣空中決戦』『ガメラ2 レギオン襲来』などの特撮監督であった樋口真嗣。樋口監督は来年公開予定の『ゴジラ』の新作でも監督をすることが決まっているとのこと。

舞台は巨大な壁に囲まれた世界。その壁は100年以上前の巨人の侵攻をきっかけにして築かれたもの。100年の間に巨人たちは伝説と化していた。主人公のエレンたちも巨人の存在を信じることはなく、壁の外の世界に思いを馳せていた。しかし、ある日突然、巨大な壁をも越えるほどの巨人が現れ、それまでの平和な時代は終わることになる。
テレビアニメやCMなど大々的なメディアミックス戦略もあってか、この映画版『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』もスタートダッシュでの興行収入もかなりなもので、予想では50億円を超えが見込めるとか。その反面、実際に映画を観た人の評価は著しく低い。ひとつには原作漫画を大きく改変している部分があるからだろう。
原作では主人公エレン(三浦春馬)の守護天使だったミカサ(水原希子)だが、映画版ではエレンの想い人みたいな存在になっている。それをシキシマ(長谷川博己)に奪われ、エレンは頭を抱えて泣き叫ぶ……。そんなふうに登場人物の人間関係まで大胆に変更しているあたりは、原作ファンから集中砲火を浴びているようだ。
私自身は原作漫画を一度だけ読んだという程度の生ぬるいファンなので、そのあたりは気にはならなかったのだが、巨人の造形が明らかになるところでずっこけた。最初に登場する超大型巨人は「人体の不思議展」の筋肉むきだし模型のようでカッコいいのだけれど、それが消えたあとに登場する通常サイズの巨人たちは裸の人間にしか見えなかったからだ。
通常サイズ巨人が登場する場面では、それを見つめるエレンたちと見られる巨人とが「切り返し(リヴァース・ショット)」で捉えられている。人間も巨人も画面上では同じサイズとして登場するために、巨人たちも人間と変わらぬサイズに感じられてしまい、色艶の悪い妖怪みたいにしか見えなかったのだ。もちろん超大型巨人の穿ったデカい穴から入ってきたのだから、そのサイズ感は明らかだろうという言い訳もあるとは思うけれど、最初くらいはその巨大さを強調してもよかったんじゃないかと思う。
巨人たちがエビフライでも食べるように人間をむさぼり喰らう場面は残酷なのだけれど、ふとした拍子に人間っぽいところが見えてしまう。油断するとちょっと笑えてきてしまい、薄気味悪い部分は感じられても、原作にあったかもしれない絶望的な気持ちにまでは至らなかった。

そもそも脚本に参加しているのが映画評論家の町山智浩というあたりからも、この作品の方向性はマニアックな特撮映画といったあたりにあるのだろう(私は偏った映画ファンなので、そっちの方面はほとんど知らないけれど)。町山智浩は雑誌『映画秘宝』の初代編集長であり、『映画秘宝』は文芸作なんかよりも特撮ものだとかホラーやエログロなんかを特集しているわけで、そんな意味でもマニアックなファンに向けて作られた部分があるのだと思う(どことなく円谷プロの「ウルトラマン」みたいな懐かしさがあった)。そんな趣向の作品が、メディアミックスの超大作的な宣伝で登場したものだから、ハリウッドの娯楽作をイメージしていた一般的なファンはそのギャップについていけなかったのかもしれない。
そんなわけで悪口ばかりが目立つようにも思えるけれど、後半になると立体機動装置が登場して、人間たちも巨人に対抗する手段を得る。その動きは日本版『スパイダーマン』のようでもあり、それ以上に自由に空中を飛び回り、巨人たちをズバズバと切り裂いていくあたりは爽快だった。
とりあえずこれは前半戦。エレンに起きた出来事はいったい何なのか、爆弾を盗んでいった反乱分子たちはどこに関わってくるのか、そんな様々な謎を残したままだけに、9月の後半戦を楽しみに待ちたいと思う。原作漫画もまだ終わっていないなかで、巨人の存在の謎にどんなふうに答えてくれるのだろうか。
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原作漫画『進撃の巨人』

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