『ぼんとリンちゃん』 “肉便器”救出作戦の顛末は?

 昨年の劇場公開では観逃したのだが、一部でとても評判がよかったようで気になっていた作品。先月にDVDがリリースされた。
 監督は『ももいろそらを』小林啓一

小林啓一 『ぼんとリンちゃん』 オタクのふたり組を描いた作品らしいポスターになっている。


 16歳と62カ月を自称する女子大生“ぼん”(佐倉絵麻)と、彼女を慕う美少年“リンちゃん”(高杉真宙)は、ボーイズラブ好きのオタクな幼なじみ。ふたりは彼氏にDVを受けているらしい友人“肉便器”を救出するために東京へ向かう。もうひとり冴えないアニメオタク“ベビちゃん”(桃月庵白酒)も加わって救出作戦はスタートする。

 『ぼんとリンちゃん』では、「コミックとらのあな」とかメイド喫茶なんかを舞台に彼女たちの会話が続いていくのだけれど、ごく普通の映画ファンとしてはちょっと戸惑う。“ぼん”はアニメとかゲームのキャラになって意味不明の台詞を口走るし、3人の妙なコミュニケーションは普通の人にはなかなか馴染みにくいものだからだ。
 “ぼん”はボーイズラブ(BL)の同人誌を描いていて、“リンちゃん”はその弟子だ。“リンちゃん”は“ぼん”を「ねえさん」と呼び、“ぼん”は“リンちゃん”をペットみたいに扱っている(宮崎アニメのペットの名前で呼ばれたりもする)。ふたりの師弟関係も奇妙だが、“ぼん”は42歳の中年“ベビちゃん”を前にしても、平気な顔で「肉棒」とか「アナル」などと言って反応を楽しんでいる。というよりも、それが日常のことで何とも思ってないらしい。ちなみに言えば、“ぼん”は耳年増になっているだけの処女であり、“リンちゃん”も童貞、“ベビちゃん”も未だに素人童貞というなかなかのトリオなのだ。

 この作品に描かれているキャラが現実に存在するオタクと似ているのかはわからないのだけれど、妙にリアリティがあるように感じられる。“ぼん”というキャラは、「オタクというキャラを演じている女の子」みたいに見えるのだが、メディアで見かけるオタクもそんなふうに見えるからだ。また、脇役として“ぼん”と“リンちゃん”の妹たちが登場するが、彼女たちはオタクをこじらせた姉と兄を醒めた目で見守っているのだが、そんな女子高生の姿も妙にリアルなのだ。
 監督・脚本の小林啓一がオタクなのかどうかは知らないし、女子高生の生態に精通しているのかもわからないけれど、若者たちのごく自然な振舞い演出するのが非常にうまいようだ。前作の『ももいろそらを』を観てみると、こちらの女子高生たちも別世界の住人みたいでいて、その煩わしそうな関係性とかは妙にリアルだった。

『ぼんとリンちゃん』 “ぼん”と“リンちゃん”は“肉便器”救出のために奔走する。

 そんなオタクの“ぼん”だが、“肉便器”ことみゆ(比嘉梨乃)に近づくにつれて様子が変っていく。みゆもBL好きのオタク仲間だったのだが、彼氏が出来て現実世界に出て行ってしまったのだ。“ぼん”は汚れた現実世界から元の世界へと戻るように説得を試みる。3人のときはオタクごっこに終始していた“ぼん”も、彼女をキャラの名前ではない「なっちゃん」と呼ぶ幼なじみと会うと調子が狂うのかもしれない。
 みゆと“ぼん”の対決シーンは10分以上も続く長回しになっている。デリヘルで稼いでいるみゆは「お客さんが喜んでくれることが楽しい」と言うのだが、“ぼん”はアニメや古今亭志ん生なんかの他人の言葉で説得を試みる。みゆはそんな知識はなくても経験で世間のことを学んでいるわけで、そうした古臭い知識に説得されるわけもない。
 逆に“ぼん”が「傷つくことを恐れているだけ」と指摘する。考えてみれば、BLでは女の子は排除されているわけで、女性読者は自分を当てはめる対象がない。その分、純粋な空想としてあるいは他人事として楽しめるわけで、登場人物に感情移入して自分が傷つく心配もないのだ。

 長い長い対決シーンで次第にわかってくるのは、“ぼん”はオタクキャラを取り払ってしまえば、友達想いの意外に堅い女の子だということかもしれない。切羽詰った状況に自分を飾っていたキャラが剥がれ落ちて、素の部分が露呈してしまうのだ。最初はまったく別の世界の人を見るような目で彼女を眺めていたわけだけれど、急に近しい存在に感じられてくるところがとてもよかったと思う。
 みゆの反論に“ぼん”のほうが主義主張を変えるようなショックを受けたようにも思えるのだけれど、最後には「アナルは出口でなく入口だよ」などと見得を切ってみせる“ぼん”はこじらせた感がいっぱいで、まだまだオタク卒業には時間がかかりそうな気もする。

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Date: 2015.07.22 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (0)

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